商業デザイン、グラフィックデザイン……。スイスでは、日常生活で目にするさまざまに、シンプルで機能的で、美しいデザインが溢れている。
色合いやデザインの美しさはさておき。
財布に入れようと、金額別に並べていて気がついた。
金額の大小とお札の大小が比例しているのだ。
並べると美しく数字が見え、財布に収める瞬間に小さな愉しさがある。
毎日のように使う身近なもののなかに、こうしたデザインが存在しているところがいい。
空港では、スイス人が手にしていたパスポートにも目が釘付けになった。
鮮やかな赤に白抜きの文字。
いくつもの十字が型押しされているところが、なによりいい。
中身を見せてほしいくらいだった。
というか、そのパスポート、欲しい。と思えるほどである。
たとえば文具店に行っても、同じことが言える。
シンプルで機能的で美しい、ごちゃごちゃとしていない、洗練されたものの多さ。流行り廃りがなく、老若男女問わず、使えるもの。
先日、ディエターのオフィスを見学したときにもそのことを痛感した。きれいに色分けされたファイルが並ぶ書棚の、その見た目に麗しい使い勝手のよさ。
ちなみに、ドイツ、フランス、イタリアなどと国境を接するスイスでは、インドと同じくさまざまな言語が話されている。そのため、パスポートにも、以下のように、各国の表記が明記されている。
Schweizer Pass:ドイツ語(スイス・ドイツ語)
Passeport suisse:フランス語
Passaporto svizzero:イタリア語
Passaport svizzer:ロマンシュ語
Swiss passport :英語
ちなみにスイスの公用語は、英語を除く上記4つの言語である。
シンプルな板チョコレートなのに、これがまたおいしそうに見えるから不思議。
実際、とてもおいしいチョコレートで感激する。
イメージ通りのことを敢えて書くのもなんだが、しかしスイスはチョコレート、チーズやヨーグルトなどの乳製品、肉類、そしてパンなどがおいしい。
スイスに限らず欧州各国で共通していることとはいえ、昔ながらの素朴な食べ物が、いつまでも変わらずおいしく存在しているというのは、当たり前のことのようで、実はとても意義深いことだと思うのだ。
物事が、瞬く間に移ろう、気ぜわしい世の中にあって。
話を戻せば、わずか数日滞在しているだけでも、街のいたるところで、暮らしの中に溶け込んでいるデザインのよさが、目に留まる。
たとえば、今滞在しているホテルの、トイレのフラッシュもその一例。
このシンプルな形状の、下の部分を押すと水が流れる。
普通はそれで終わりだが、これはSTOPと書かれた上の部分を押すと水が途中でとまるのだ。
途中で水の流れを止められる水洗トイレを見たのは初めてのことで、これにはまた感動した。
無駄に水を流さずにすむわけで、こういう機能がユニヴァーサルに広められればいいのにと思う。
ところでジュネーヴ。わたしたちは夫が知人らに会うなどの用事があるため2泊もしているが、さもなくば、2泊もする街ではない。
同じ大きな街に滞在するなら、チューリヒやベルンの方が魅力的である。
さらに言えば、スイス旅の醍醐味は、アルプスの山々を訪れたり、湖畔を巡ったりと、自然に触れ合うことである。
わたしたちは、すでにそのような旅をした経験がある上、今回は別の用事で訪れていることから、かようなスイス滞在となっているが、「ジュネーヴってそんなに滞在すべき場所なのか」と誤解されてはいけないので、念のため。
ここ数日、髪の調子がよい。インドから持参しているいつものシャンプー&コンディショナーを使っているのだが、髪の感じが全然違う。やはり水がきれいなのだろう。水道水をがんがんと飲めるのもうれしい。
ところで現在滞在しているホテルは朝食が別料金で、もしも食べるなら一人3000円近くもする。
朝からそんなに気合いを入れて食べないし、そもそも高すぎる。
ジュネーヴはチューリヒよりも物価が高い気がする。
特に、この街の中心部においては。
世界中の富が集結しているこのあたり。
世界恐慌のあおりを受けて、また米国政府の申請を受けて、スイスの金融業界もまた、かなり追い込まれている状況である。
そんな話はさておき、夜のうちに近所のスーパーマーケットでヨーグルトやフルーツを買っておき、朝、部屋でお茶をいれ、それらを食べる。
そして外へ出たときに、カフェでクロワッサンとコーヒーを注文する。ニューヨークに滞在するときも、わたしたちの朝食は、たいていこんな感じだ。
さて、ランチまでの間、わたしは街をそぞろ歩く。
中でも気に入ったのは、スイス各地に支店を持つGLOBUSというデパートメントストア。
ステイショナリー類も充実していて、ここはかなり楽しめた。
もっとも気に入ったのは地下のスーパーマーケット。高品質の食材が並び、特に魅惑的なチーズ類は、買いたい衝動を抑えるのにたいへんだった。これが帰路なら、なんとかスーツケースに入れてインドまで運ぶところだが、これからニューヨークだし、無理である。
ランチタイムは夫と合流し、グランドフロアにあるカフェテリアへ。
サンドイッチなどの他、オリエンタル料理の店もある。
サーモンなどのにぎり寿司もあったが、わたしはチャイニーズのチキンと野菜炒め、そしてお気に入りのアップルサイダーを。
人の出入りが多く、こんなカジュアルな店なのに、この写真の料理と飲み物だけで2000円ほどもするのに驚く。
ただ単にインドの物価になじんでいるせいでそう思うのだろうか。
4年前、英国へ行ったときと同じ感覚。ポンドが強過ぎて、参った。米ドルが弱いせいもあるだろう。ちなみに気になるお味の方は、まあ「そこそこ」であった。
夕食は、夕べの美味が忘れられず、再びNOLOGOへ。二晩連続で訪れたとあって、ジェントルマンなウエイターが満面の笑みで迎えてくれ、握手を交わす。
わたしは軽くサラダとハウスワイン。夫はパスタ。
店の雰囲気もよく、気分がとても落ち着く。グリーンサラダ、パンとオリーヴオイル、そしてワインという極めてシンプルな夕餉ながら、それはそれで、とてもよい。
時折、スパークリングウォーターで喉を潤し、窓の外を見やり、静かなひととき。
チュニジア出身の店主もやってきて、しばらくわたしたちのテーブルの傍らで話をしていた。
50歳代後半から60歳といったところか。
インド人に間違えられることがあると本人の言う通り、なにやらなじみのある顔立ちをしている。
インドに行ったことはないけれど、興味があるとかで、インドの、主には経済のことをあれこれと尋ねられたのだった。
キーワードはタタのナノ。
そこからあれこれと話が広がり。
ハウスワインの2杯目は、サーヴィスしてもらえて、ささやかながら、とてもうれしい。夕方から、雲が立ちこめ、少し小雨が降っていたが、店を出るころにはやんでいた。