いつものことだが、この街に来ると、まるで自分が並行して進む二つの世界に生きているような気がする。
インドに暮らしている自分と、ニューヨークで暮らしている自分。過去現在の距離感が不規則で、どのポイントが遠い過去なのか近い過去なのか、わからなくなるような感覚。
今、この街を歩いている自分を、とても身近に思う。バンガロールの自宅の庭で、緑の揺らぎ越しに空を眺める自分は、近いはずなのに、遠い。
水平線を境に、今はニューヨークが現れていて、しかし来週には、くるりと舞台が反転して転覆。バンガロールが水中から現れ、ニューヨークが水面に溶けてゆく。
歳月を重ね、歳を重ね、行こうと思えばどこへだって行ける。そう思うだけで、心が沸き立ち、力が漲り、励まされる。旅ができることの幸福。
ランチは、セントラルパークサウスに数年前オープンしたSARABETH'Sで。アッパーウエストサイド店は、ニューヨークに住んでいた頃、ときおりブランチに訪れたお気に入りの店だった。
SARABETH'S KITCHENやGOOD ENOUGH TO EAT。なぜだろう、とても魅力的に思えた店々。
フレンチトースト、ワッフル、バターミルクパンケーキ、ストロベリーチーズ、エッグベネディクト……。あのころの、ブランチに不可欠なキーワードが頭に浮かんで来る。
今日はチキン・シーザーサラダ(チキン多すぎ)と、クラブケーキのサンドイッチ。
クラブケーキといえばワシントンDC時代だ。チェサピーク湾で穫れるカニの肉を使った、コロッケのような食べ物。わたしもアルヴィンドも、とても好きだった料理の一つ。
当時、ホームページにも、何度か記したものだ。クラブケーキについてより詳しく知りたい方はこちらへどうぞ。
アルヴィンドが所用で打ち合わせに出かけている間、わたしは、靴を探しにアッパーウエストサイドを歩く。なんと呼べばいいのだろう。かかとが5センチから6センチほどあるものの、デザインはローファー風の、カジュアルすぎないウォーキングシューズ。
インドでは、サンダルを履く機会が多いので、あまり必要ないのだが、海外旅行の折などは外をよく歩くので、どこまでもスイスイと歩いて行ける、しっかりとした靴が必要なのである。
ところが最近は、このオーソドックスな靴が、なかなか見つからないのだ。目的としていた靴屋(ROCKPORT) は、HUNTING WORLD同様、なくなっていた。
さらに北上し、ブロードウェイに出て、VARDAという靴屋へ。この店の靴は、はやりすたりのない、スタンダードなデザインのものが主流。イタリア製のハンドメイドで、そこはかとなく靴に優しさが感じられる。決して華美ではないけれど、履き心地がよく、エレガントなのだ。
2足、気に入ったものを見つけたので買った。今買っておかなければ、少なくとも半年は、このような靴を買う機会がないのだから。
その後、ネイルサロンで手足の爪のお手入れと、上半身マッサージ(特殊な形状をした椅子に座らされる)をしてもらう。若干、リフレッシュ。
さて、今夜はミュージカル。アルヴィンドと合流して、カフェでコーヒーとペイストリーによる軽い夕食その1をすませたあと、喧噪のタイムズスクエアを通過して、シアターへ。
GYPSYという新しいミュージカル。GYPSYというタイトルに心引かれたし、オーケストラの演奏もよかったけれど、肝心のストーリーは今ひとつ、わたしの好みではなかった。とはいえ、演奏と、アクターたちの情熱はひしひしと聴衆に伝わって来て、心は沸き立つ。
シアターをあとにするころには11時。しかし夕食その1が軽すぎたので、その2が必要だということになり、ホテル近くのビストロへ赴く。
十数年ぶりに「キールロワイヤル」などを注文して、乾杯。ムール貝&ポムフリト(フライドポテト)を二人で分け合う。ベルギーの味。テラス席で、摩天楼越しの夜空を見上げながらのひととき。
12年前のちょうど今ごろ、わたしはマンハッタンに暮らし始めたのだった。
この季節特有のマンハッタンの匂いが、懐かしさを運んで来る。