新年早々、香港へ旅に出かけた。香港へはつい最近行ったばかり……という気がしていたが、過去の旅の記録を遡って驚愕。12年前のことであった。有言実行で次々に行動を起こさねば、あっという間に還暦、古希、喜寿、米寿だと痛感させられる。
さて、1月8日深夜のフライトでバンガロールを発ち、9日の朝、香港に到着した。ここから3泊4日、実に濃密な旅だった。
仕事でもなく、かといって完全にプライヴェートとも言い切れない、我が人生、初の試みの女性8人旅。年始早々、これはまた、実験的な出来事でもあった。
一昨年、夫がメンバーとなり、夫婦で属しているYPO (Young Presidents' Organization) というグローバル組織。世界各都市に支部があり、我々はバンガロール支部に籍を置いている。毎週のように、なんらかのセミナーや会合、ソーシャルイヴェントがあり、毎月のように、世界各地でさまざまなイヴェントが開催されている。
昨年末のジャイプル旅も、「YPO南アジア」のイヴェントだった。世界各地のメンバーが集い、交流を深めつつ、ビジネスに、プライヴェートにと、彩り豊かなプログラムが組まれていた。
そのようなイヴェントのほかに、YPOが重視するものとして、「フォーラム」と呼ばれるグループ活動がある。メンバーのうち8名前後がグループとなり、毎月1回、数時間のミーティングを行う。
企業のCEOを始めとするトップ・エグゼクティヴは、ビジネスシーンにおいては基本的に孤独で、自身の判断力が問われる。その判断如何によっては、企業の根幹を揺るがしかねない。重責を担うエグゼクティヴとて人間。誰かに相談したい時、人の意見を仰ぎたいこともあるのは当然だ。しかし迂闊に情報を「漏洩」することもできない。
そんな中、このフォーラムのグループは、「完全極秘」という最大の条件のもと、確立された様式に従って運営されている。自分を語り、人の話を聞くだけでも、一人ではたどり着けない類の機知や見識に、臨場感を伴って接することができる。
全世界に約3,800ものフォーラムがあり、そこでは「リーダーシップ」を中心に、ビジネスやライフスタイルなど、「生きること」に関わる全般を学ぶための、さまざまなプログラムが用意されている。これはまた、YPOの核となるものでもあり、フォーラムに参加するメンバーは、然るべき研修を受けることも義務付けられている。
正会員のフォーラム参加は義務だが、伴侶は任意。
わたしは当初、自分がそのようなグループに属することになるとは考えていなかった。
昨年、メンバー夫妻とディナーに出かけた際、チベット系インド人である妻のディッキーと意気投合した。後日、彼女が属するフォーラムに入らないかと誘われた。
率直に言えば、最初は躊躇した。なにしろ、この先の生涯、交流が続くであろう「親しい友人」が自動的に、一度に7人もやってくるのだ。
それが自分の人生に、どのような影響を及ぼすのか、見当がつかなかった。
ともあれ、7人が揃う時に一度、一緒に食事でもと、メンバーの一人の邸宅に誘われたのだった。
その夜の会話を通し、予想以上に、それぞれのメンバーに対し、好感が持てた。富裕層で豪奢なライフスタイルを送っている人も少なくない一方で、みなそれぞれキャリアを持ち、地に足のついた考え方を持っている様子が見受けられた。
他人を、束の間、一側面だけを見て、その人となりを判断することは不可能だ。自分とて、相手にどのような印象を与えているのか、未知数なのだから。
ゆえに、直感に従うことにした。
彼女たちとなら、いい関係を築いていけるだろう、彼女たちとの交流は、自分のライフを彩り豊かにしてくれるだろうと思い、参加を決めたのだった。
これは自分の人生にとって、かなり大きな意味を持つ「変化」でもあった。そしてこの決断は、わたしにとって間違いなく、いい潮流となっていることを実感している。
