二都市生活となり、確かにすべての手間が「2倍以上」になったけれど、だからこそ得るものも2倍以上だと感じる。それぞれの場所で過ごす時間を、大切にしたいと思う。
本当は金曜の早朝、ムンバイへと発つ予定だったが、夫アルヴィンドのミーティングが金曜日にバンガロールでいくつか入ったので、急遽前夜に予定を変えて、今週末もバンガロールで過ごすことにしたのだった。
尤も明日日曜日の早朝、ムンバイへ向かうのだが、しかし丸々一週間を、夫とともにこうしてバンガロールで過ごしたのは久方ぶりのことで、非常にリラックスできた。
なにしろ、天候に恵まれた。わたしたちが戻ってくるころまでは季節外れの長雨続きだったようだが、ディワリの前に雨はやみ、毎日青空が広がっていた。ただ心地のよい光と風に身を任せているだけで、幸せな気分になれた。
夫は毎日、ヨガ道場に通い、心身ともにリフレッシュしたようだ。わたしはといえば、外出したり、のんびりしたりしながらも、日本帰国前に仕上げるべき大量のレポート作りにかかっており、デスクワークの多い後半であった。
なるたけコンピュータに向かう時間を減らしたく、今後しばらくはこのサイトの記録も途切れがちとなってしまいそうだ。
夜、アルヴィンドと二人で「ハードロックカフェ@ベンガルール」へと赴く。
ハロウィーンなコスチュームに身を包んだスタッフたちが出迎えてくれた。
あの去年のニューヨーク(←文字をクリック)から、もう一年が過ぎただなんて。
あのカツラはどこにしまっただろう。たしか捨てずに持っていたのに。
さて、夫はマルガリータ、わたしはカイピリーニャを注文する。ライムの香りが爽やかで、おいしいカクテル。
ライムたっぷりといえば、モヒートも好きだけれど、かつて義兄ラグヴァンに作ってもらって初めて知ったこのカイピリーニャも、かなりのお気に入りなのだ。
そしてサラダとハンバーガーを注文。前回はベーコンだのチーズだのが入った10オンスのヴォリュームたっぷりバーガーを二人で分けたが、今回はシンプルなHRCハンバーガー7オンスを各自注文。
前回のバーガーもおいしかったが、個人的にはこちらの方がシンプルで口にあった。揚げたてのフレンチフライ、オニオンリングも美味で、かなり幸せ。
流れる音楽を聴きながら、アルヴィンドが「これは、ピンクフロイドの***だね」「あ、これ、U2の****だ!」と、曲名を口にして懐かしそうにする。
最近はあまり聴かなくなったが、彼と出会った当初、そういえばロックのCDも結構持っていたことを思い出す。好きなのはABBAの「ダンシングクィーン」ばかりではなかったのだ。
大学時代にたくさんの音楽を聴いたという。ギーク(ガリ勉でおたく)な大学時代だと思っていたけれど、当たり前だがそれなりに楽しんでいたのね。
でも、次第に「イントロ曲名当てクイズ」みたいなノリになってきて……やっぱりギークである。
わたしもまた、懐かしい旋律と、あまりにもアメリカンなムードに、自分が今、インドという国にいることが疑わしくなる不思議な感覚。
「あなたがインドを離れた1990年、将来こうしてインドに戻って、ハロウィンの夜、日本人の妻とハードロックカフェでハンバーガー食べてカクテル飲んでるなんて想像できた?」
「できなかった。今ミホが言った、どれひとつとして」
当たり前だな。
わたしだって、この音楽を聴いていた20歳のころ、自分が将来、ハロウィーンの夜、インド人の夫と南インドのとハードロックカフェでハンバーガー食べてカクテル飲んでるなんて想像できなかったもの。どれひとつとして。
できるかっちゅ〜もんだ。
つまりは来年も、5年後も、10年後も、想像できない日々が待ち受けているのだ。我らが人生、楽しく意義深い未来にしてやろうではないか。そのための努力は惜しまぬぞと、ハンバーガー噛み締めつつ、心の中で拳を握りしめる。
ロックンロールな夕餉の後は、久しぶりにBEC(バンガロール在住外国人駐在員のクラブ)に参加するべく、Taj Residencyのアイス・バーへ。
知っている人は数名。知らない面々ばかり。
しかもインドとは思えぬ派手なハロウィーンコスチュームに身を包んだ若者が多い。
聞けば本日、BECと合同で、学生など若者たちのグループのイヴェントもここで行われているとのこと。
どうりで駐在員にしては若すぎると思った。
「わたしって、考えてみたら、彼らの母親世代に近いのよね〜」
とひっそり口にしたら、アルヴィンドが、
「やめてくれ〜。そんな憂鬱な話!」
と不機嫌になる。
現実から目を背けたいようである。とはいえ、彼自身も鼓膜炸裂せんばかりの大音響のBGMに辟易したらしく、ドリンクを1杯飲んで退散したのだった。
それにしても、インドに居ながらにして、インドではないような、今夜は殊更、不思議な感覚。脳裏の地球儀がまたしても、柔らかく伸縮している。ニューヨーク時代がひどく近く感じる。
この国に住んでいると、日本にいるときよりも遥かに、わたしにとっては欧米が、世界が身近だ。
その感覚は、わたしをとてもリラックスさせてくれる。いつでも気軽に旅立てる感じの、ささやかにエキサイティングで、心が仄暖かい感覚。
日本にいるときのわたしは、多分リラックスできないのだ。好きとか嫌いとか、善いとか悪いとか、そういう問題ではなく、たぶん、本能として。
それはもう、日本を離れるずっと前から、そうだったように思う。日本人なのに、日本にいてリラックスできない。だからこそ、離れる運命にあったのだろう。
とはいえ、母国である。2年に一度くらい、帰らなければ。
そんな次第で、今月の日本帰国が確定した。
今月11月17日夜ムンバイ発の全日空、成田直行便。成田で福岡行きに乗り換え、18日の朝、到着する。インドへの帰国は28日を予定しているが、状況によっては滞在をのばすかもしれない。
今回は東京に立ち寄らず、成田から直接、福岡に入る予定だが、これもまた状況によっては変更するかもしれない。
2年ぶりの日本を控え、バンガロール宅から持っていくべき衣類その他をかきあつめ、今日は荷造りもなかなかに時間がかかった。家族と過ごすのはもちろんだが、お世話になっている仕事関係の方々とお会いしたり、旧友と会ったりする予定。
隔週金曜日にインドライフをレポートしているFM熊本にもおうかがいするべく、熊本市までも足をのばす予定だ。
温泉関係は、最早、特に興味はないが(2年前の「玉の湯いまいち事件」で、なんだかどうでもよくなってしまった)、おいしい寿司・刺身や焼き肉関係を食べたいと思う。と、こう書いているだけで、部分的に封印している「食欲」がわき上がって来ていかん。
リラックスできなくていいから、思い切り、日本のよさを満喫したいと思う。
楽しみだ。