ニューヨーク滞在中に、とりとめもなく考えた結果、たどりついた一つの結論。
それは、「自分のライフを、きちんとする」ということだった。
10年前。9/11/2001。結婚数カ月後のわたしは、しかしニューヨークを離れられず、夫の暮らすワシントンD.C.との二都市生活を送っていた。
あの同時多発テロを機に、自分の行く末について、深く考えた。その結果、人生の優先順位を大幅修正し、「夫と一緒に暮らす生活」を一番に移したのだった。
あの10年前の延長線上に、今がある。
そしてまた、自分の在り方、行く末についてを、考えざるを得ない出来事が、母国で起こった。
今回は、自分が45歳という、いわゆる「人生の折り返し地点、もしくは超過点」にあるせいか、よりいっそう切実に、先を思った。
思いながら、とはいえ、大した目標や決意などが閃くわけでもなく。
ただ、一つ確実に思ったのは、前述の通り「自分のライフを、きちんとする」ということだ。
ライフ。LIFE。この一語に込められたさまざまな意味。
生命。生活。日常。人生。寿命。生涯。活気。生気。鮮度……。
ライフの一語が包含する事柄。自分のことを、まずは一生懸命やる。
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世界は他者への評価や干渉に満ちあふれている。ということを、人と関われば関わるほど、痛感する。干渉するのは、批評するのはたやすい。
しかし、本当は、一番簡単なはずの「自分を、見直す」ということを、怠っている人もまた、多い気がする。人を変えることはできないが、自分を変えることは、多分できる。
それをせずして、他人の動向に、口をはさみすぎるのは、見苦しいというものだ。わたしとて、人のことをいえるような生き方をしているわけではない。
だからこそ、敢えて、意識的に、見直そうと思うのだ。
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見知らぬ他者への干渉は、インターネットが誕生し、人々とネット上で交流するようになって一層、濃厚なものとなったような気がする。
などということは、わたしが書くまでもなく、ネット以前の社会を知る多くの人々が実感していることだろう。
もう、このコミュニケーション世界の是非を問うことすらナンセンスとばかりに。
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こんなときだからこそ、初心に返らねば、と思う。
極力「削ぎ落とした状態」の素の自分に、果たして何ができるのか、見極めたいとも思うのだ。
自分のために、自分にできることを、まずは前向きに、やる。面倒を厭わず(とはいえ、面倒なのだが)、自分を磨く。
いつも思っていることではあるが、それがささやかなことであれ、「隗より始めよ」だ。
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「思いやりの心」や「慈しみの心」。思いはそれぞれの人の心に、それぞれの度合いで、それぞれの形で在る。
笑いたい人は笑うべきだし、踊りたい人は踊るべきだし、食べたい人は食べるべきだし、歌いたい人は歌うべきなのだ。
そのときの、各々の気持ちを、誰が評価できよう。
自分のやりたいこと、すべきこと、それを一生懸命遂行することのたいせつさ。
やるべきことを先延ばしにせず、一つ一つを日々、片付ける努力をしたいと思う。
「世間のためになにをする」と考える前に、「自分と、自分の家族のために、なにができるか」を、まずは考える。
世界を憂う前に、天災を憂う前に、世界の平和を望む前に。
自分たちが、ごはんをきちんと食べることを考える。
与えられた仕事をきちんと仕上げるために努力する。
家庭内の平和を守る。身の回りの人を、思いやる。
小さな平和が集まって、大きな平和が築き上げられる。しっかり、食べて、働いて、笑って、暮らすために。
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そんな次第で。
ニューヨークから戻って来ての先週は、「ひとまず」身の回りのことを片付けている。
・ダイニングルームと使用人部屋のドア取っ手が同時故障(メイド30分閉じ込められ)取り替え
・天井のファン1機故障部品交換
・バックアップ電源故障交換手続き(手間取り中)
・バーカウンターの一部キクイムシにやられ交換取り替え完了
・庭の改装工事中(任意)……この一週間の雑事。まだ尽きない。
と、ツイッターにも記した通り、雑事が尽きない中で、まずは衣類の整理。寄付に回すもの、使用人にあげるもの、あれこれと分類。
新しいものを買ったら、使わなくなったものを潔く、片付ける。捨てるのではなく、なるたけ有効に。そして、クローゼットの数を増やさないように。
このほかにも、「勉強」「仕事」「社会活動」……あれこれと、したいこと、すべきことはあるのだが、ともかく一つ一つに対して丁寧に、取り組んで行こうと思う。
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さて、数日前より、「庭の改造作業」を行っている。4年前に新居を購入して以来、このL字型の庭を、なんとなく、使って来た。
日のよく当たる表の方。芝生が植えられていたのだが、庭をぐるぐる歩いているせいで、芝生がすっかり剥げてしまった。
セントラルパークのシープメドウで、ふわふわの芝生を見た夫が、「こんな芝生だったらいいのに」というので、先日、ナーサリーを訪れた。
身体障害者の人たちが働くNGOのナーサリー。ここで新しく芝生を買うことにした。
