鋭い日差しが照りつける午後。自宅から、コラバまで歩いた。日本へ帰国する前と、なにも変わらない気がした。確かに観光客は少ないように見えたが、露店の兄さんの呼び込みも、物乞いの母子の顔ぶれも、なにも変わらない気がした。
攻撃を受けてから24時間後にはもう、営業を再開していたLeopold Cafe。ここもまた、いつも通りに込み合っている。あいていた唯一のテーブルに腰掛けて、いつものようにビールを注文する。しかし今日は、新発売なのだろうか、初めて見るKingfisher Blue。
自分にとって大切な場所が、傷つけられることは、こんなにも堪え難いことなのか。失われた命を弔うのはもちろんだ。
それでも、敢えて個人的な視点からを語れば、この愛すべき場所が、著しく痛めつけられたことが、やりきれない。
ドアを開けた瞬間に包まれる、花の香りを含んだ、ひんやりとした空気。
重厚な建築物の、その風格。
働く人々の、やさしげなもてなし。
Sea Loungeの、老齢の給仕たちの、穏やかな笑顔。
行きつけの本屋。
気に入りの靴屋。
心地のよいスパ。
カラス飛び交うプールサイド。
ピアノ弾きのおじさん。
脳裏を巡る次々に情景……。
Working to restore a symbol of Mumbai's enduring spirit & dignity.
ムンバイの、不屈の精神と尊厳の象徴を取り戻すべく、工事中。
限りある命を意識して、日々を慈しみ生きる。それが自分にできる、せめてもの抵抗。