のどかな土曜の朝。涼しい風が吹き込むダイニングルームにコンピュータを持って来て、今、緑を眺めながらキーボードを叩いている。
庭では、ガーデナーが水をまいている。キッチンでは、メイドがランチのためのドサの準備をしている。リヴィングのホールでは、夫がヨガをしている。傍らでは、ヨガ歴の長い義姉のスジャータが、指導している。
義姉スジャータの夫ラグヴァンは、学会のため米国に出張中。彼女は一人だったので、夕べは彼女を招いて3人で夕食をとり、我が家に泊まってもらったのだ。
スジャータは明日デリーに飛び、義父ロメイシュとウマとともに、来週はスイス、そしてトルコへの旅行に出かける。ラグヴァンとはスイスで合流するとのこと。
彼らは毎年のように4人で海外旅行に出ている。わたしたちはなかなか予定が合わず合流できないが、ともあれそうやって家族で旅するのは、とてもいいことだと思う。
思えばわたしも米国時代、結婚前だったにもかかわらず、米国に遊びに来た夫の家族とあちこちを旅したものだ。
インドに暮らすようになってよりいっそう、夫の家族や親戚は典型的なインドの家庭とはかけ離れていると思わされる。
宗教、言語、カースト、経済力、学歴、職歴、容姿、居住地、家族構成、その他さまざまな条件が一致した相手とのみ見合いをし、そこから絞り込んでいくのが一般的な婚姻であるところのインド。
結婚前の、しかもインド人でもないガールフレンドを伴って家族旅行に出かけるなど、まずあり得ない。更には、わたしは、アルヴィンドと同じ部屋に寝泊まりするわけで、それはインドの慣習に照らして考えるに、やはり限りなく、あり得ない。
わたしの素性のなにも知らず、英語さえ十分に話せない異邦の女性を、全面的に受け入れてくれたことも、今となっては、その寛大さをありがたいと思うが、一方で、なんと無防備な人々であろうかとさえ思えるほどだ。
今週もまた、めくるめく日々が過ぎていった。
それにしても焦ったのは水曜の夜。チャリティ・ティーパーティのあと、毎度「ワイン・パーティ」に突入して、しばらくおしゃべりしたあと、軽く夕食をすませ、夜10時近くになってコンピュータに向かった。
と、西日本新聞の『激変するインド』担当編集者の藤崎さんから原稿催促のメールが届いている。
「もしかして来週のつもりで、執筆をされていませんか? あす木曜までにいただければ助かりますが」とある。
えっ?! 締め切りは来週の月曜のはずなのに、どうして??? と酔った頭でしばらく考えて気がついた。
原稿の掲載は毎月「第四月曜日」なのだが、第四月曜日はたいていが「最終月曜日」であることから、自分の中ですっかり締め切りが「最終月曜日の一週間前」とすり替えられてしまっており、今月が「第五月曜日」まであることに気づかなかったのだ!
なんという、まぬけっぷり!
うぉぉぉぉ〜!!
と叫びつつ、しかし木曜はすでに予定が詰まっている。とあれば、今夜書き上げなければならない。
思えば香椎高校の講演会で、自分の仕事に対する考え方を簡単に説明した際、「締め切りには絶対に遅れない」などと豪語したばかり。
もちろん取材に来てくれた藤崎さんもしっかり聞いているはずだ。舌の根も乾かぬうちに遅れてしまったのでは、あまりにも、格好わるいではないか!
