日曜の午後、ドライヴに出かけた。いくつかの目的地を考えていたのだが、途中、マラバーヒルと呼ばれる「一応」高級住宅街にあるハンギング・ガーデン(空中庭園)に立ち寄ったのが間違いだった。
日曜日のその公園は、家族連れで満ちあふれていた。大勢の人々がわさわさとしている場所が苦手な夫。途端に無口になる。
下の写真で見る限りでは、なんと鮮やかな緑。美しそうに見える公園であるが、敢えてそう見えるところを撮影しているだけで、実際は、「ふう〜ん」という感じの公園である。どういう感じの公園である。
木陰があれば、運動を兼ねてもっと歩きたかったところだが、容赦なく照りつける太陽。とっとと退散し、次の目的地へ行こうとするが、次の場所もまた、より夫が無口になりそうな場所である。
ムンバイには、夫を無口にさせるような場所が、無数にあるのである。
結局、マラバー・ヒルからほど近い場所にあるソーシャルクラブ(社交クラブ)であるウィリンドンクラブ (Willingdon Club)に立ち寄ることにした。
わたしたちはバンガロールクラブの会員なので、その会員証があればウィリンドンクラブも利用できるのだ。バンガロールクラブ同様、ここは英国統治時代に誕生した由緒ある社交クラブだが、建物自体は相当老朽化している。
尤もここだでなく、ジムカーナ・クラブ、ロイヤル・ボンベイ・ヨットクラブ、ラジオクラブと、英国統治時代に誕生した社交クラブの大半は、当時の面影を残したいのかどうだか知らぬが、改築もままならぬ様子で、ともかく古い。
それでも、世間とは隔離されたこの世界に入った途端、夫だけでなく、わたしもまた、相当にほっとして落ち着くのが本音である。
移住当初はしばしば足を運んでお世話になったバンガロールクラブ。しかし、あの忌々しい事件をきっかけに、足が遠のいていた。
一昨年末の大晦日、アルヴィンドがインドの国民服を着ていたことが理由で、パーティー会場に入れてもらえなかったのだ。
●愛国心とは。バンガロールクラブと、国民服を巡って。(←文字をクリック)
読み返して、怒り再燃! である。
そんな次第で、このような社交クラブに対するわが思いは、まさに「愛憎入り乱れる」のだが、しかし実はこういうコロニアル情趣漂う場所が、「遠い昔から本能的に好き」で、気分が落ち着くところが悔しい。
上の大きな写真は、ウィリンドンクラブのゴルフコース。土地の狭いムンバイの真ん中に、ゴルフコースである。ゴルフをしないわたしにとっては、「木々を植えて遊歩道にでもしてほしい」というのが本音だ。
建物内にはテニスコート、バドミントンコート、スイミングプールなどのスポーツ施設のほか、ライブラリーやカードゲーム(ブリッジ)ルーム、バー、ラウンジ、ダイニング、小さなスーパーマーケットなどがある。
バンガロールクラブとほとんど同じような構造だ。
しばしライブラリーで雑誌などに目を通したあと、緑に面したラウンジでくつろぐ。
クラブでは、日本人駐在員らしき人たちの姿も見られた。在ムンバイの日本企業の多くは、このクラブの会員になっており、駐在員やその家族の利用も少なくないと聞く。
彼の会社に勤める英国人駐在員とそのガールフレンドも訪れていた。
わが夫と、外国人駐在員らの傾向が、重なる。インドの暮らしになじめず、欧米へと戻っていくNRI(印僑)たちの存在。
彼が、インドになじめぬ気持ちもよくわかるが、しかしもうちょっとインドに対してタフでいてくれたら、と思うことが本当に多い。
休暇の過ごし方にしても然り。たとえば来月の5連休。わたしはインド国内の遺跡などを旅したいと思う。ムンバイから飛行機で1時間とかからない場所に、世界遺産であるところの、エローラ石窟寺院やアジャンター石窟群といった遺跡がある。ぜひとも行きたい。
しかし夫は断言するのだ。
「洞窟は、暗いし、臭いし、暑苦しいから、絶対に、行かない」
おっしゃる通り! と膝を打っている場合ではない。仮にもそこは世界遺産。単なる薄暗い洞窟ではないのだ。だが、そういうところへは、赴く気分にはならないらしい。
そして二言目には、
「モルディヴに行こうよ」
「日頃、汚い街に住んでるんだから、リゾートでゆっくりしたいんだ」
……。
わかる。その気持ちはわたしにも、わかる。わたしだって、リゾートは好きだ。せっかくの休暇だもの、ゆっくりしたいという気持ちもわかる。
しかしインドに暮らし始めて3年。これまで米国ほか海外へ出る機会は多かったものの、インド国内をゆっくりと旅した経験が少ない。
日本の10倍もの面積があるインドには、数限りない、訪れるべきすばらしい場所がたくさんあるのだ。インドに住んでいるから、いつか行けると思いながら、歳月はじゃんじゃん流れること請け合いである。
気がついたら、あっという間に60歳、80歳ということにもなりかねない。
焦るわけではないが、行きたいときに、行きたい場所へ行く。先延ばしにしていては、いつになっても実現しない。最近はそういう風に考えることが増えてきたのだ。
しかし、わたしが行きたいと思う場所と、彼が行きたいと思う場所の誤差が見えつつあり、意見がまとまらない。贅沢な悩み。と言われればそれまでなので、言わないで。
いっそひとり旅、であろうか。
ああ、でも東洋人女がひとりで旅をしてると、いや、たとえふたりでも三人でもそうなのだが、きっと物売りやらなんやらの襲撃にあって、それはそれで体力&精神力を使うのだろうな。
いずれにしても、一筋縄ではいかぬ、インドである。
来月の5連休、目的地はどこで折り合いがつくのか。断固、インド国内旅は主張するつもりである。