さて、それぞれのフォーラムグループは、独自で年に2回の旅行を実施することが義務付けられている。国内での1、2泊の旅行、そして海外での数泊の旅行だ。旅行中は、ただ観光をするだけではなく、計6時間のミーティングを行う。ミーティングを通して、自分の人生を顧みたり、現在の有り様を見つめ直したり、学ぶことは多々ある。
今回の旅を通して、年齢を重ねたからこそ楽しめるようになることがある、ということを実感した。
若者向けセミナーでは、必ず、夏目漱石の『三四郎』に出てくる描写を取り上げて、「囚われてはダメだ」と語るのだが、気がつけば、自分自身がいつしか、囚われることが多くなっていた気がする。歳を重ねて経験を積めば、良くも悪くも、自分の世界がより濃厚になり、柔軟性を損なうことがある。感性が怠惰になることもある。
このごろは、そのようなことに改めて気付くことが多くなった。適切な人との交流は、自分の考え方の「仕切り直し」のいい契機ともなるということを、彼女たちとのミーティングを重ねるにつけて、実感している。
さて、香港旅の途中にアップロードしたInstagramの記録を転載しつつ、少し言葉を追記して、ここにまとめて残そうと思う。
Funky girls have landed in Hong Kong. We had lunch at a super local restaurant, and I tried the special drink which is called "yin yang". Mixed with half coffee and half tea.
機内では数時間、寝ただけの睡眠不足な状態で、朝10時過ぎに香港到着。ホテルへのチェックインには早すぎるので、ガイドの案内に従ってローカルツアーへ。香港のファイナンシャル・ディストリクトにおける風水を取り入れた建築物の話などを聞く。
小雨混じりの曇天で、かなり寒い。聞けばこの冬、一番の冷え込みだとか。
肩をすくめつつ街を歩き、ガイドに連れられて、香港ならではの「コーヒー紅茶」が有名な食堂へ。コーヒーと紅茶をミルクで割った飲み物。その名も陰陽(インヤン)。その通り、紅茶とコーヒーの味がする。おいしいか、と言われると微妙。個人的には、どちらかにしてほしい。
[HK Journey 02] Man Mo Temple.
食後は文武廟へ。ここへは12年前も一人で訪れた。お線香の香りに心が落ち着く。遠い昔、台北の龍山寺を訪れたことを思い出す。
[HK Journey 03] Am I in Japan?!
市内ツアーを終えて、ホテルに戻ってチェックイン。夕食までは自由行動につき、シャワーを浴びて仮眠をとる。なにしろ、睡眠不足が苦手がわたしゆえ、隙あらば、寝るに限る。
夕方起きて、ホテルの近所にあるSOGOデパートへ。あまりにも日本的すぎて、自分がどこにいるのかわからなくなる。特に買いたいものはないが、せっかくスーツケースには空きのスペースがあるので、とりあえず日本酒と、海苔などを購入。
焼きたてのたこ焼きがあまりにおいしそうで、4個入りを買い立ち食い。友人らへもお土産に買って帰りたいところだが「タコ」が気になる。エビ入りとか、ヴェジタリアンたこやきがあればいいのだが。インドだったら小さく切ったパニール(カッテージチーズ風)入りなどがいいかもしれない。
[HK Journey 04] Great view from the rooftop of the hotel. Lovely dinner at the popular Japanese restaurant "Zuma." We enjoyed the fresh sushi, sashimi and meat! Vegetarian dishes were also fulfilling and tasty. It was really wonderful!
