アイスランドの火山噴火による火山灰で、欧州を起点、経由、目的地とする航空機が滞っている。わたしたちが滞在しているホテルにもまた、欧州からのゲストが多く、エレベータで乗り合わせた人たちが、
「数日前に帰る予定だったのに、来週の金曜日のチケットに変更された」
「超過滞在の料金は、もちろん自分たちで支払わねばならない」
「旅行会社からは、"ACT OF GOD" と言われるばかり」
自然災害。人智の及ばぬ世界。
仕方がないとはいえ、影響を受ける当事者にとっては、大変なことである。こんなにも、大規模に、数日に亘り、空に飛行機が飛ばない事態は、歴史的に珍しいことではなかろうか。
わたしたちは、いつもなら欧州経由のフライトを利用しているため、影響を受けているところだったが、今回初めてエミレーツを使用。
航路についての詳細はわからないが、とはいえ欧州経由よりはかなり「南側」を通過するに違いなく、今のところフライトのキャンセルなどは見られない。
明後日水曜にニューヨークを発ち、金曜の早朝にバンガロール着の予定だが、特に問題はなさそうだ。個人的には、幸運なことではある。
ここ数日は、美術館、博物館を巡り、「人間が創造したもの」「神(自然、地球)が創造したもの」を、目の当たりにしてきた。
こうしてみると、たとえば火山ひとつの噴火で、ひとたまりもなく。人間というのは、打ちのめされても、打ちのめされても、創造し続ける、なんという健気な生き物であろうか。
今や、船や車、列車など、飛行機以外の交通機関で移動する人がたくさんいるに違いない。
陸路と言えば、義父ロメイシュの話を思い出す。
彼が英国の大学に通っていた時、「交通費を節約して帰国する」をテーマに、ガールフレンドと二人でインドまで、「陸路」で帰ったという。しかもヒッチハイクで。
ガールフレンドは、ブロンドが美しいスウェーデン人だったらしい。
長期間かけて、なんとかデリーまで到達したとのことだが、紛争地帯などを避けながら、よくもたどりつけたものだと感心する。
あれこれと、旅情かきたてる話でもしてほしいところだが、
「アフガニスタンの食堂のトイレで、便座にお尻がはまってしまって、ガールフレンドに引っ張ってもらったんだよ」
などという話しか聞いたことがない。思えば数年前。彼は義継母ウマとスウェーデンへ旅をした。その旅の前、ロメイシュ・パパはうれしそうに、わたしとアルヴィンドにこっそりと耳打ちしたものだ。
「ウマには内緒だけどね。実は学生時代のガールフレンドと再会するんだ。ウマにはただの友だちって言ってるけどね」
件のスウェーデン人の彼女である。旅を終えてのち、ガールフレンドのことをロメイシュ・パパに問うたところ……。浮かない顔で首を横に振りながら言った。
「彼女は……。劇的に変わってた。歳とって、ものすごく太ってた……」
いったい、何を夢見ていたのかロメイシュ・パパ。自分も歳をとっているだろうに。むしろ会わない方がよかったのかもしれない。
地下鉄の中で発見した、アイスランド航空の広告。
タイミング、悪すぎる。
っていうか、このおじさんの、顔はなに?
白いパック? 塩?
意図不明な広告だ。
ともあれ。誰のせいでもない、この天災のために、いったいどれほど多くの人たちが、窮地に立たされていることだろう。
9/11/2001。
同時多発テロのころを思い出す。インドで結婚して2カ月後のわたしたちは、ニューヨークでの披露宴パーティを1カ月後に控えていた。
日本からの家族を招く予定で、オペラやミュージカル、ハドソン川クルーズのチケットなどをあれこれと手配。加えて野球好きだった父に、ベースボールのふるさと、クーパースタウンを見せたくて、彼の地の滞在手配も整えていた。
テロが起こり、とても披露宴や旅行を行う状況ではなくなり、すべてがキャンセルとなった。父にとって唯一のチャンスだった渡米が叶わなかったことは、今でも残念に思う。
わたしたちの結婚生活も、波乱の中でスタートしたのだったと、まるで遠い過去のことのようである。
さてさて、現在月曜日の朝8時半。今日はこれから、西日本新聞『激変するインド』の執筆だ。ニューヨークの空気の中でインドだけを綴るのは難しいので、いっそニューヨークの話題を盛り込むことにした。
明日の夜は、RKB『中西一清のスタミナラジオ』の収録。『アジアの街角』のコーナーだ。これもまた、テーマはお任せとのことなので、ニューヨークの中のアジア、インドについてを語ろうかとも思う。
★更なるNY滞在記録はこちら→インド発、元気なキレイを目指す日々