金曜の夜、ムンバイからバンガロールに到着したばかりだというのに、土曜の朝は5時半起床。
というのも、夫が発起人となってはりきっている「MITクラブ・バンガロール」の、初のアウトドア・イヴェントがあるからだ。バンガロール市街にある「ラルバーグ植物園」を巡るツアーである。
彼が企画した以上、眠いからと欠席するわけにもいかぬ。それに、植物園巡りはわたしも以前から興味があった。曇天が気になったが、ともかくは6時過ぎに、家を出たのだった。
ガイドを勤めてくれるのは、Bangalore Environment Trustの役員、ヴィジャイ。リタイア後の趣味でやっているのだという。
今日は、自分のための覚書の意味を込めて、写真を多めに載せておく。
まずは植物園の資料をもらい、この植物園をはじめ、インドの樹木や植物に関する、簡単な歴史についての説明を受ける。
植物園の入り口付近に広がっているこの岩山。古い地層だとは聞いていたが、事実、30億年前に形成されたとされているらしい。
インドの学者が、嘘をでっちあげているわけではないので、念のため。
グランドキャニオンよりも、ヒマラヤよりも古い形成。古すぎてよくわからんというくらいに古い。
岩山の上に立つのは、16世紀、近代バンガロールを創始した領主、ケンペ・ゴウダ (Kempe Gowda)によって建立された軍の監視塔。
丘の上まで至らずとも、少し上に上っただけでも、市街を見渡せる眺望のよい地理だ。
一番高い場所からは、360度を見渡せて、確かに監視台を建てるには好適の場所である。
岩の上では、土曜の朝7時だというのに、すでに人々がくつろいだり、運動をしたりしている。
インドの夜は遅く、朝は早い。
さて、このラルバーグ植物園は、世界でも最も規模が大きく、擁する植物の種類も多いとのこと。
驚いたのは、バンガロール、いやインドで見られる多くの樹木、植物が、インド由来のものではなく、異国から運ばれて来たものだという。
ここに植えられている樹木の多くは、18世紀にこのあたりを統治していたティープー・スルタン(←Click!)が、ペルシャやトルコ、アフリカ大陸、南アメリカなどから運び込ませたという。
たとえば、バンガロールの初夏を彩る赤い花、グルモハル(火焔樹)は、マダガスカルから。
空を覆うばかりに枝葉を広げ、地上のものらをやさしげに包み込む様子のレインツリーはカリブの島から。
ピンクや黄色やオレンジなど、艶やかな花が緑を彩るブーゲンビリアはブラジルから。
やはりバンガロールの初夏の中空を、しかし薄紫に染めるジャカランダもまた、ブラジルから。
インドの果実や野菜も、インド亜大陸原産のものばかりではない。70%もの植物が、外来種だという。
インド料理で頻用されるトマトやタマネギ、生姜なども、そもそもはインドのものではなく、中南米産のものが少なくない。
ということは、東京で編集者をやっていたころ、中南米産の植物を調べたことがあったので、知っていたが、いかにもインド原産のような印象なので、違和感がある。
我が家の庭に隣家よりせり出しているインド菩提樹。
この樹のたもとで、仏陀が悟りを開いたことでも有名な樹。
木の実が熟すころは、小鳥たちが集まる樹。
通称、ピープルツリー。
と、わたしはこれまで、100万回くらい記してきた。
葉がざわめく様子が、まるで人々のざわめきにも似て、だからピープル。
「人々の樹」とも呼ばれているのだな、と思っていた。
以下のごとく、「People Tree」をテーマに、庭の様子を描いた日もあった。
■People Tree...菩提樹の実をついばむ無数の鳥たち。(←Click!)
にも関わらず!
ピーパル……。
ピーパル?!
