懸念していた霧が出ることなく、バンガロール発のジェット・エアウェイズのフライトは、夕べ定刻通りにニューデリーに到着した。確かに肌寒いが、しかし想像していたほど冷え込んではおらず、一安心だ。
今回のデリー来訪は、毎度おなじみ、夫の出張に伴っての妻、随行である。出張のたびについてきているわけではないが、3週間もバンガロールに定住していると、なにやら落ち着かず、どこかへ行きたい気分になってしまったのだ。
デリーは昨年の8月に訪れて以来。あのときは、ヒマラヤを望むシムラーへ旅する前に数日間滞在の予定だったが、夫がインフルエンザにかかってしまい、予想外にも2週間ほど滞在したのだった。
■ジェット・エアウェイズ礼賛
ところで、わたしたちはジェット・エアウェイズを主に利用していることは、以前も幾度か記した。サーヴィスがそこそこによいし、なんとなく、気に入っているのだ。
年に一度、メンバーのステイタスに合わせてビジネスクラスへのアップグレード・クーポン券が何枚か送られてくるものうれしい。
しかし、クーポンを使わずとも、「先方のオファー」もしくは「夫の巧みな交渉術」により、アップグレードされることが数回に一度あり、それもまたうれしい。※活かせ交渉術! ビジネスクラスにアップグレード
先日、ジェット・エアウェイズの株が上がる出来事があった。先々週、夫はムンバイを訪れていたのだが、その際、スーツケースのハンドルがダメージを受けた。そもそもハンドルの調子は悪かったのが、そのフライトで完全に壊れた状態だった。
ハンドルの損傷を認めたジェット・エアウェイズ担当者は、夫に自宅の住所を尋ね、修理を申し出た。
結果的にいえば、翌日の朝、スタッフの一人がスーツケースをとりに来て、夕方にはハンドルが新品に取り替えられ、なおかつきれいに磨き上げられたスーツケースが届いたのだった。
その迅速且つ丁寧なサーヴィスに、驚き、感動した。
米国で買ったスーツケースとぴったりのサイズ、形状の部品で修繕されている。あらゆるスーツケースのパーツを取り揃えているのだろうか。あらゆる種類のボタンを取り揃えている帝国ホテルのランドリーサーヴィスの話を思い出した。
インドなのに。いや、インドだからこそ、かもしれない。
このようなサーヴィスは、人手過剰かつ人件費が安く、更には修理が得意なインドに相応しいサーヴィスであろう。
ムンバイの弁当配達人「ダッバワラー」もそうだが、うまく仕組みを作り上げれば、他の国では実現できないローテクでいい感じのサーヴィス業が、あれこれと実現しそうなインドである。
仕組みを作り上げ、人材を教育し、ビジネスを軌道に乗せるまでがたいへんそうではあるが。
ともあれジェット・エアウェイズ。2008年には人員削減問題で激しく揺れた時期があったが、ともあれ今後も末永く、安定した、快適な空の旅を提供してほしいものである。
■ビジネスクラス。それは出会いの場である。
ムンバイやデリー、バンガロールなど都市部を結ぶジェット・エアウェイズのビジネスクラスは、社交の場でもある。ということも以前記したが、改めて。
わたしは専ら、アップグレードしてもらってビジネスクラスに乗るのであり、自費で購入したことはない。従っては偉そうにビジネスクラスを語れる立場ではないのだが、ともあれ、夫の話や自分自身の体験を通して、いかにこのビジネスクラスで、知り合いなどに出会う確率が高いかを体験している。
知り合いでなくとも、著名な財界人に遭遇する確率は高く、夫もこれまでいろいろな人と名刺を交換して来た。先日のカヴィタの誕生日パーティで会ったモーガン・スタンレーの元CEOだったナラヤンと夫は、ムンバイ-バンガロール間のフライトで同席したのが、最初に会ったきっかけだった。
もっともわたしは彼の妻、ショバと別の会合で顔を合わせており、いずれは知り合うことになっていたのだろうけれど。
最近は企業もビジネスクラス利用を削減させ、またジェット・コネクトという全席エコノミーのフライトが増えたことから、以前ほど「ビジネスチャンスがある場所」ではなくなってきているようだが、それでも、出会いがある。
今日は、バンガロールからデリーという2時間半の長いフライトだということもあり、クーポンを利用してアップグレードしてもらうことにした。
フライトは満席で、ビジネスクラスも最後の2席だったが、なんとか確保できた。
機内へ入り、自分の座席と通路を挟んで反対側に座っている人の顔を見て驚いた。4年前、夫がインドへ移った時に勤務していた会社のCEO、ヴィノッド・ダムが座っているではないか。
「ヴィン!」
声をかけると、彼もびっくりして立ち上がり、ハグをし、再会を驚き合う。ヴィノッド・ダムとは、かつてインテル社にてペンティアム・チップを開発したことで知られ、「ペンティアムの父」と呼ばれている男である。
夫が彼の会社に勤めていた期間は半年ほどと短かったが、濃厚な日々であった。
あとから機内に入って来た夫も、偶然の再会に驚いている。
ヴィンは米国ベイエリアに住んでいるが、バンガロールには新しいファンドの立ち上げで訪れており、帰りにデリーの実家に立ち寄るためこのフライトを選んだのだとか。
以前、一緒にアグラを旅したときのこと、そのときにわたしが贈った写真集のことなど、懐かしそうに話す。あれから5年。ちなみに当時の記録は「インド彷徨(3)」に載せている。今より「よりデブ」な自分がいやなので、積極的にリンクは張らぬが、とりあえず。
ヴィン以外にも、夫のビジネスフレンドが2名、同じフライトに乗っており、互いの近況を報告し合う。
インド。
人口は多いが、ビジネス界や学会、芸能界など、それぞれの業界、コミュニティは、狭く濃密なのである。