クリケットのワールドカップもまた、オリンピック同様、4年おきに行われているのだということを知ったのは、夫と出会ってからのことである。
米国在住時、母国インドへ大した関心を見せていなかった夫だが、クリケットの試合となると別であった。忘れもしない、2003年のワールドカップのころ。
インドが決勝まで進んだこともあり「見るべき試合」がいくつかあった。しかし、自宅のケーブルテレビではクリケットの中継が見られない。
普段は「8時間寝なきゃだめだ!」と言っている夫が、睡眠時間を力一杯削って、クリケットを観戦していることに、まずは驚いた。
深夜、車を飛ばして、試合が見られる郊外のインド料理店へ赴いたり、やはり「特殊な装置」を持っているインド人友人宅へ赴き、朝方、帰宅するのだ。
夫の「隠れた情熱」に、驚かされたものである。
多様性の国インドにおいて、あらゆる差異を乗り越えて、世間全般を盛り上げるクリケット。
その、偉大なるクリケットの詳細については、ちょうど3年前の4月、西日本新聞の『激変するインド』で触れた。
関心のある方は、左の写真をクリックして、お読みいただければと思う。
さて、今回のワールドカップ。インドにおける急激な盛り上がりを見せたのは、水曜日に開催された準決勝。インド対パキスタン戦だ。
わたしが夫と出会って以来、印パの試合は少なくとも2度あった。そのたびに、「国家ぐるみムード」が満ちあふれており、なにかと、ストーリーがあるのである。
今回、インド北部で行われた試合には、パキスタンのギラニ首相が訪れ、インドのマンモハン・シン首相とともに、観戦している。
8時間ほども、二人して並んで座っての観戦である。
この状態をして、「クリケット外交」と呼ばれているが、二人はいったい、何を話しているのだろう。
そもそも、この状態で、何が話せるのだろう。
多忙を極めているはずの、両国の首相が、8時間、試合を見続ける……。それだけで、すでに、熱いといえば、熱い。
禅問答的な、集中力と精神力が求められる感じだ。
インド勝利後の、シン首相の、感情を抑えた「ゆっくり静か〜な拍手」をする姿が、印象的だった。
さて、昨日の決勝戦、インド対スリランカは、ムンバイで開催された。
我が家には、義兄ラグヴァンも来訪しての観戦だ。
ちなみに義姉スジャータは、現在、デリー滞在中なので、彼が一人である。
午後2時半より試合開始。
わたしはダイニングルームにコンピュータを運び、自分の世界に没頭しつつも、ときどき試合の様子を見に行く。
夫曰く、彼の会社のCEO(NRI:印僑)が、現在ニューヨークから来ており、ムケーシュ・アンバーニのブースで観戦しているらしい。
今回のムンバイ来訪を無理矢理仕事に結びつけるべく、インド各地及び、米国のスタッフたちが、本日午後よりムンバイに集結しての「年に一度の全社ミーティング&親睦会」が行われるとのこと。
しかも、明日(月曜日)、ミーティングのあとは、スタッフの結束力を高めるため、クリケットの試合をするらしい。
おいおいおい。みんな、無茶して体調壊すんじゃないよ! という話だ。
とまあ、祖国を離れても、インド人はクリケットなのである、という一例だ。
さて、試合であるが、時にスリランカ優勢、時にインド優勢と、それなりに接戦ではあったようである。詳しくはわからん。
夕食を供して(もちろんTVディナー)、その後は、かなり頻繁に、テレビの画面へ様子を見に伺う。
最後の1時間ほどの、「多分、インドが勝つだろう」の状態となってからは、優勝の瞬間を見たいものだと同席する。
夫はと言えば、世間の盛り上がり(コマーシャルの間、庭を散歩するときに聞こえて来る)とは裏腹に、すでにテンションが落ちている。
勝つとわかっているからか。ここしばらくの、テレビ観戦疲れか。
とはいえ、最後、キャプテンのMSドーニー(ハンサムな男)が、あまりにも麗しいホームランを放ったのには盛り上がった。
ちなみにクリケットでは、それをしてホームランと呼ぶのではなく、SIXER(6点打)と言う。
その瞬間から、ご近所からはあちこちで歓声があがり、花火がどんどこ打ち上がり、それはもう、たいへんな騒ぎである。
1983年以来、初めての優勝。それはもう、盛り上がらないわけがない。
賑わいを楽しもうと、外へ出てみる。隣接するアパートメントビルディングの、窓々を眺める。人々が、喜びの声を上げている。
家族で、親戚で、友人同士で、集まり、テレビに向かい、半日を共にし、ついには勝利を祝い合う。
なんという、溌剌と、力に満ちた、喜びだろう。
歓喜がほとばしる夜空を見上げれば、しかし遠く祖国のことが偲ばれ、実に複雑な心境だ。
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さて、明日はUGADI(ウガディ)。南インド(カルナタカ州やアンドラプラデシュ州)の「正月」である。また正月かい、という話である。
世の中はUGADIのセールが満開で、ここ数日の新聞広告も賑やかだ。
明日もまた、今日に引き続きドライヴァーは休むらしい。夫は先ほど、ムンバイへ飛び立って行った。明日は静かな一日になりそうだ。
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以下、過去の印パのクリケット試合に関する記録。
■されどクリケット。 02/13/2006
■泥沼に咲く蓮の花。印パのクリケット試合 3/30/2004