別名、The Nirvana Tree。
涅槃の樹。
クワ科イチジク属の樹木だとのこと。
ピープルではなく、ピーパルであった。
こんな激しい間違いを延々と続けていたとは、ライターとしてあるまじきことである。過去のブログに遡って、すべて修正せねばならない。嗚呼、面倒だ。
それにしても、「人々の樹」が「人々の樹ではない」とわかった途端に、その存在感が微妙に揺らぐのが、妙な感じ。
涅槃。ニルヴァーナ。きれいな言葉だが、この言葉を思い出すときに、必ず沖雅也も思い出してしまうのがまた、痛い。
さてさて、気を取り直して、こちらはバンヤンツリー。これもまたクワ科イチジク属 (Ficus)だという。
ところでバンガロール郊外に、超巨大なバンヤンツリーが見られる村があるらしいが、わたしは訪れたことがない。ともかく、大きいらしい。
さて、こちらはアムラの木。アムラとは、ヴィタミンCの含有量がやったらめったら多い果実をつける。アーユルヴェーダでも推奨されており、ピクルスやら砂糖漬けやらにして食される。
ヘアオイルやシャンプーなど、コスメティクスに使われることもある。
樹下に小さな実が落ちていた。市場などで見られるのは、ピンポン球を少し小さくしたくらいのサイズだ。そのまま食すと非常に酸っぱいので、パウダー状に加工されているものもよく見られる。
いわば、健康食品だ。
……と、奇妙な樹木を発見。樹の幹からいきなり、蕾が出て、花が咲いている。その唐突な感じとは裏腹に、清楚な様子の花である。
花の咲き方が奇妙なら、その果実も奇妙。左上の写真がそれだ。この形状をして、この木は通称、キャンドル・ツリーと呼ばれているらしい。
さて、こちらの樹木。一見する限りでは、特徴は見られないのだが、葉の形状がユニークなのだ。落ちた葉を拾ってみると、こんな感じ。くるりと巻き込まれていて、小さな柄杓のようにも見える。
これもまた、クワ科イチジク属の樹木で、通称「クリシュナのバターカップ」と呼ばれている。
本来は「黒い肌」らしいのだが、絵では「青い肌」に描かれることの多い「ハンサムな神様」だ。
そのクリシュナ。子供時代から、ヨーグルト(ダヒ)やらバターやらの乳製品好きだったらしい。
あるとき、人目を盗んでバターを食べていたところ、母親に見つかってしまったため、この葉でバターをすくいとって、逃げたらしい。
どんな神様よ。
という話はさておき、そんな逸話がある、樹木なのである。
なお、この方のサイト (←Click!)に、クリシュナがどん欲にヨーグルトを求める姿の絵が載せられている。参考までに。
サルバトール・ダリの世界を彷彿とさせる枝の形状。あるいはエッシャーの騙し絵が具現化したような、その様子だ。
どこから何が伸び、どう癒着していったのか、よくわからない、不思議な形。
右上の写真はまた、非常に身体によい効能を持つ木らしい。アーユルヴェーダでも勧められているという。
話をきちんと聞いていなかったので、何によいのかはわからんが、樹皮を煮出して飲むらしい。迷彩柄の、木肌だ。
木々の特徴を丁寧に教えてくれるガイドのヴィジャイ。夫と二人で話していたところ、夫が、
「ええっ!? 信じられない!!」
と大声を上げる。なんだなんだと、話を聞けば、デリー出身の彼、ロメイシュ・パパと高校時代、友だちだったらしい。
早速、義父ロメイシュに電話をする夫。
まあ、個人的にはびっくりな話題だが、珍しい樹木の話かと思って集まった参加者は、何気にしらける。
随所に動物も見られた。妙に、「イラッ」とさせられる存在もあり。
参加者は20名を超えて、それなりに盛況である。MITの卒業生だけでなく、今年から入学するという、うら若きティーンエージャー2名も混ざっていた。
学問的頭脳力の高い人たちの集まりだけあり、ガイドの話を聞く姿勢も真剣だ。わたしは頑張ってみるものの、集中力が細切れ。
ちょろちょろと動き回って、写真を撮ったりしている方が楽しい。そうして、いつものことだが、要点だけをアルヴィンドに教えてもらうのである。
これは、カンナの花の仲間だろう。その色合いがとても美しかった。
