ムンバイの朝の遊歩道。日曜の今日は8時過ぎと、いつもより遅い時刻のせいだろうか、カラスらの活動が活発である。
ムンバイのカラスは、青みがかった黒い羽根とグレーの頭のコンビネーションで、見た目には普通の真っ黒いカラスよりも小柄でかわいげがあるのだが、所詮はカラスである。
クワァクワァうるさいし、そこが庶民派食堂であれ、高級ホテルのテラスであれ、自由気ままに参上しては、テーブルから料理を掠め取っていく。
さて、人間が通過してもなかなか逃げない、この遊歩道に集うカラスの軍団。まるで会議をしているようでもあり、「人間なんて怖くない」と度胸試し競争をしているようでもある。
バンガロールのかわいい小鳥たちがしのばれる。
ところで左の写真は、今日の"HINDUSTAN TIMES" 。
ロサンゼルスでの授賞式を終えて、スラムに戻ってきた『スラムドッグ・ミリオネア』出演の最年少サリム役の少年。
レッドカーペットを歩き、世界の注目を集め、ディズニーランドで遊んでのち、両親の待つ、「蚊が多くて眠れない」ぼろぼろのスラムに戻ってきた。
あまりにもかけ離れた夢と現実の折り合いを、彼はつけることができるのだろうか。
メディアからの取材に疲れたのか、海外からの取材班に話をしたがらない息子を父親がぶつなどして、一悶着あったようだ。なにやら本当に、胸が塞ぐ思いだ。この少年の数奇な人生。
廃品(ゴミ)を集めて生計を立てているという父親は、45歳だという。老けて見える。インドの低所得者層、特に一日の世帯収入が1ドルを切る人々の平均寿命は低い。
特に肉体労働に従事している人は、40代で亡くなる人が大半である。
乳児期に亡くなる子どもも多い。
一方で、富裕層の老人らは、長寿の人たちも多い。
「インド人の平均寿命は短い」とひと言では語れない背景がそこにはあるということを、写真の彼の表情を見て、改めて思う。
さて、土曜の夕飯。「ダイナミック鶏鍋」。軽く2、3食分を網羅する分量だ。いつもこんなヴォリューム満点の男性的な料理ばかりを作っているわけではない。たまたま見栄えにインパクトがあるので、紹介したくなる。
丸ごと鶏肉が手に入りやすいインド。お勧めは脂身が少ない小振りの鶏肉。切らないで丸ごと調理する場合、我が家の人気はオーヴンでのグリルと、この丸ごとスープ鍋だ。
一応昆布があったので、それでだしを取る。つまり本日は「和風仕立て」である。
大きめの圧力鍋に、だし汁、白菜、ネギ、ニンジンなど好みの(有り合わせの)野菜を詰め込み、内臓をきれいに洗った丸ごと鶏肉を入れ、たっぷりのショウガスライスを投入。軽く塩とこしょうで味付けをして、火にかける。
火を通した後、味をみながら、好みで醤油などで調味する。ごま油をほんの少し垂らしてもよい。鶏の骨からよいだしが出て、これが本当においしいのだ。
和風でなく洋風にしたいなら、白菜の代わりにキャベツやタマネギを使い、オリーヴオイルや好みのブーケガルニ(香草の束)で風味付けするとよいだろう。
だし汁を使うのではなく、インドでは廉価なトマトでジュースを作り、トマトで煮込むのもいい。その際はたっぷりタマネギとガーリックをあらかじめ炒めて、そこにトマトジュースとチキンを入れて火にかけると味わいが濃厚になる。その他の味付けは好みで。
圧力鍋がなくても、普通の鍋で時間をかけて煮込めば問題ない。
左上が加熱前、右上が加熱後。今回、ちょっと火を通しすぎて、野菜がふにゃふにゃになりすぎたが、細かいことは気にすまい。
米国において、チキンスープは「風邪をひいたときの特効薬」とされている。体調が思わしくないとき、身体を温めてくれるし、ショウガも入っていれば「薬膳スープ」のようでもある。
肉はナイフなどを使わなくても、柔らかくてすぐに身がほぐれる。裁く手間がはぶけてよい。
野菜は多くても意外に食べ尽くせるもの。残ったスープは翌日、さまざまな料理に応用できる。麺類のスープにしてもよい。お好み焼きのだし汁にしてもいける。
鶏肉の余りは身をほぐして冷蔵しておき、翌日、炒めて弁当にしたりランチに入れたりする。たくさん余ったら冷凍保存しておいてもよい。さまざまにアレンジ可能で重宝だ。
日曜の午後は、ウィリンドン・クラブで過ごした。チャイニーズなランチをすませたあと、世間からは隔離された平穏なクラブ内へ。
ゴルフコースを見渡す心地の良いラウンジで、コーヒーを飲みながら、しばらく各々、仕事をする。それから旅の計画などもたてる。
ふと、生き物の気配がして振り返ると、そこには、「半目」という恐ろしい形相で眠る、無防備なネコが。どうしてこの国の動物たちは、こんなにも無防備なのだろう。
さすがに路上のネコに比べると、毛並みがきれいで、肉付きもよい。暮らしぶりはよさそうだ。さて、お手洗いに行こうと席を立ち、廊下を歩いていたら、視線の片隅に気になる物体が……。
こ、この姿はいったい……。
生きているのか、死んでいるのか、確認せずにはいられないほどの。
で、念のため確認しようと近づいたら……。
よかった。
などと安心している場合じゃない。
仮にも女子なんだし、そのあられもない寝姿を、世間にさらしてくれるな。
どうしてこうも、不思議な生態の生き物が多いのだろうかインドは。
さて、日が陰り始めたころ、プールでひと泳ぎ。週末のプールは家族連れ(子ども大勢)で大賑わい。せめて大人が泳ぐレーンと、子どもが遊ぶレーンとをわけて欲しいと思うが、ここはインド。
水深が5メートル以上もあろうかという飛び込み台あたりで、子どもがボールを投げながらジャンプして飛び込んでいるし、浅い方は浅い方で、幼児らがチャパチャパと泳いでいるしで、その合間を縫いながら泳ぐ。
今日は水泳を考慮して、ランチのときにビールも飲まず、我慢したのだ。がっちり泳がなければ。プールサイドでは、揚げたてのフライドポテトをつまみにビールを飲む人々の姿が。
泳ぎ終わったら、わたしもあれだ。
結局、健康にいいのか悪いのかわからんな、と思いながら、ビールを目標に泳ぐ。ちなみに、運動直後の空きっ腹にアルコールは厳禁。せめて最初に「室温の水」をたっぷり飲んでから、アルコールを口にすることが肝要である。
泳いだ後、熱いシャワーを浴びてリフレッシュ。3月に入り、ついには「夏が来た」ムンバイだが、日没後の風はまだ心地よい。緑を亘る風を受けながら、芝生のエリアへ。
夫の同僚に会う。
しばらく、言葉を交わす。
そうしているうちにも、ビールよりはワインの気分になり、白ワインのハーフボトルを注文する。
フィッシュ&チップスも注文する。
いつしか日が暮れ、三日月と、宵の明星。頭上にはオリオン座。本当に気持ちのよいひとときである。
日々濃厚で、あれこれと面倒が起こるインド生活。しかし、こういう寛ぎのひとときを数時間持てるだけでも、心身はずいぶんとリフレッシュするものだ。
いろいろあったが、終わりよければすべてよし。いい週末だった。