本日は火曜日ながら、祝日である。夫の会社は、ムンバイ株式市場の休日イコール休日となるため、地方や会社によっては休まないところもある。
今日は、ムスリム(イスラム教徒)の祝日だ。詳細は知らぬが、ともあれ、なにかを祝して「マトン・ビリヤニ」(ヤギ肉の炊き込みご飯)を盛大に食べる日らしい。マトン・ビリヤニといえば、ハイデラバード。あの街で食べたビリヤニは、実に旨かった。
と、短絡思考の我々は夫婦そろってビリヤニを夢見るのだが、あいにくこの界隈で、おいしいビリヤニを出す店を知らない。
従っては、久しぶりにIndigo Deliへ行こうということになり、車を走らせた。
チキンのグリルとビーフバーガー、そして野菜のグリルを注文。
休日のランチだからと、カクテルで乾杯する。
インドでは、ライム(レモン)やミント、サトウキビを用いるカクテルがことのほかおいしい。
塩味の強さが少々気になるが、それを除いては、チキンもビーフバーガーも、たいそう美味だ。
特にビーフバーガーは焼き加減「ミディアム」でも、かなりジューシーな焼き上がりで気に入った。
先日バンガロールのハードロックカフェで食べたビーフバーガーより、個人的にはこちらの方が好みかもしれない。
牛を神と奉るヒンドゥー教国家のインドでは、牛肉を食するなどもってのほか。
と、多くの異国人は思うだろう。しかし、インドでも、牛肉は食べられるのである。
このような日常的な事柄からして、この国の多様性を理解していなければ、この国で起こるさまざまな出来事を理解できないわけで、何かを伝えるにはいちいち一から説明する必要さえあり、実に一筋縄ではいかない国であることを再認識しているこのごろ。
思うように、自分の書きたいことをまとめられないまま、時間が流れている。
今回のテロを受けて、再びインド(ヒンドゥー教国家)とパキスタン(イスラム教国家)との関係にかげりが見えている。テロ以来、連日メディアに見られるのは、政治家のテロ対策の甘さやパキスタンとテロリストの関連を巡る話題だ。
またしても、すでに古い自著の話であるが、『街の灯』の「インド人。パキスタン人。(常に、だれかが、どこかで、殺されているんだ。)」の中でも、両国の軋轢についてを触れた。1947年にインドが英国より独立して以来、延々と繰り返され続けている問題である。
このことについても、今回のテロのことについても、わたしなりの視点から書きたいことはさまざまにあるはずなのだが、どうしてもうまく考えがまとまらない。
今回日本に久しぶりに帰って、日本と自分とのずれを実感したのもその理由のひとつだ。
日本を、離れたのはわたしの方である。
だから、わたしが、日本のあらゆる価値観から、どんどんずれているのである。変わったのはわたしの方なのだ。そもそもから、違和感の中で生きていたとしても。そのことを、忘れてしまいがちだった。
視点の異なる人々に対して、自分の視点からの文章を力をこめて綴ったとして、いったいどれほど本意が伝わっているだろうか、ということが、気になりはじめた。
だからといって、読み手に迎合するような内容を意識するのも本意ではない。日本を離れて暮らしているからこそわかる、自分自身の視点を尊重すべきだろう。
とはいえ、やはり「ずれ」を埋めるための説明を丁寧にしなければ、理解してもらえないかもしれないし、場合によっては誤解を与えてしまうかもしれない。
ああもう、自分で書いておきながらまどろっこしい。
すでに日本では、過去の事件として片付けられている今回のムンバイで起きたテロであろう。それは重々承知した上で、テロにまつわるインドの事情も、今回、日本に帰国して感じたさまざまな思いも、今後、折に触れて記録していくつもりだ。
容赦なく流れる時間に、逸る気持ちを抑えつつ。
とりあえず半年前、西日本新聞の『激変するインド』に記したタタ財閥の記事を、ここに転載しておく。このホテルが、単なる高級ホテルにはとどまらない、特別の存在価値を持っているということを改めて伝えておきたく。
西日本新聞『激変するインド』 2008年5月19日掲載記事を転載
