日曜日の今日もまた、快晴だ。今日は、今回の出張旅行において、「朝から晩まで遊べる唯一の日」である。
わたしたちは、ワインが好きだが、特段の拘りはなく、銘柄にもあまり詳しくはない。
だからいつものように、ブドウ畑の中を車で走り抜け、ワイナリーのたたずまいを愉しみ、さまざまなワインの味を試すことができれば十分である。
ついでに緑の中でピクニック・ランチなどができれば、言うことはない。
アルヴィンドの急遽な下調べに加え、ホテルのコンシェルジュのアドヴァイスに基づいて、今日はサンタ・ロサの北部に広がるワイナリーを巡ることにした。
ちなみに、明日の夕刻はサンフランシスコ空港に戻らねばならないので、その道すがらに立ち寄れるサンタ・ロサ南部のワイナリーを巡ろうと思う。
朝、サンタ・ロサの街は日曜とあってか、大いに賑わっていた。なにやらフェスティヴァルが開かれているようで、ヴィンテージなファッションに身を包んだ住人たちが三々五々、中央広場に集まってくる。
古き良きアメリカの、日曜日の朝の風景。という雰囲気である。
変装だか仮装だかコスプレだかわからない、かなり際どいファッションの人々もあちこちに見られ、それはそれで面白く、しかしここでのんびりとするわけにも行かず、車に乗り込む。
インフィニティ氏の運転には慣れて、かなり快適なドライヴを満喫しているが、給油は初めて。
給油口の蓋を開ける方法がわからず(スイッチなどが見つからず)、二人して、あたふたと探す。
どうしても見つからず、説明書を開いたら、キーを使用して開けるとのこと。
エンジンも、鍵を差し込んで回してかけるのではない。
車内にキーがあれば、センサーが感知するので、ブレーキを踏んだままスイッチを押すことでエンジンがかる。
ということは先日も書いたが、未だ違和感。
もしもセンサーが壊れたら、どうするのだろう。
これは半永久的なバッテリーが入っているのだろうか?
と、無知ゆえの疑問が浮かぶが、明後日でお別れだ。忘れよう。
さて、本日の記録。旅をしているときは、とても興味を持って写真を見ている方が多いようである。なので、今日は写真を多めにアップロードしておこうと思う。その分、のんびりと綴っている時間もないので、文章は最低限にしておきたい。
各ワイナリーの情報は、ホームページをリンクしておくので、興味のある方はご覧いただければと思う。
たっぷりと給油して、さて、車を北へ走らせる。まずはコンシェルジュお勧めのワイナリー、SEGHESIOへ。
「今日は僕が運転するから!」
と張り切っていたはずのアルヴィンド。しかし、テイスティングというよりは、飲んでいる。毎度飲み干している。ずるい。いつもこうだ。これでは、酔ったもの勝ちではないか。
しかし、この2週間、彼にとってはかなり神経を使うストレスフルな日々だったのだ。今日のところは好きなだけ、好きなようにしていただこうと妻は腹をくくり、軽く味わいを確認する程度にとどめ、水を多めに飲む。
さて、ドライクリーク・ロードに沿って北上する。日曜にも関わらず、車は少なく、ナパよりも遥かに田舎でのんびりとしている。気ままなドライヴには実に好適な環境だ。
次なるワイナリーは、アルヴィンドがお勧めのBELLA。小高い丘の上にある、眺めのよいワイナリーだ。
丘のたもとにトンネルのような入り口がある。ここにテイスティングルームがあり、その奥に、ワインの貯蔵庫が広がっているようである。
中に入ると、外の暑さとは裏腹に、ひんやりとした空気。オーク樽とワインが混沌としたいい香りが立ちこめていて、それだけで幸せな気分になる。
ここでは赤白、バランスよくためしたが、最後に出されたデザートワインの香りがすばらしかった。一緒に出されたチョコレート・ブラウニーを一口かじり、ほんのり甘いワインと共に味わう。
二つの甘さがバランスよく、これまた幸せな味である。このデザートワインを購入することにした。
庭では、木漏れ日の下で、ゲストがグラスを片手に談笑しながらランチを楽しんでいる。レトロな消防車に乗って界隈のツアーに出かけるグループもある。
みな、ニコニコとしている。こういうところに来ると、微笑まずにはいられない。
さて、次のワイナリーは、BELLAにほど近いPRESTON。ここではオーガニックのワインを生産している。
BELLAのワインがなかなかに美味だったせいか、しっかりと味わって、すでにアルコールが回り始めている我々。ここではワインをテイスティングするのではなくランチをとることにした。
オーガニック栽培の野菜や果物が売られている。また、素朴なパンや手作りのチーズなどもある。いくつかを買い求める。
ベイエリアのサニーヴェールに住んでいたころ、毎週土曜日に近所のメインストリートで開かれるファーマーズマーケットを楽しみにしていたものだ。
界隈の農家の人々が、トラックに野菜や果物、花をはじめ、ジャム、チーズ、ペイストリー、ハチミツなどの素朴な加工品を売りに来ていた。
ついつい、多めに買ってしまって、冷蔵庫がいっぱいいっぱいになってしまったものである。
がっしりとしたサワードウのパンを切り、クリーミーな手作りチーズを載せて食べる。摘まれたばかりのトマトは甘酸っぱくて美味!