その一方で、日があまり当たらない裏側の方に、遊歩道を造ることにした。庭師一家が毎日来ているのだが、彼らに指示をしつつ、わたしもレンガの移動などを手伝う。
というか、紐を使って並行を確認するなど、わたしが自分でやらぬことには、あまりにも「適当な仕上がり」になってしまうから、立ち会わずにはいられないのだ。
レンガの囲みの中には、裏庭に適当にアレンジして植えていた植物を並べて植え直す。
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日曜の今日は、庭師が休みだったので、自分で伸びきった植物類を、バサバサと剪定した。それはもう、剪定というよりは、やたらと思い切り切る。
伸びきったハイビスカス。ブーゲンビリア。ベンジャミン。あれこれと。
丈を短くすればまた、根がしっかりとして、新たな緑が次々に、生まれるのだ。
これまでは、庭師が「ちまちまと」切っていたのを、なぜか思い切り、切りたくなって、今、庭はもう、切りくずだらけである。
レンガを移動させたり、剪定したり、これがかなりの肉体労働で、実は今、全身が筋肉痛である。それでも、汗を流すのは心地よい。
夫は、「なにやってるの? 庭師にしてもらえばいいじゃない」
と、そんな妻を不可解に思っているようだ。
仕方あるまい。DIY(Do it yourself)のコンセプトからは遠いインドでの生活。庭師の仕事は庭師がやる。そこには階級社会の名残が息づいている。
雇い主が、しかも女性が、率先して素手で土を触れるということは、多分あまりない。しかしわたしは日本人なので、この際よいのだ。
なにしろ、自分が動いて、汗を流したかった。肉体労働の醍醐味は、仕事を終えた後の爽快感にある。それをまた、味わいたかった。
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明日は、ナーサリーの人たちが、1000スクエアフィート分の芝生を運び込んで来る。庭の総面積が3000スクエアフィート。3分の1を、ふかふかのメキシコ芝生(というらしい)に植え替える。
初日は、地面を掘り返し、耕し、肥料などをまく。そして2日目は、芝生を敷き詰める。
と、軽く書いてみてはいるが、なんにつけてもスリリングなインド。目を離せない。マネジメントが肝要。
従っては明日、そして明後日の午前中(午後からムンバイ)は、現場監督として、立ち会うことになる。つつがなく、ことが運ぶことを願いつつ。
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ひと仕事を終え、シャワーを浴び、冷えたビールを飲みながら、コンピュータの画面に向かう。
母の携帯ブログを読んだところ、本日の『題名のない音楽会』で、レナード・バーンスタインのオペラ『キャンディード』で流れる音楽が紹介されたとあった。
『僕らの畑を耕そう』という邦題の。YOUTUBEで、聴いた。染み入った。
"Make Our Garden Grow."
わたしの、今日の気分で訳するならば、
『我らの庭を、育てよう』
ともかくは、一日一日、自分にできることを、一つずつ、片付けていこう。
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"Make Our Garden Grow."
(CANDIDE)
You've been a fool
And so have I,
But come and be my wife.
And let us try,
Before we die,
To make some sense of life.
We're neither pure, nor wise, nor good
We'll do the best we know.
We'll build our house and chop our wood
And make our garden grow...
And make our garden grow.
(CUNEGONDE)
I thought the world
Was sugar cake
For so our master said.
But, now I'll teach
My hands to bake
Our loaf of daily bread.
(CANDIDE AND CUNEGONDE)
We're neither pure, nor wise, nor good
We'll do the best we know.
We'll build our house and chop our wood
And make our garden grow...
And make our garden grow.
(CANDIDE, CUNEGONDE, MAXIMILLIAN, PAQUETTE, OLD LADY, DR. PANGLOSS)
Let dreamers dream
What worlds they please
Those Edens can't be found.
The sweetest flowers,
The fairest trees
Are grown in solid ground.
(ENSEMBLE)
We're neither pure, nor wise, nor good
We'll do the best we know.
We'll build our house and chop our wood
And make our garden grow.
And make our garden grow!