忘れないうち取りあえず記録:バンガロール北部、カルナタカ州のナンディ・ヒルにあるワイナリーGROVER。ここのワインもまた、ムンバイ郊外、マハラシュトラ州のナシック産SULAに負けず劣らず年々味がよくなっているのだが、この赤ワイン (LA RESERVE) は、かなりよい!
あくまでもインドワインとしてだが、個人的にとても気に入った。インドの赤ワインにありがちな、焦げ臭い香りがない。やや酸味が強く、かなりドライなので好まない人もあるかもしれないが、デキャンタージュ(デカンテーション)して空気に触れさせるとマイルドになる。しかも500ルピーとお手頃。年々、うれしいことも増えるインドである。
●激しすぎるもの。それはモンスーンなムンバイの湿気。
米国から除湿剤を輸入している会社があるとの情報を、ムンバイの外国人コミュニティであるところのMumbai Connexionのメンバーより聞き、早速注文し、入手した。日本で言う「水とりぞうさん」みたいな商品だ。
輸入物だけあり、値段は高い。が、不在中にカビ臭くなってしまったクローゼットの衣類「全洗濯」を終えた今、再びカビ臭に逆襲されるのはいやだ。
ハンガータイプと床置きタイプそれぞれを6個ずつ購入し、ひとまずは様子を見ることにした。
ハンガータイプは上下二層構造になっていて、上部のビニル袋に吸湿剤が入っており、吸収された水分は下部のビニル袋に落ちる仕組みになっている。
業者のお兄さん曰く、通常は1カ月から40日程度持つとのこと。ならばこのモンスーンの時期、2、3回取り替えればいいだろうと判断した。
一昨日の朝装備して、丸2日たった今朝。クローゼット内の空気は軽く、衣類にしっとり感はなく、爽やかだ。と、吸湿剤を見て、愕然とする。
水が、水が、すでにコップ一杯ほども溜まっているではないか!
これでは1カ月どころか1週間でおしまいかも!!
薄々気がついてはいたが、モンスーン時期の湿気。半端じゃなかったようだ。道理でモイスチャライザーなしで、四六時中、お肌が潤っているわけだ。っていうか、潤い過ぎ。
気温は30度前後と、さほど暑いわけではないが、この湿気のおかげでなにやら身体がべたべたするし、シャワーも頻繁に浴びねばならない。
確かに、マーケットは極めて狭いと思う。思うがしかし、ぜひともインド拠点の家電メーカーに開発していただきたいのは、除湿器である。米国時代初期は性能のよい加湿器になかなか巡り合えずに苦労したが、現在は除湿器が欲しい。
日本の家電メーカーも、電気釜よりも除湿器のインド向け商品を開発していただきたい。ピンポイントでも絶対的な需要があると思うのだが。そんな自分の発言に責任はもてないのだが。
ああでも、インドの人々は、少々のカビ臭さなど、意に介さないかもしれない。やたらと鼻が利くわたしだから、超敏感になっているのかもしれない。
それとも、なにか「昔ながらのエコロジカルな乾燥剤」みたいなものが存在するのだろうか。たとえばタンスの匂いを取るサンダルウッドのパウダーで作られたサシェなどはインドで一般的である。そういうものがあるとよいのだが。
あと、「エコロジカルな衣類乾燥機」もほしいところだ。どうやって開発するのかは未知数だが。
この時期、ムンバイ富裕層の家庭は、ベッドルームの1室が「洗濯物干し場」と化して、四六時中、天井のファンを回して衣服を乾燥させている。
ベッドルームの予備がない家庭は、廊下。あるいはバルコニー。もしくは軒先。しかし、外に干していると、突然の雨で乾きかけた衣類がまた濡れてしまうこともしばしばだ。
生乾きを一気にアイロンで乾かせ作戦、に出ている家庭もあるに違いない。憶測だが。
ともあれ、除湿器などといった夢の商品が出回るのはまだ先のことであろうから、当面は除湿剤のお世話になるしかなかろう。割高とはいえ、頼らざるを得ない。
DampRid(電話をしたら、速攻でサンプルを持って来てくれた。注文をしたら、速攻で商品を持って来てくれた)
値段はハンガータイプが3つ入りで888ルピー、床置きタイプが251ルピー。今、「水とりぞうさん」の値段を確認した。「水とりぞうさん」のほうがぐっと安い。
ムンバイ世間はこの湿気に、いったいどう向き合っているのだろう。要リサーチである。
●明日からデリー。そして来週はウダイプールでリベンジ新婚旅行!