書く内容は大雑把に決めていた。よりによって「時間」がテーマ。日本とインドとでは時間に対する考え方が大きく異なり、つまりインドでは時間に遅れるのが普通といったことだ。なんだかなあ。
ともあれ、急ぎ、庭をぐるぐると歩きながら酔いを醒ますと同時に、頭の中を整理して構成を考え、熱いシャワーを浴び、コーヒーを飲んで、コンピュータに向かう。
締め切りが迫っているとなると、かなり速やかに筆が進んで安堵する。やればできるじゃん! と、自画自賛してみたりもする。
しかし夜のうちに原稿を送信するのは避けているので、一旦自分が寝ると同時に原稿も寝かせ、翌朝、新鮮な頭で読み直し、手を加えて、写真とともに送信したのだった。
いやはや、慌てた一夜であった。なんというか、初心忘るべからず、である。
さて、予定通り木曜日の朝は、OWCのコーヒーモーニングへ出席するべく、おなじみのホテル、Leela Palaceへと赴く。
彼女の、新天地での幸運を祈りつつ。
ランチは、日本人マダムお宅に招かれていたので、お土産のワインを購入してホテルを後にする。
十名ほどのゲストとともにテーブルを囲み、おいしい手料理をいただく。
お昼からこうして、ビールやワインを飲み、ランチを食べ、笑いながらおしゃべりをする……。
なんと平和なひとときであろうか。
話をしながら、知らない店やモールやレストランの名前を耳にするにつけ、二都市生活を始めた昨年から、バンガロールの最新情報に疎くなっている自分に気づく。
それは同時に、この街が相変わらず変化を続けているということを知ることでもある。
みなさんよりも一足先においとまし(といっても4時を過ぎていた)、コラマガラとインディラナガールを結ぶインナーリング・ロード沿いのOASISというショッピングモールに立ち寄る。
このモールにあるSPARというスーパーマーケットで食品の買い出し。
シーフードも比較的新鮮で、エビとイカを購入した。
肉屋では、切り立てのマトン肉と丸ごとの鶏肉を購入。
鶏肉は、なるたけ小振りで脂肪分の少ないものを選ぶのがポイント。
いつもはBamburiesで購入しているが、ここの肉も結構、よさそうだ。
ちなみにエビは久しぶりに「エビフライ」にしてみた。
その他、マッシュルームやベビーコーンなども一緒に揚げた。山盛りのキャベツの千切りと野菜スープで、美味なる夕食となった。
ところでSPARで買い物をすませた帰路、同じ通り沿いにあるMOTHER EARTHというショップにも立ち寄った。
ロゴも大きく、かなり目立つ外観だ。
オーガニックの食品ほか、オーガニックコットンでできたオリジナルの衣類、インテリア雑貨やインド工芸品などが売られている。
店内の雰囲気は悪くないのだが、しかし衣類や雑貨のコンセプトは今ひとつ統一感がなく、店内のレイアウトも買い物がしやすいとはいえず、若干、惜しい感じ。
インドには、「ここをこうすれば、印象がかなり向上するのに!」といった、「惜しい感じ」の店がとても多い。
客の立場になって使い勝手を考える、というコンセプトが欠けている店が多いのだ。
店に限らず、あらゆる場面において、だが。しかし一方で、使い勝手のよい店が増え始めているのも事実である。頻繁に店内の内装を変えて試行錯誤している店も少なくない。
この店で最も気に入ったのは、オーガニック食品がたっぷり売られていることだ。これらの商品は、他の店舗でも買うことができるが、ここまでたくさんの種類がまとめて売られているところは見たことがない。
インドならではのさまざまな豆類、穀物、ナッツ類ほか、オーガニックのレトルト食品(カレー風料理)などもある。
インドではゲストをお招きしたとき、夕食の前に延々とカクテルタイムがあるのだが、その際にこのようなおつまみを出すのだ。
スナック類も豊富だが、このようなドライフルーツもたくさんある。
塩味がついていないものは、朝、シリアルなどに砕いて入れてもよい。
味わいは新鮮で、いずれも美味であった。
ところで、一番大きな上の写真は、昨日訪れたジャヤマハル・エクステンションにあるSERENITYというブティック。
義姉スジャータが、ここでラクナウ刺繍のエキシビションをやっていると教えてくれたので、足を運んだのだった。
数ヶ月前、ムンバイでも専門店に立ち寄ったことはここにも記した(←文字をクリック)。
夏に涼しい、薄手の白いトップに刺繍が施された、典型的なチカンカリ刺繍のファッションが揃っていたが、あいにく気に入ったものはサイズは合わなかった。
一方、ブティックの方には、以前訪れたTHE ANTSの商品があり、素材、デザインともに感じのいいショート・クルタを見つけたので1枚購入した。
伝統的な技術を生かした天然素材で作られる衣類。貧しい村の人々の手作業によって仕上げられるこれらの衣類は、機械で量産されるものにはない独特の風合いがある。
さて、そろそろランチタイム。
せっかくの土曜だから、昼間とはいえ、ビールでも飲もうかしらん。
ふふふ。