右上はプルメリアの仲間。プルメリアは花も茎も葉も、ともかくあっちこっち、有毒性だ。きれいなんだけど。実際、髪に挿したりするのは、いかがなものなんだろうか。
この果実はなんだろう……と思いきや、これは果実ではなく、蕾なのだという。
エレファント・アップル。象のリンゴ、という名の木。幸い、1輪だけ、開きかけている花を見つけた。白い可憐な花。1カ月もすれば、満開になるという。そのころにまた、見に来たい。
またしても、ちゃんと話を聞いていなかったがこの木。大きな実がなっている。
ヴィジャイが鞄から取り出した実。乾燥した実に、精緻な彫刻が施されている。
この植物を示しながら、ヴィジャイ曰く、
「これは、シャネル No. 5の原料ですよ」
そう。香水などに用いられるイランイラン (ilang-ilang) だ。
黄色っぽいものが香りが強いというので、みなでくんくんと鼻先をくっつける。
たとえばスプーン1杯ほどの精油を作るには、いったいどれほどの花が必要なのだろう。
さて、このフワフワとした白い花をつけた樹は、インドの家具でよく用いられているティークウッド。チーク材だ。我が家にもチーク材の家具は少なくない。
一方、右上はマホガニー。インドでは。マホガニーの家具は、あまり見られない。ちなみに我が家の家具は、その大半がインドで調達したにも関わらず、マホガニー製。
購入先のオーナーがインドネシアに工場を持っていることから、そこで製造してインドに輸入しているためだ。
移住当初は、ソリッドウッド(天然木)の家具がお手頃価格で入手できたインド。昨今は価格急上昇で、なかなかに高価なものとなりつつある。
それでも先進諸国に比べれば、廉価ではあるのだが。
左上は、ユーカリの木。落ちた葉からはユーカリプス・オイルのいい香りがする。右上の木は、木肌がとげとげしいもの。
奇妙な成長を果たしている樹木よりも、その傍らで、必死にエクササイズをしているおじさんの方が気になって仕方がないの図。
右上写真の樹は、確かマツ科だったか。樹脂が多く、アンバー(琥珀)ができるのだという。
琥珀とは、ご存知かと思うが、樹脂が地中で固化してできるもの。石の内部に植物の葉や昆虫が混入していることがある。
それらをきれいに研磨したものが、宝石として売られている。
さて、最後にみなで記念撮影をしたあと、植物園にほど近いローカル食堂、MTRへ。バンガロールの有名店ながら、「料理が全体に脂っこい」との噂を聞いていたことから、訪れたことはなかった。
が、それなりに、楽しみにしていた。
食事時はいつも込み合っていると噂の店。確かに、たいへんな喧噪だ。しかしながら、ウォーキングツアーの参加者は、「ヴィジャイのつて」で、上階の部屋が提供される、待つことなく、テーブルへ。
左上は、南インドの朝食メニューの一つ、イディリ。イディリの中にナッツなどの具が入っていて香ばしく、これはおいしい。
ココナッツのチャトゥネなどをつけて食べる。濃厚なブドウジュースも美味だが、ちょっと甘過ぎか。
そして右上は、噂のドサ。基本、ドサ好きだが、ここのは分厚くて、油脂がたっぷり過ぎて、わたしの口には合わなかった。個人的には、少々薄めで、パリッとしている方が好き。
マイソールに行く途中にあるティファニー、あるいは、もう久しく訪れていないが、市街西部のSAMRATのドサが好み。
ホームページに最新情報を掲載したいので、近々、SAMRATのドサを食べに行こうと思う。
一番気に入ったのは、このコーヒー。砂糖を入れたあと、2つのカップで「伸ばして」飲む。わたしは砂糖をいれず。ミルクのほんのりとした甘みと、コーヒーの風味が調和して、非常においしかった。
そんなわけで、本日の植物園巡り。綴りきれていないが、ともあれ、非常に有意義なものであった。下記、Bangalore Walksで、定期的なツアーを行っているので、興味のある方、お問い合わせを。
■BANGALORE ENVIRONMENT TRUST(←Click!)
■BANGALORE WALKS(←Click!)