初日の夜は日本料理@ZUMA。日本酒を飲みつつ寿司刺身。和牛に大トロ、フォアグラ……と、友人らが注文するあれこれに便乗して、贅沢な晩餐を楽しんだ。メンバーは、チベット系インド人であるディッキーとわたしが仏教徒、大半がヒンドゥー教徒でイスラム教徒が一人。
ヴェジタリアン、ノンヴェジタリアンと、食の傾向もそれぞれに異なるが、注文する料理は、基本、他の人をお構いなしに、自分が好きなものを頼む。そしてシェアできる人とシェアする。そういう、「気を遣い過ぎない感じ」が、わたしにはとても楽で居心地がいい。
この店は、ヴェジタリアン向けの料理が充実しているのも魅力。七味唐辛子が好評だった。それにしても、みんなよく食べよく話す! 深夜発のフライトで早朝着。みんなろくに寝ていないのに元気だこと。
更に、アルコールは全員、よく飲む! このメンバーの中では、わたしが一番、弱いという事実……。
これは、いつも思うことであるが、日本人の中にいるときのわたしの個性と、インド人他、多国籍の中にいるときのわたしの個性、すなわちキャラクターの位置付けのようなものが、微妙に異なる。普段はさほど気にしないが、こうして長時間を共にすると、その点が明らかになり、奇妙な気持ちになる。
[HK Journey 05] Good morning, Hong Kong!
翌朝、空は晴れ間が見える。うれしい。この日の午前中は、フォーラムのミーティング。3時間みっちりと、プログラムをこなす。フォーラムのイヴェントは時間厳守。時間に緩いインド人……というのが通例だが、どんなに夜更かしをしようとも、みな時間通りに集合する。立派!
[HK Journey 06] We had a meeting in the morning, and had lunch at a Japanese restaurant, again! I went to the Japanese hair salon this afternoon. When I was searching the nearest salon, by chance I found an affiliated salon of the salon where I visited in New York six months ago, so I made an appointment. Became very short hair again!
ミーティングのあとは、みなでショッピングモールへ。ひとまずは、ランチ。メンバー2名の要望により、またしても日本料理店へ。わたしは海鮮丼を注文。美味。
食後は自由行動。みんなはショッピングに出かけたが、わたしは単独行動で街歩き。特に買い物をしたいものもないので、日系のヘアサロンへ行くことにした。5月のニューヨークでたまたま初めて訪れた青山拠点の日系のサロン。今回、ホテル近くの日系サロンを探していたところ、同じ系列の店がヒットしたので、これもご縁と予約を入れた。
本当は伸ばすつもりで、この半年、中途半端な状態をくぐりぬけてきたのだが……。「毛先がかなり痛んでいます」と再三言われ、結局、ショートに舞い戻る。
若いころのショートカットは「少年っぽい」という見方もあって、悪くないのだが、この年齢のショートは微妙。おばさんっぽいのはおばさんだから仕方ないにしても、「おじさんっぽく」なるのがいやなのだ。
ということをスタイリストのお兄さんに告げたら、「おじさんっぽくはしません!」と苦笑されたので(当たり前か)、任せることにした。
[HK Journey 07] Funky Night in Lang Kuai Fong.
この日の夕食は、香港のナイトライフのスポットでもある蘭桂坊(ランカイフォン)のイタリアンへ。わたしは睡眠不足もあって、あまり飲む気になれないのだが……。この面々は、飲む、食べる、語る。わたしも大概、元気な人間の部類に入ると思っていたが、あらゆる点において、敵わぬ。
ディナーのあとは、通りのバーで再び。彼女らはみんな、ショットを煽り飲む。わたしは無理。ひとりモクテルを注文。そして踊りまくる彼女ら。敵わぬ……!
メンバーはアラフォー&アラフィフ。わたしは多分、最年長だが、彼女らとて言うほど若くはない。にもかかわらず、たいそうタフな彼女らに、呆気に取られる。インド亜大陸の底力。はしゃぎまくる彼女らを眺めつつ、なにやら笑いがこみ上げてくる。
[HK Journey 08] Dragon's back trail!
睡眠不足&夜更かしもなんのその! のようである。
夜遊びの翌朝は、ドラゴンズ・バックというトレッキングのポイントへ。香港に、こんなトレッキングルートがあるとは知らなかったので、ここは訪れる前から楽しみにしていた。
[HK Journey 09] The trekking course of about three hours has many points of great view! I didn't know that Hong Kong has such a beautiful trail. It was really wonderful experience.
