街歩き。リサーチ。原稿書き。ローカルのアーユルヴェーダ診療所探訪。そんなことをやっているうちにも、瞬く間に過ぎていくムンバイ・ウイーク。二重生活もまた、なかなかに楽しい。さて今日は、ここ数日の食生活のことを記録しておこうと思う。
●Breakfast@Tiffin/ Oberoi
インドの高級ホテルグループ、たとえばタージ (Taj)、オベロイ (Oberoi)、リーラ(Leela)と、わたしの知る限りにおいて、朝食のブッフェはとても充実している。
新鮮な果実や野菜のジュースにはじまり、各種ティー。ヨーグルトに多彩な果物。シリアルやペイストリー類。コンチネンタルメニューのほかに、インド料理も豊富だ。更には卵料理やパンケーキ、ワッフル類、ドサ(南インドの米・豆粉製パンケーキ)などの「温かな料理」を、アラカルトで注文することもできる。
さて、我々が滞在しているムンバイのオベロイは、並んでいるブッフェに「温かい料理が含まれていない」ところが、意外に気に入っている。フルーツやシリアル、チーズや生ハム、ペイストリー類だけが並んでいるので、ひとまずは「取り過ぎることがない」のだ。
温かい料理は、アラカルトとして注文する。つまりは作り立ての新鮮な料理を味わえる。
先日も記したが、メニューにないものでも、頼めば作ってもらえるところがいい。たとえば、卵に添えるハッシュドポテトのかわりに、アスパラガスのグリルを頼んだり、各種野菜のスチームを頼んだり。
飲み物も、キャロットジュースを砂糖なしで、とか、紅茶のポットにジンジャーのスライスをいれて、といった具合に注文できる。ちょっとした工夫でかなりヘルシーな食事を実現できるのだ。
日本人にとってバターミルクはなじみの薄い飲料だと思われるが、インドでは一般的なヘルシードリンク。
バターを作る際に発生する水分(乳精)が即ちバターミルク。
さっぱりとした味わいだ。
欧米でもスーパーマーケットでよく見かける。
パンケーキを作る際、水の代わりにバターミルクを用いて粉を溶くと、パンケーキがしっとりモチッとした食感になってとてもおいしいのだ。
米国時代はバターミルクを使ってよくパンケーキを作った。
バターミルクがない場合は、粉を牛乳ではなく水で溶き、ヨーグルトをスプーンに1、2杯加えると同様の効果が得られる。お試しあれ。
さて、食事もさることながら、このダイニングのインタナショナルな雰囲気がまたいい。
きりりとスーツ姿の男たち、あるいはビジネスファッションの女性たちが颯爽と訪れ、一人で、あるいは二人でテーブルに着く。
インド人のマネージャーのゲストへのサーヴィスもまた、ぬかりない。
フランス人客にはフランス語で挨拶をし、話しかけるなど、スマートな対応が印象的だ。
離れたテーブルで、夫がブレックファストミーティングをしているところを眺めるのもまたをかし。
食後のコーヒーを飲みながら、新聞を開いたり、人々の様子を見るともなしに眺めたり、そんな朝のひとときを過ごして一日を始める。
オベロイでは、これまでラウンジにある上記のダイニングTiffinでしか食事をしたことがなかったのだが、初日は夫の勧めに従って、Kandaharというアフガニスタン料理店へ赴いた。
広い窓越しに、「真珠のネックレス」と形容される、弧を描いた湾に沿い走るマリンドライヴの灯りが見える。
メニューの内容は、北インド料理とほとんど同じだ。
軽めにタンドーリチキンとホウレンソウのカレー、そしてナンを頼んだ。
久しぶりに食べるタンドーリチキンは、スパイスがほどよくマリネされておりジューシーで、炭火の風味が香ばしく、非常に美味。
油脂を控えめにと頼んだホウレンソウとコーンのカレーもまた、インドのレストラン料理にしては非常に軽めの味わいで、タンドーリチキンともよく合い、とても満足であった。
インド料理もチャイニーズ同様、多めの人数でさまざまな料理を注文し、少しずつ味わうのが楽しい。
二人だと、せいぜい2、3種類が精一杯なのが残念なところだ。
ところで周囲を見回せば、ほとんどがビジネスディナーのグループ。
一つのテーブルに、インド人、欧米人、東洋人とが同席しているところも少なくない。
隣のテーブルでは、やはりインド人、欧州人(英国か?)、日本人のグループが、賑やかに祝杯をあげており、なにやら「商談成立」の華やいだ雰囲気が漂っている。
自分は、特に何をしているわけでもないのだが、こうして動きのある世界を目の当たりにできることが楽しい。
ムンバイでイタリアンと言えば、一つ覚えのようにIndigoに通っていた。
The Taj Mahal Palace(ホテル)の裏手にある、これまでも幾度か書き記して来た店だ。
店の雰囲気もいいし、料理もインドにしてはかなりおいしいので気に入っていたのだが、今回はホテル内の他のレストランも試してみようということになり、Vetroに入った。
