あちこちへ飛び回る機会が多くなれば多くなるほど、庭があるこの家のありがたみを痛感する。夜遅く帰宅してのち、月を星を見上げながら、緑の香りを帯びたそよ風を受けながら、ゆるゆると庭をあるくひとときの心地よさ。
午は午で、庭師が水を与えたおかげで緑は艶やかに生き生きと、蝶や昆虫の舞い飛んで、木枝のそよぎを仰ぎ見て、たとえ束の間でも深く浄化させられる心身。
ところで、左の写真は、数週間前より我が家の水辺に住み着いているカエルだ。
我が家のペットの中でも、最も登場頻度が高い存在である。
去年の水浴びガエルや、カーミットとは違う種類である。カエルに詳しくはないのだが、なんとなく「ガマガエル?」な気がしたので「ガマオ」と名付けた。今回は妻による命名である。
ガマオはカーミットに比べると、四六時中、水辺にいる。
朝な夕なに、そこにいる。
水に浸かっていることもあれば、蓮の葉に座っていることもある。
葉影で息をひそめていることもある。
そうして夜になるとかなりけたたましく、鳴く。
夫は、ときとして「ガマオ」を「ゴマオ」と呼ぶ。
が、それはさほど重要な間違いではない。
さて、先日のある夜。あまりにもけたたましい鳴き声が、部屋の中まで響き渡って来る。とても一匹のカエルとは思えぬ、よく聞けば二重奏だ。
ガマオは、ガマオだけはなかった。同じようなのがもう一匹いた。
ガマコである。
道理で、しょっちゅう見かけると思った。きっとニ匹が入れ替わり立ち替わり、ここへ来ていたのだ。
と、ふと葉陰を見たら、なんともう一匹いるではないか!
ガマミである。
道理で、しょっちゅう見かけると思った。きっと三匹が入れ替わり立ち替わり、ここへ来ていたのだ。
こうなったら、彼らの「正式名称」くらいは知っておくべきだろうと、インターネットを駆使して調べたところ、「ヌマガエル」ということがわかった。
英名をIndian Rice Frog、学名をRana (Limnonectes) limnocharis limnocharisというらしい。「沼の女神」という意味らしい。なんとなく、名前負けしている気がしないでもない。
「ピンセットからも餌(コオロギ)を食べます」ともあった。そんな大きな昆虫を食べるのか。
試しに、割り箸でハエをつまんで口元にもっていった。逃げられることもなく、相手にされることもなく。つまりは無視された。あまりお腹がすいていなかったのかもしれないし、お口に合わなかったのかもしれない。
それよりも、どうやってハエを割り箸でつまんだのか、疑問に思われる向きも多いだろう。秘密である。
本日のランチタイムは「日本的ドライカレー」であった。
もちろん使用する米は「日本米」だ。
さて、食事という段になって、夫婦は、ちょっとした口論を行った。
不機嫌になった夫は一人でぷんぷんとしながら庭へ食事を運び(ドライカレーとみそ汁)、食事をしていた。
そんな夫を無視して、妻はダイニングルームでやはり一人黙々と食べる。
と、視界の隅に、不穏な動きをする夫が見える。気になる妻。
立ち上がって庭へ出てみれば……。
緑色のオウムに指を差し伸べ、いかにも親し気に、黄色く染まりし日本米の米粒を与える夫。
いつのまに、そんな野鳥を手なづけてこの男は。
さすがミステリアスなところのインド人だ。
大急ぎでカメラを取りに行き、撮影する。
近づいても逃げない鳥。逃げないどころか、近寄ってさえ来る。
ドライカレーに入っていたトウモロコシを与えてみたが、あまりお好きではない様子。
贅沢にも、日本米のその米粒ばかりを食べる。
くちばしの周囲をべたべたにしながら食べている。
夫は夫で、次々と食べさせる。
いつまでも食べている。食べ過ぎというものである。
インドではあちこちで見られるところのこの野鳥。こんなに懐いて来たのは初めてだ。ひょっとしてどこかの家で飼われていたのだろうか。
狭苦しい空間に入り込んでもがくなど、間抜けな行動をとるところも、どことなくインド的な鳥である。
「病気が移ったりするといけないから、ちゃんと手を洗ってよね」
といいながらも、すでに口論していたことも忘れて夫婦。
ほのぼのと鳥の動きに眺め入る、穏やかな午後のひとときである。
彼が手を洗おうと部屋に入ると、ちょこちょこと彼のあとをついてきて、ダイニングルームを経て、バスルームにまで入って来たという。
かなり、フレンドリーな鳥である。
そのあとも、ダイニングルームで一人(一羽)遊んでいたらしいので、夫は付き合ってもいられず、書斎へと引っ込んだらしい。
また、遊びに来るだろうか。
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2005年11月のインド移住当初からは、ブログを用いて日々の記録を綴っています。過去の記事は、こちらからご覧いただけます。
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