8キロ余りのトレッキングコースには、絶景のポイントがいくつもある。そのたびに立ち止まっては写真を撮りあったりするので、なかなか先に進まない。
[HK Journey 10] The weather was also amazing! I highly recommend you to come to the trail if you have a chance to come to Hong Kong!
都合、3時間ほど過ごしただろうか。多少の起伏はあれど、比較的、楽なトレッキングルートだった。デカン高原真っ只中のバンガロールの暮らしでは、海を望むトレッキングなど無縁につき、この爽快感は格別であった。
[HK Journey 11] Finally, we had wonderful Chinese food! — at Crystal Jade Restaurant at the IFC.
トレッキングで、ともかく空腹。本来ならば弁当でも持参し、途中のポイントで食べるというのが理想的だったが、そのあたりのプランニングが適当ではあった。
帰りにショッピングモールに立ち寄り、シンガポール拠点のクリスタル・ジェード(翡翠拉麺小籠包)へ。ようやく、中華圏らしい食べ物にありついた。
このとき一緒にいたメンバーはヴェジタリアンとムスリムだったので、豚肉を食べられる人がおらず、ひとりで小籠包を平らげる。一見、とんかつに見える左下の料理は、マッシュルームを湯葉で包んで揚げたもの。左上はナスのサラダ。どれも美味だった。
[HK Journey 12] Dinner at "dragon-i".そして最後の夜は、チャイニーズ。北京ダックにチキンのグリル、ソフトシェルクラブにまたしても巻きずしなど。
[HK Journey 13] 香港最終日!(日本語は下部に)Today is the last day of the Hong Kong trip. I went to the spa to get foot massage, and went to Ding Tai Fung for lunch. The restaurant reminds me my first business trip in 1988. I was an editor of the travel guide book at that time. The original Ding Tai Fung in Taipei was very authentic diner. At that time, I ate “xiaolongbao" for the first time in my life. The deliciousness was exceptional! This year, I have been working for 30 years. Lots of memories swirl in my mind.
香港旅最終日。夕方までは単独行動。ホテルの近くで買い物をしたり、フットマッサージに出かけたり。
ランチは、ホテル近くの鼎泰豐で食べることにした。
この店の名を目にするたび、社会人になってはじめての海外取材を思い出す。1988年。戒厳令が解けた直後の台湾。近畿日本ツーリスト発行の旅のガイドムック『台湾の本』を制作するために取材へ出た。パソコンも、デジタルカメラもない時代。編集者とカメラマンがそれぞれ2人2組に分かれて東奔西走。日々、何十軒もの店舗、レストランを訪れ、観光ポイントを取材し、今では考えられないほどのハードワークで、取材をこなした。
精神的にも、体力的にもギリギリだったのだが、当時、古びた食堂だった鼎泰豐本店にて、小籠包を口にしたときの衝撃は、忘られない。台湾取材では、それまでのわたしの中国料理の概念を吹き飛ばす、衝撃的な味覚世界との遭遇の連続だったが、鼎泰豐は格別だった。
過度のストレスで胃痛に苛まれていたはずなのに、いろいろな種類の小籠包を、呆れるほど食べた。無論、写真撮影のあとで冷めたものばかりだったが、それでも十分においしかった。
思い出がとめどなく、あふれだす……!
[HK Journey 15] It was exceptionally meaningful trip for me. Thank you!
短い旅ながら、本当に、実り豊かな時間だった。空港へ向かうバスの中で、早くも次の旅行地について相談し合う彼女たち。わたし以外はみな子供もいて、普段は妻、母、嫁、そして仕事をする者としての役割をつとめあげるのに、それぞれが波乱に満ちた日常を送っている。
束の間、その全てから放たれて、女学生のような気分で旅ができるというのは、それだけでもう、意義深いことなのかもしれない。
野心を持つということと、欲をかくということの違いについて、思いを馳せる。
わたしは、自分の手中にあるものを、慈しみ育てながら、今年も大切に過ごしていこうと思う新年の小旅行であった。