写真の新聞記事。7月31日、トヨタ・キルロスカ・モーター(以下TKM)のバンガロール第2工場の起工式が行われたとのニュースである。写真はカルナタカ州首相イェドユラッパ氏とトヨタ本社の岡部氏が握手をしている図。背後に写っているのがキルロスカのCEO、ヴィクラム・キルロスカ氏。
記事によれば、バンガロールに日本のトヨタとインド財閥キルロスカの合弁会社である TKMが創業したのは1997年。1999年に生産を開始し、現在はカローラ、イノヴァを生産している。
現工場のキャパシティは年間生産台数60,000台で、2007年実績は52,000台。ちなみに合弁会社とはいえ、トヨタの持ち株は89%。
2010年に創業予定の新工場のキャパシティは年間生産台100,000万台。先日話題を集めたタタの1ラックカー(27万円の超低価格車)の競合ともなるべく、小型車を中心に生産するらしい。
現在のインド乗用車市場は、75%以上が小型車で占められており、そこに食い込む構えのようだ。現在、インド自動車市場におけるトヨタのシェアは3%だが、これを10%に引き上げることを目標としているとのこと。工場操業に伴っては、雇用も当然拡大され、数千人の増員が見込まれるようだ。
トヨタだけではなく、海外大手自動車メーカーの工場が、全国各地に次々と誕生し、生産台数を劇的に増やしている昨今。ちょうど、トヨタの記事の隣にも、その趨勢の一部が記されている。
"A dozen new small cars to arrive in 2 years"
1ダースもの小型車が、2年以内にインドに到来する見込み、とのことである。
すでに小型車を販売しているタタやヒュンダイ、マルチ・スズキに加え、ホンダ、フォルクスワーゲン、フィアット、フォード、そしてトヨタといったメーカーが、インド工場で小型車を製造開始するのである。
無論、インド国内向けばかりでなく、アジア諸外国への輸出を見込んでの生産であるが、「経済成長」「好況」の側面ばかりが取り上げられる、この類いのニュースを目にするにつけ、懸念を抱かずにはいられない。
本来は、インドの政府や、何らかの団体や、あるいはインド国内のメーカーが率先してやるべきであろうし、そういう動きもあるに違いないのだろう。
しかし、その動きに成果があるとは思われないので敢えて記すのだが、この国の交通ルールの「なさ」や、インフラストラクチャーの不備や、環境汚染の問題は、いったい今後、どうなっていくのか? 誰が改善してくれるのか?
具体的な数字は調べてみなければわからないが、この十年間でインド国内に増えた車の数は、半端ではない。自動車だけではない。オートバイやスクーターなど、二輪自動車の増え方もまた、すさまじい。そしてこれからも、猛烈な勢いで増え続けるだろう。
にもかかわらず、たとえば「つい最近まで田舎」だったバンガロールは、整備された道路が少ないばかりか、横断歩道や道路標識といったものが、ないに等しい。信号でさえ、まだ設置されていない交差点も少なくない。
十年前には、5分に1台、通るか通らなかった閑散とした道路に、今や数珠つなぎで車が行き交う。
ドライヴァーは交通ルールを知らない。教習所は一応あるが、どの程度を教育しているのかわからない。教習所といっても、練習用の敷地があるわけではなく、いきなり「路上運転」という乱暴さである。
欧米の「歩行者優先」の国から来た人たちは、100%自動車優先の道路事情に驚くだろう。街を歩けば、どれほど「いつまでも対岸へ渡れない状況」にいらいらさせられているかわからない。
交通事故死者の数は想像を絶する。バンガロールの街の中だけでも、1カ月に百人近い交通事故死者が出ているはずだ。負傷者を加えれば、百人など軽く超えている。全国規模で言えば何人になるのかはかり知れない。
ニュースになることもなく、消える命の多さといったらないのだ。
たとえばバンガロールでは、新空港が郊外にできたことで、ハイウェイ(らしきもの)が利用されるようになった。普段市街で飛ばせないドライヴァーは、ここぞとばかりにスピードを出す。危ない。危ないが、スピード制限の表示が見当たらない。
トラクターやバスなど、速度の遅い車が、考えなしに「高速車線」を走っている。それらの車を、左右から気ままに追い越しをかける自動車&バイク軍団。危なっかしいことこの上ない。
以前、母とマイソールまでドライヴしたときにも、事故に遭遇した。そのときの記事がこちらにあるので、「ぜひとも」目を通していただければと思う。
事故だけではない。排気ガスによる大気汚染も著しい。
車が増える前に、なんとかせねばならないことが、「山ほどある」のである。にもかかわらず、目に飛び込んで来るのは、各自動車メーカーの新型車の広告や新規工場設立のニュースなど、華やかな側面ばかりである。
国内外を問わず、自動車会社が自動車学校を設立したり、いっそ広告付きでもいいから道路標識を提供したり、できないものだろうか。
政府とのやりとりが著しく困難なインドにおいて、それが夢物語であろうことはわかっている。特に州政府によっては(カルナタカ州は悪評高い)、ビジネス進出に困難な環境も少なくなく、地元の環境まで慮ってはいられないのが実情であろう。
しかし、それをわかっていて、敢えて書く。進出して、作って、売る前に、現状の大いなる問題を解決するためのアクションを、ぜひとも起こしてほしいと。
あれこれと思い巡らせつつ記事に目を通した後、新工場起工式に際してのトヨタの企業広告を見つけた。目を通して、少し安心した。
上の写真の右側がそれだ。
「社会と、地球との調和」
「環境にやさしい工場」
といった小見出しが見られる。
新しい工場には太陽光や風力による発電を用いるほか、敷地内に大規模な植樹を行うなど、環境を保護しつつ緑化にも積極的に取り組むといった旨が記されている。
「人に優しい」「環境にやさしい」
聞き慣れた言葉であるにせよ、それらが守られて欲しいと、切実に願わざるを得ない状況である。人口十億人を超えるこの国が、他の先進国と同じ轍を踏みながら先進国化に向けて突き進んだら、環境破壊は、温暖化は、加速の一途である。
先進国は、経験と英知を発揮して、環境問題への取り組みも含め、進むべき「正しい道筋」を積極的に、大っぴらに喧伝し、そして実現して欲しいと願うばかりだ。
同じ新聞記事に、日本の武田製薬とインドのトーレント製薬が合併交渉に入っているとのニュースもあり、さらにその下には、第一三共製薬とランバクシー製薬の合併についての記事。
それらの件についても触れたいところだが、長くなり過ぎるので、今日はこの辺にしておく。