テーブルの足下には、三匹のネコが平和に寝転んでいて、なんとも心地のよいガーデンだ。
食後は、やはり摘まれたばかりの新鮮ないちご。形は大小バラバラで、味も甘いもの酸っぱいものばらばらだけれど、ともあれ、こういうところで食べるとおいしさが際立つ。
もう少し涼しかったら、ここで昼寝でもしていきたいところだが、気温はかなり高い。もう少し、別のワイナリーも見てみたいので、車を更に北へ走らせることにした。
ホテルのコンシェルジュのお兄さん曰く、FERRARI CARANOはスパークリングワインを生産しているとのことなので、訪れた。
美しく手入れされた庭園と、見渡す限りのブドウ畑が麗しいワイナリーだ。しかし、コンシェルジュのお兄さんは勘違いをしていたのか、ここにはスパークリングワインはないという。
ソノマ南端のGLORIA FERRERと間違っているのではないかと、テイスティングルームのスタッフに指摘される。ともあれ、せっかくなので数種類のワインとテイスティング。白はいずれもさっぱりと、この暑い日に相応しい味わいであった。
いずれのワイナリーも、カウンターでワインをサーヴしてくれるスタッフは、みなとてもフレンドリーだ。話し上手、聞き上手で、ワインの話だけでなく、カジュアルな世間話も巧みである。
テイスティングのあとは、せせらぎと木陰が心地よい、花々咲き乱れる庭園を散策する。木陰に入れば途端に空気はしんとして涼しい。
訪れる場所、訪れる場所、それぞれに魅力のある光景が「どうぞお楽しみください」といわんばかりに出迎えてくれる。
身を置きたいと願っていた情景の中に足を踏み入れれば、最早インドでの日常は前世の記憶のようである。
長い一日だと思っていたが、すでに午後4時を回ってしまった。テイスティングをするなら、あと1軒が限度だろう。
一カ所くらいはスパークリング・ワインを産するワイナリーを訪れておきたいと、再びヒールズバーグに向けて南下し、街からほど近いJ VINTARDSを訪れることにした。
しかしここは、テイスティングが一人当たり20ドルから。
しかも、閉館間際とあって、テラスのテーブルでゆっくりと味わうことができないとのことで、コンプリメントの1杯を味見するにとどめた。
1本当たり40ドル程度からである。これはわざわざ買い求めずとも、インドのSULA BRUT(15ドル程度)で、我々、満足である。
このワイナリーは、若干、コマーシャライズされすぎている雰囲気あり。本気ワイン通の人にとってはいいワイナリーなのかもしれないが、わたしたちのような雰囲気重視型には、特段、魅力的ではなかった。
スパークリングワインのテイスティングは、ナパのMUMMが楽しかった。目前に広がるブドウ畑を眺めながら、ほのかに色づいたスパークリングワインを味わうのは、目にもうれしいひとときであった。
すでに太陽は傾き、気温も下がりはじめた。本日のワイナリー巡りはこれで終了だ。
と思いきや、実は昨日訪れたヒールズバーグの街に20を超えるワイナリーのテイスティングルームがあり、数カ所は7時までオープンしているとの話を聞いていたのだった。
すっかりほろ酔い気分のアルヴィンドは、ヒールズバーグでももう一軒、訪れたいという。わかった。と妻はステアリングを握る。
まだ開いているから、という理由だけで、TOPELというテイスティングルームを選ぶ。
ここでのテイスティングはアルヴィンドに任せて、わたしは酔い覚ましの水ばかり飲んでいた。金曜までは何かと張りつめていたが、今やすっかりご機嫌のようである。
それはさておき、ひたすらワインの味を楽しみたい向きには、ドライヴすることなく、この街を散歩しながらワインテイスティングを体験するのもいいだろう。
さて、夕食は、昨日のカップルに勧められていたもう一軒の店でとることにした。
実は昨日も今日も、小じゃれた店を予約していたのだが、どちらもキャンセル。ふたりして勧められていたハンバーガーを食べたくなったのだ。
この土地の特産であるトマトのサラダと、最もシンプルなハンバーガーを一つずつ注文。炭火焼のアンガスビーフは肉の風味がしっかりと、歯ごたえもほどよく、非常に美味。大満足の夕餉であった。
腹ごなしに夕暮れの街を散策。日曜も、夜となればすでに静まり返っている。ここは老人の居住者が多いらしいが、それにしても、静かだ。
すれ違う人もほとんどなく、薄暮の空に浮かぶ月、冷たく寂寥。
インドでは、こんなふうに夕暮れの街を静かに散歩することなどかなわない。だからこそ、旅先での散歩がことのほか、大切なことのように、名残惜しく感じる。
唯一、遅くまであいていたキャンディショップに立ち寄る。アメリカ版駄菓子屋といったところか。
色とりどりのチョコレートやキャンディを眺め、いくつかのキャラメルを買って、店をあとにした。
彩り豊かな、いい一日だった。