バンガロールの自宅を出てから、かれこれ20時間を経てニューヨークに到着した。相変わらずの、遥かなる旅路である。
緑が整然と美しく、うねり横たわるのはライン川か。
フランクフルト空港では、新しいターミナルに到着した。
米国行きの便のセキュリティチェックはいつも厳しく、厳しい上に検査官の態度が横柄で、しばしば憤怒にかられる事態が発生していたのだが、今回は驚いた。
検査方法が非常にシステマティックになっており、さらには検査官らの態度が、びっくりするほどよいのだ。
いったい何が起こったのだろう。こんなに気持ちよくフランクフルト空港を通過できたのは初めてのことであった。
さて、さらに飛行機を乗り継いで、目的地ニューヨーク。JFK国際空港に到着。
空港の、入国管理では、「米国市民及び永住権保持者」の、短い列に並ぶ。「トン!」とパスポートにスタンプを押しながら、入国管理官の “Welcome Back(おかえり)”のひとことに、心が緩む。
5月。初夏のニューヨークを訪れるのは2年ぶりだ。空港からの道すがら、芽吹いたばかりの淡く優しい緑をまとった樹々をぼんやりと眺めながら。時折視界を彩る、くっきりと桃色をした桜の花。可憐に黄色いスイセン。
タクシーの窓を開けば、冷たくも心地よい風が吹き込んで来る。
懐かしい、この街の匂いが吹き込んで来る。
ただいま。
そうだった。今は、気持ちのよい季節だった。
この街に住んでいた頃は、深く長い冬の後、この季節の訪れを、待ち望んだものだ。
セントラルパークの、淡き緑が萌えるころ。
白や赤や黄色やピンクの、大きなチューリップが風に揺れるころ。
半年ぶりのニューヨーク。
楽しく過ごそうと思う。
夕刻になって、急に気温が下がる。しかも曇天。やっぱりニューヨーク。我々が来るたびに悪天候で迎えてくれるニューヨーク。5月だというのに、デジタルの電光掲示板が摂氏5度を指している。ありえない。
夜は映画を見に行こうか、などと言っていたのに、小雨まで降り始めて、もう夕飯だけ食べてホテルへ戻った。
そして今朝。ブルックリン植物園で桜祭りがあるから出かけようといっていたのだが……。
5月とは思えぬ、どんよりと寒々しい風景だ。
まったくもって、感じの悪い天気だこと。
まあ、1週間以上滞在するのだから、晴れの日もあるだろう。
気を取り直して、楽しもう。