一画にはバー、一画には大きなガラス越しにキッチンが見えるコンテンポラリーな内装。Kandaharよりもプライヴェートな雰囲気が漂っている。
今夜も軽めにと、前菜のクロスティーニとカルパッチョ、それにシーフードのパスタの三皿を注文。
インドのいいところは、そこそこ高級な店でも、前菜とメインをそれぞれ一人が一つずつ頼まなければならない、という雰囲気がないことだ。
それがチャイニーズだろうがイタリアンだろうが、まるでインド料理をサーヴするがごとく、ウエイターが個々のゲストの皿に取り分けてくれる。
灯りが暗いこともあり、料理の写真はあまりきれいではないのだが、その味わいは、予想を大きく上回る、たいそうなおいしさだった。
インドで食べたイタリアンの中では、一位に急上昇である。
特にクロスティーニに載った生ハムやフォアグラ。抜群である。カルパッチョも美味! ホームメイドのパスタはこしがあり、これまたおいしい。
あまりにもおいしかったので、ウエイターにシェフは誰ですかと尋ねたところ、キッチンからシェフを呼んで来てくれた。お忙しいところ申し訳ない。と思いつつも、簡単に質問を。
ローマ出身のイタリア人シェフで、ローマの名門ホテル、ハスラーや、ロンドンのホテルを経て、ムンバイへやって来たとのこと。
若くて、ちょっとシャイな雰囲気の彼によると、素材は9割をイタリアから取り寄せているのだという。パスタの小麦粉もイタリア製を使って作っているのだとか。
インド食材を愛好する者として、素材の9割もをイタリアから、というのが少々残念に思えたが、それでも美味なのだから残念がっている場合ではない。なお、フォアグラは当然ながらフランス産だとのこと。
夕飯は軽く、と言いながら、料理がおいしかったので、デザートも一品、頼んでみることにした。
各種デザートのサンプラーを。
それぞれのデザートの説明を、真剣に行うウエイターと、真剣に聞き入る夫。
このデザートは、フランスで修行したインド人ペイストリーシェフによるものらしいが、これがまたインドにしては抜群においしかった。
特にティラミス、そしてアイスクリーム。
添えられた焼き菓子ですら、濃やかな味わいで、驚いた。
ちなみに気になるお値段だが、高級食材を使っている割に、高すぎない。しかし高すぎる値段になる日が来るもの近い予感がする。今がチャンスかもしれない。
翌日の夜は、夫の帰りが遅かったのでルームサーヴィスを頼んだ。
ルームサーヴィスは、ホテル内の各レストランの一部メニューを注文することができるのだが、今夜もまた、Vetroの料理を頼むことにした。
ランチが重かったので、パスタと野菜を一つずつ頼み、分けることに。
野菜はメニューになかったが、適当な野菜をグリルしてと頼んだら、アスパラガス、ニンジン、インゲン、ホウレンソウなどのグリルを用意してくれた。
今日のシーフードパスタは昨日と異なるものだが、これまたおいしい。このリングイニも、やはりホームメードだ。
結局、その翌日も、夫が仕事のあとにスパでマッサージをしてもらったためルームサーヴィスを、ということで、またしてもVetro。
イタリア旅行をしているときでもない限り、3晩連続してパスタを食べるということはほとんどないから、よほどおいしいと思っているのかもしれない。
パスタと野菜のほかに、今日はクロスティーニを頼もうと思う。
しかしルームサーヴィスのメニューには載っていない。
担当の女性に作ってもらえないかと確認したところ、またしてもシェフに電話を代わってくれるという。わたしたちって何様? というものである。
お忙しいところ申し訳ない。
シェフ曰く、先日と同じ素材はないけれど、違うアレンジでおいしいクロスティーニをお作りしますよ、とのことである。右写真の細長いプレートに盛りつけられた料理がそれだ。
プレゼンテーションも美しく、これもまたおいしい味付けであった。
●Lunch@Samrat/ Churchgate
朝、夜と食事が充実しているので、本来はランチをしっかりがヘルシーなところであるが、ランチは適当にすませている。
夫はオフィスのセキュレタリーに頼んでオベロイのショッピングアーケード内にあるカフェテリアでサンドイッチを買って来てもらい、食べているようだ。
わたしも同じカフェを利用したり、或いは外出途中に見つけたカフェやベーカリー、あるいはファストフードですませたりもする。
上の写真は、今回の滞在中、一度だけ夫と一緒にグジャラティ・ターリー(グジャラート地方の定食)の店へ行ったときのもの。ホテル、オフィスから歩いて10分ほどの場所にある、わたしのお気に入りの店、Samratだ。夫もなかなかに気に入った様子。
どんどんお代わりをついでくれるので、食べ過ぎてしまうのが玉に瑕だが、ヴェジタリアンで、そこそこヘルシー。バターミルクやデザートもついている。
ムンバイのホテルライフ。なかなかに充実した食生活を送ることができ、幸いである。