ニューヨークの友人を介して、東京のテレビ番組制作会社のプロデューサーSさんから、取材依頼の連絡があったのは、2月中旬のことだった。
いただいたメールによると、番組の主旨は「国際結婚され世界で成功を収められている女性を取材」だという。また、内容の大きな要素は「現在の日常生活を拝見」と、「これまで歩んできたプロフィールの紹介」の2点だとのこと。
成功を収めるもなにも、わたしはまだ「道中」で、どこにも到達していない。登場人物に、そぐわないのではないか。しかも番組のタイトルは「世界に嫁いだ華麗なる日本女性」だという。華麗。カレーならまだしも、華麗。
(※最終的にタイトルは「世界に嫁いだ日本人女性 密着!海外ライフ」に変更されたらしい。よかった。)
日本のテレビ番組を見なくなって久しいが、番組の内容についてはなんとなく想像がつく。「ゴージャス」とか「セレブ(リティ)」といったキーワードが頻発するようであれば、わたしはいよいよ、該当者ではない。
尤も、たとえ実際に暮らしぶりが「ゴージャス」だったとしても、それを世間にアピールするのは、我々夫婦の本意ではない。
しかしメールは、「今までに6回このシリーズを制作しており、計30人以上の方が出演されています。中にはゴージャスな暮らしぶりが際だつ方もいらっしゃったと思いますが、それが番組の主目的ではありません」と続いている。
「仕事ぶりをメインに紹介した方もいらっしゃいます。その方が現在に至るまでどんな人生を歩まれ、どんな生活を築かれたかを取材し、視聴者に紹介できたらと考えています」ともある。
42歳の我。未だキャリア構築中の身の上で、テレビで大っぴらに取材・紹介されることについては、憚られる思いもある。
一方、わたしの暮らしを通して、インドの素顔の「ごく断片でも」を、知ってもらいたいという気持ちもある。日本で語られるインドと言えば、ガンジス川だのターバンだのカレーだのカーストだのといった紋切型なパターンに加え、最近では、インド経済、インド株、インド式算数など、そのバリエーションが増えて来たようで、実はやっぱり、偏りが著しいように思う。
無論、インドに住んでいれば住んでいるで、「インドが」「インド人が」と不満を炸裂させている人が多数で、この国のよさをわかろう、知ろうとしている人の方がはるかに少ない。知りたくもない、一刻も早く脱出したいという気持ちも、わからないでもないけれど。
どんな国にも善し悪しがある。善し悪しの「悪し」が度を過ぎていたとしても、光と影のように、「善し」は必ず、そこにある。
インドのよさ、インド家族のすばらしさなど、前向きな部分をも、わたしの生活を通して知ってもらいたいとも思う。更には、敢えて米国での生活を離れてインドへ来たその理由についても、読みとってもらえればとも思う。ともあれ、翌日に電話で相談させてもらうことにした。
約束の時間に電話をくださったプロデューサーのSさん(女性)は、とても感じのよい方で、こちらの思うところをすぐに理解してくださった。ともかくは前回の番組の記録を見た上で、最終的な返事をさせていただくことにし、DVDを送ってもらうことにしたのだった。数日後届いたDVDを早速見る。そこには以下のコピーが冠された、5名の女性が出演していた。
「嫁ぎ先は大富豪!!香港マダムのゴージャス生活」
「ローマで情熱生活 超多忙のおしゃれ妻」
「アフリカに白亜の豪邸!ワイン農園の痛快女主人!」
「アメリカに日本庭園!熱愛夫婦の成功秘話」
「アジアの辺境ブータン!名家に嫁いだ美人妻」
……。
予想通りの展開である。「東京ドーム54個分の敷地」とか「リビング50畳」(「畳」を単位としているところが味わい深い)とか、「800万円の指輪」とか……。
「高価に見えるが実は安価なインド製品」を発掘し、購入することに醍醐味を覚えているわたしには、やはりふさわしくないように思える。
しかも登場するすべての女性たちに「ひとかたならぬ苦労話」があり、5人中4人に涙を流すシーンあり! なのだ。泣かねばならぬのか? 過去の苦労話の大半が、「笑い話」と化しているわたしには、思い出して泣けるネタはない。というか、泣きたくない。
今回、声をかけていただいたのは、非常に光栄なことだ。しかし、わずか15分とはいえ、本意ではない形で自らを紹介されてしまうことになっては困る。メリハリとして涙は必要なのかもしれないが、それを望まれたら困る。どうしたものか。テレビは編集次第で、いかようにも主旨が変えられる。やはり不安だ。(※取材中「お涙シーン」を望まれることはなかった。助かった。)
夫に相談したところ、「番組に紹介されることは、美穂にとってもいい結果になるに違いないから、ぜひ取材を受けるべきだ」と勧めてくれる。わたしよりもむしろ、ストレートにうれしそうだ。
基本的には、あれこれとプライヴェートな事情に立ち入られることを好まない彼が後押しをしてくれるのだから、前向きに考えようと、お受けすることにしたのだった。
■テレビ東京:日曜ビッグバラエティ「世界に嫁いだ日本人女性 密着!海外ライフ」
■系列:テレビ北海道、テレビ愛知、テレビ大阪、テレビせとうち、テレビ九州
■4月13日(日)午後8時(わたしは2人目らしいので、8時15分頃か)