という話は、数年前よりしばしば耳にしてきた。インドの教育システムの構造についてをここで説明するのは面倒なので、興味のある方は、上の写真を参考にしていただければと思う。
これまで幾度か、日本のクライアントから、インドの教育事情に関するリサーチ、レポートを依頼されたことがあった。依頼された仕事はなるたけ引き受けるべく、努力をしたいと思っている。
しかし、ことインドの教育事情に関しては、とてもわたしの情報収集力とネットワークとでは、先方の望むデータを集めることができないことが予測され、辞退したこともあった。
わたし自身に子どもがいないこともあり、日常的に教育関連の情報を耳にすることはない。しかし、折に触れて知れば知るほどに、その一筋縄ではいかない感じに圧倒される。
今回、改めてBANGALORE EDUCATION TRUSTを訪問したことで、インドの教育事情について、個人的にもう少し知識を得たいと思った。
インドの教育産業が熱い理由はさまざまであるが、まず、若者の人口が多いことが一つ。人口の半数、つまり5億人以上が25歳以下であること。また、教育にお金をかける中流層が拡大していることなどが挙げられる。
州によってその教育事情は著しく異なるが、群を抜いて教育熱が高いのはアンドラ・プラデシュ州だとのこと。全寮制の予備校(コーチング・スクール)などが複数存在し、子どもたちに「猛勉強」をさせているという。
その具体的な猛勉強ぶりについて、夫から説明を受け、わたしはまた別の意味で、心底、ぐったりとした。
学校に通えない子どもたちが大勢いる一方で、まるで機械のように、朝から晩まで勉強をさせられる子どもたち……。その著しいギャップ。
ちなみにインド各地に点在するIITs(インド工科大学)の合格者の40%ほどがアンドラ・プラデシュ州出身者で占められているらしい。
先日も記したが、夫が手がけているプロジェクトの一つに、教育関連機関への投資があるとのことで、最近の夫は、インドの教育事情に詳しい。
さまざまな資料があるというので、基本的なものを見せてもらいたく、軽い気持ちで「資料見せて」と頼んだのだった。
と、夕刻、夫からメールで複数の資料が送られて来た。複数のリサーチ会社が作成したインドの教育事情に関するレポートだ。
いずれも興味深いが、ものすごいヴォリュームだ。コンピュータの画面を追うのが辛いので、印刷しようと枚数を確認したところ、全部のファイルを合わせたら、200枚にも上る。
どうしよう。そんなに印刷して、実際読むのか? と、自問していたところに、夫からメールが届いた。
「さっき送った資料、紙の無駄だから印刷しないように! 印刷した資料があるので、持ち帰ります」
無駄だと思いながらも、印刷せずにはいられない妻の行動を素早く察知しての夫のメール。さすがである。
大量の資料を携えて帰宅した夫。
「しっかり全部読んで、理解しなさい」
と、厳しい。全部は、無理!
同じ教育関連の情報収集でも、夫が目指すところと、妻が目指すところは、かなり異なるのではあるが、とはいえ自力では簡単に収集できない資料を見ることができるのは、幸運なことである。
非常に基本的な情報であるところの下の資料。一般的な情報源なので転載するが、ともあれこの、たったひとつのデータ(グラフ)を咀嚼するのにさえ、少々の時間を要する。
先日、「インドの公立学校は全体の93%を占める」ということを記したが、これはそのもととなる資料だ。
ちなみにこの数字は、K-12(Kindergardenから高校までの13もしくは14年間の教育期間)の教育機関を対象としたもので、大学や大学院、専門学校、予備校などを含めると、私立学校の比率が高まる。
インドにある約100万校のK-12のうち、私立は7%に過ぎないのだが、しかし。私立学校に入学しているのは、全生徒数の44%にものぼっている。
学校の数は公立の方が圧倒的に多いにも関わらず、生徒の半数近くが私立に通っている。この数字の向こうに、さまざまな現実が見え隠れしている。
このグラフの右側には、私立学校の内訳があり、同じ私立でも政府の支援を受けている学校と、完全なる私立のスタンダード、プレミアムといった具合に細分化され、その学費も大幅な差があることを示している。
なお、各種資料の上では、公立は"PUBLIC"、私立は"PRIVATE"と表記されているが、インドの公立高校は政府運営であることからGOVERNMENT SCHOOLと呼ばれている。
たとえば夫の母校でもある名門校、DELHI PUBLIC SCHOOLなどは、英国式にPUBLIC SCHOOLと冠されているものの、私立である。
なお、統計の数字は、いずれも絶対的なものは、ない。ということは先日も記したが、念のためここに補足しておく。
■統計。あてになる数字。あてにならない数字。(←Click!)
ところで、我が家のメイドのプレシラ。一人息子には私立の学校に行かせている。世帯収入は夫婦合わせてひと月3万円弱。彼ら3人家族に加え、義理の親や姉など計7人。
諸々の事情を鑑み、年に一度おさめる学費を、わたしたちが負担しているが、それはもう、雇用主としてはそうせずにはいられない状況なのである。
バンガロール界隈の公立学校の環境の悪さをして、子どもの教育を託せないと、このような言い方をすると語弊があるのを承知で書くが、階級差の著しいこの地にあって、「メイドでさえも」痛感しているのである。
今年からはまた、庭師の長女の学費も援助してはじめたことは、先日も記した。長女も、長男(弟)も、私立に通っているのだ。もっとも長男はケララ州に暮らす庭師の姉が面倒を見ているらしい。
両親が子どもを学校に行かせず、働きに出そうとしている貧困層が少なくない中、我が家の使用人家族は、無理をしてでもいい教育を受けさせようと、子どもの将来を見据えた立派な人たちだとも思える。
ところ先日、母がインドへ来た翌日のこと。メイドも、庭師も、母を見て挨拶をしたあと、すぐさま学費支援に対する感謝の気持ちを母に伝えたのだという。
わたしはその場にいなかったが、母曰く、ゼスチャーで、子どものことに対してお礼を言っていることがわかったとか。
母にお礼をいってくれるほどにまで、彼らにとって、子どもの教育には重みがあるのだろうということを痛感した。
今日はBANGALORE EDUCATION TRUSTへの支援について書くつもりだったが、なにやら話がそれてしまった。また改めて、記したい。
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