【財閥1】英ブランド買収 躍進のタタ
車一台28万円。この超低価格車「ナノ」の発売で世界から一躍脚光を浴びたインド企業がタタ・モーターズだ。インド経済の牽引役として不可欠な存在である財閥(コングロマリット)企業の一つ。今回は、海外進出も目覚ましいタタ・グループを紹介したい。
インドの経済都市ムンバイ。アラビア海に面してどっしりと、風格のあるホテルが立っている。タージ・マハル・パレス&タワーだ。インド移住前の旅行時、初めてこのホテルに滞在した際、その建築美に見ほれ、館内を隅々まで巡った。中でも、クーポラ(円蓋)を仰ぐ壮麗な吹き抜けと回廊は圧巻である。その回廊の踊り場に置かれた胸像に目がとまった。タタ・グループの創始者ジャムセジ・タタだ。
ジャムセジ・タタは、インドが英国の統治下にあった1868年、タタ・グループの前身となる貿易会社を興し、紆余曲折を経て成功を収めていた。晩年のあるとき、彼はしかし、ムンバイのとあるホテルで入館を拒まれる。そこは「インド人お断り」、つまり白人専用のホテルだった。この屈辱を機に、彼はインド人が出入りできるホテルの建設を決意する。そして1903年、インドで初めて電気を使用し、米国製の扇風機やドイツ製のエレベーターを備えた、インド最高級のホテル「タージ・マハル・パレス&タワー」を完成させたのだった。
タタ一族は、そもそもペルシャ(現在のイラン)を起源とするゾロアスター教徒。パルーシーと呼ばれる少数派の彼らは、卓越した人材を数多く輩出している。宗教や民族、階級などにより、独自の文化や習慣を重んじる共同体が多数存在するインドにあって、このような一族郎党による経営は珍しくない。
タタ・グループは繊維をはじめ、鉄鋼、電力、消費材、自動車、食品、通信と、幅広い分野にわたり事業を展開してきた。また、国家の建設と繁栄を目指し、教育や慈善活動にも注力している。1911年、バンガロールにインド科学大学を創設。以来、高度な教育を提供し続けているのもその一例だ。
現在、グループを統率するのは、ラタン・タタ会長。合併・買収でその事業分野を拡大し、今や七部門98企業を擁する。2006年度の売り上げは、インドGDPの約3.2パーセントに相当する288億ドル(約3兆円)に達した。
昨年、タタ・スチールは、欧州鉄鋼大手のコーラス(英・オランダ)を買収し話題を呼ぶ。また、今秋よりタタ・モーターズが発売予定の超低価格車「ナノ」は、各国のメディアで取り上げられた。さらに今年3月は、ランド・ローバーとジャガーを米フォードから買収とのニュースが世界を駆け巡った。大衆車に力を入れる一方、旧宗主国を象徴する高級ブランド買収の事実は、単に経済的な躍進にとどまらぬ、インド人の心の琴線に触れたようにも思えた。
●写真=ムーア、オリエンタル、フィレンツェ様式が融合した独特の建築美を誇るタージ・マハル・パレス&タワー。内装や家具調度品も格調が高い。
今朝の新聞 (The Times of India) に、小さいが、こんな見出しがあった。
Taj Tower to reopen before Christmas
テロの標的の一つとなったタージ・マハル・パレス&タワーホテルは、正面から見て左側がオールドウィング(旧館)、右側のタワーがニューウイング(新館)と呼ばれている。
比較的被害の少なかったタワーの方が、早くもクリスマス前に営業を再開する予定だという。トライデントホテルもまた、クリスマス前にオープンするとの話だ。
タフなインドの人々に、深く敬服する。
休日の夕暮れどき。これまでホームページやブログに載せたタージの写真を整理した。数カ月前、デジタルカメラ「動画による撮影」で遊んでいたとき、タージの内部も撮影していたのだった。
手ぶれが多いし、見づらいのでアップロードしないままだったが、今回、写真と組み合わせて編集し、YouTubeにアップロードした。画質は悪いが、場の空気が、少しでも伝わればと思う。
ザ・タージマハル・パレス・ホテルの情景
The Taj Mahal Palace and Tower, Mumbai
(↑文字、もしくは↓画像をクリック)