きっかけは数カ月前。夫がとあるカンファレンスへ赴いた際、マルハンの姓を持つ男性と出会った。
マルハンという名前は、パキスタンとの国境に近い、パンジャブ州が起源らしく、インドでは少ない名前だという。親戚以外でマルハン姓に出会ったのはお互い初めてだということで、話が盛り上がったらしい。
彼、サチンは、入籍したばかりの妻、マリア(ブラジル人女性)とバンガロールに住んでいるとのこと。
「ひょっとして、遠縁かも?」
ということで、義姉のスジャータとその夫のラグヴァンも招き、8月のある日、夕食を共にしたのだった。
サチンは盲人向けのコンピュータ開発の会社を起業。マリアはワシントンD.C.拠点のNGOに勤務。彼女がムンバイオフィスで働いていたときに、サチンが仕事の件で訪れ、出会ったという。
マリアは日系ブラジル人の友人も多く、次の夫婦での旅行先は日本と決めているらしい。わたしが出した日本風味の料理も、みな喜んで食べてくれた。
その彼らから、結婚の招待状が届いた。初日はレストランを貸し切ってのサンギータ(音楽の夕べ)。翌日がホテルでの結婚のセレモニーだ。
いくら姓が同じだからって、インドは12億人もの人々が住んでいる。実際に血縁かどうか定かでもない相手だし、結婚のセレモニーだけ顔を出せばいいのでは? と思っていたのだが。
サンギータの招待状には「インドとブラジルが融合した賑やかな宴」とあり、ドレスコードもカジュアルとある。
インド人の踊りに対する激しさと、ブラジル人の踊りに対する情熱が融合したら、どんなことになるのか?
新郎サチンも、別送のメールにて、
「見当がつかない。恐ろしい」
と記していた。が、勿論、マイハニーは乗り気である。
「僕たちは2晩とも出席するよ!」
ブラジルからはるばるやってくる女子たちを目の当たりにできる好機だ! と思っているに違いない。
そんな次第で、わたしも昨夜はサリーではなく、ドレス(ワンピース)を。ワシントンD.C.在住時に買っていたもので、7年もクローゼットに眠っていたのを引っ張り出してきた。
クリスマスツリーとのコーディネートもばっちり(!)で、とっててよかった。
で、結論から書くと、サチン・マルハンの一家と、我が夫の一族は、遠縁であったことが発覚した。
アルヴィンドの父方の祖父が、サチンの祖父(わたしの右隣に立つ老紳士)と従兄弟同士だというではないか。
それがわかるや、音楽がガンガン鳴り響く中、大声を張り上げながら、マルハン家に関わる人々が、過去の記憶をたぐりよせては、確認する大騒ぎ。
遠縁は遠縁でも、近かったことも発覚。
サチンの両親が結婚したときの仲人が、アルヴィンドの祖父だったらしい。
それはずいぶん、重要な間柄である。今まで交流がなかったこと自体が、むしろ不思議だ。
マルハン家界隈の人々は、見合い結婚が主流のインドにあって、なぜか恋愛結婚、しかも異教徒同士の結婚が少なくない。
アルヴィンドの祖父の兄(ヒンドゥー教徒)も、シク教徒の令嬢と結婚している。ちなみに彼女は、デリーで4つの大学を運営する才媛で、80歳を過ぎた今も現役だ。
ボーダーを感じさせない一族だからこそ、我々の結婚も歓迎されたのだと思う。同時に、欧米に移り住んだ人も多く、遠縁の存在を確認できぬまま、世界各地に散らばっているようだ。
そんな中、カンファレンスで偶然出会い、途絶えていた縁を結び直せたことは、たいへんな偶然であった。
「僕とアルヴィンドは親戚に違いない。眉のあたりが、僕たち似てるしね!」
と言っているのを聞いて、(インド人の眉って、たいてい、そんなんやろ……)と心中で軽く突っ込んでいたのだが、本当にうっすら、血がつながっていたとは。
他界したサチンの実父に代わって、あれこれを取り仕切るべく、ドバイから訪れている。
自動車関連の仕事をしていて、日本へもたびたび訪問しているらしい。
1月にデリーで開催されるオートショーにも訪れるとのことで、「ぜひ、父にも会いに行ってください」と、アルヴィンドと義姉スジャータも大歓迎だ。
それにしても彼の顔つき。どことなくマイルドで、インド人にもブラジル人にも日本人にも見えてしまうから不思議だ。
え、見えない?
宴は益々、賑やかになり、ボリウッド音楽やらサルサやらサンバやらもう、音楽はあっちこっちに飛びまくり、しかしインドとブラジルのノリの近いことと言ったら!
音楽と踊りで、やたら血を騒がせ、盛り上がりまくる国民性。
いかにも「セクシーなブラジルのお姉さん」との記念撮影にも余念がなく、本当に賑やかな夜であった。これが、結婚式のファンクションだから、楽しいものである。
さて、今夜はホテルのガーデンで結婚式のセレモニー。「よい日時」が選ばれているせいか、開始は午後4時半から。
平日ゆえ、夫が仕事を終えてからの参加となり、到着した7時過ぎにはすでに儀式は終わっており、新郎新婦の挨拶や、友人らの挨拶が行われている最中だった。
二人の友人らからのギフトの発表では、座が一段と盛り上がった。
新郎新婦が切望していたという「日本への旅行」がプレゼントだとか。なにかと、微妙に、ご縁である。
京都を中心に旅するプランらしく、旅の前には、アドヴァイスを仰ぎたいとのこと。わたしたちも一緒に旅したいくらいである。
せっかくお近づきになれた彼らだが、3月には夫婦揃ってワシントンD.C.に引っ越すらしい。残念だが、わたしたちの周囲では、ごく普通の、流浪する人々だ。
ニューヨークに渡り、アルヴィンドと出会い、結婚してからのわたしの人生は、それまで以上に「予測不能の面白さ」がちりばめられていると。
国際結婚。というよりは、結婚とは、相手がいかなる国籍であれ、他人は他人。その他人が出会い、一つの家庭を築き、徐々に親戚 "Relative"の輪を広げていく。
国境を超え、人種を超えて、関わり合う人々が増えることの面白さ。
これから先の人生も、予測のつかない出来事が、きっと待ち受けていることだろう。
ま、結婚生活、いろいろあるが、そういう「面白い部分」にフォーカスを当てて、人生、愉しみたいものである。