夫が金曜日、デリーで打ち合わせがあるという。それならば、木曜からデリーに入り、週末を実家で過ごそうということになる。
さらには、せっかく北インドへ飛ぶのだから、プチ休暇を取ろうということになる。
アルヴィンドは、タージ・グループのインナーサークルメンバーなのだが、このポイントが相当に溜まっている。ということに、最近気がついた。
タージ系列のラグジュリアスなホテルに何泊もできるほどに。ラグジュリアスなスパで何十回もトリートメントが受けられるほどに。
旅人坂田としては、ラグジュリアスなホテルでの休暇もよいが、インドの世界遺産その他、行きたい場所はたいそうあるということは、ここでも幾度となく記して来た。
しかし、夫は、エローラにもアジャンタにもバナラシにもどこにも行きたくないという。
「バナラシ? あの汚い川しかないところ?」
敬虔なヒンドゥー教徒たちによって袋だたきに遭うぞ、自分。と言わずにはいられない、半ば冗談とはいえ、暴言を吐く我が夫。牛肉が大好きな、しかし一応ヒンドゥー教徒であり、インド人である。
ともあれ、今回は2泊程度だし、来週早々のことだしで、じっくりと計画を立てている場合でもない。移住当初に訪れたジャイプールを再び訪れるのはどうだろうか、と一旦は決めたのだが、目的のホテルは結婚式でほぼ貸し切りだという。
逆に、北インドのラジャスターン界隈で、どのホテルなら2泊とれるのか、と予約担当者に問い合わせたところ、ウダイプールならあいているという。
ウダイプール……。レイクパレスホテル……。
忘れもしない8年前、我々が新婚旅行に訪れた地だ。3泊したにも関わらず、麗しい記憶がほとんどない、あの過酷な新婚旅行。
初めてのインド。初めての結婚式(一応)。しかも7月という蒸し暑い時期。日本から、しかも肺がんを抱えた父をはじめ、汚いもの苦手な母、そして妹夫婦が来てくれる。
自分の結婚式よりも、日本家族が猛暑なインドで、何日もに亘る結婚関連イヴェントをこなすことができるのか、そのことの方がよほど気がかりだった。
結婚式は、それなりにつつがなく終わり、最後のタージマハルの旅ではいろいろな意味で死にかけたが、しかし、ともかく、日本家族を無事に空港に送り届けた。
空港で、日本家族に手を振って別れを告げた瞬間。まさにその瞬間。ものの見事にその瞬間。しつこいようだが、本当にグッドタイミングで、わたしはトイレに駆け込んだ。
そこからが、地獄の日々であった。
新婚旅行先のウダイプール。
「湖に浮かぶ優雅な宮殿ホテル、レイクパレス」
などというキャッチフレーズは、体調が万全であればこそ、有効なのである。結婚式の記録はホームページに残しているが、新婚旅行の記述はいかにもシンプルだ。
仕方ない。あの旅は、あまりにも辛すぎた。
よく覚えているのは、ウダイプールで病院に行ったこと。そして薬をもらったこと。その病院のトイレが……だったこと。
路傍の牛が、いきなりわたしとアルヴィンドの間に立ちはだかり、そして放尿をはじめたこと。そのしぶきが、わたしの衣服の裾にかかったこと……。
ああ、すみません。今のあなたの気分がたいへん爽やかで、しかしそれをわたしが害してしまったとしたら、どうぞお許しください。
しかしもっと許せなかったのは、夕食のときだった。3泊したはずなのに、1泊の夕食しか思い出せないのはなぜだろう。ともあれ、その夜、わたしはまともに食事ができる状況ではなかった。
ウエイターのはからいで、キチリ(豆と米で作られたインド版のおかゆ)を作ってもらい、それを静かに食べるのみであった。
一方のマイハニー。久しぶりの母国でインド料理三昧である。
苦しむわたしの目の前で、インド料理のスパイシーな匂いさえ胃に堪えているわたしの前で、タンドーリチキンを頬張りながら、
「うわ〜! このチキン、おいしい〜!! 今まで食べたタンドーリチキンの中で、一番おいしいかも!」
などと、屈託なく言い放ったのである。むしゃむしゃとおいしそうにチキンを食べやがったのである。
こ、こんな男と結婚したわたしっていったい……。
自らの命運について、深く思いを巡らせた夕餉の席であった。何を忘れても、忘れることができない新婚旅行での一こま。マイハニー。罪な男。
食べ物の恨みとは、恐ろしいものである。
ちなみに、新婚旅行を終え、一旦デリーに戻った後、我々はニューヨークに戻ったのだが、当時はわたしがニューヨーク、夫がワシントンDCという二都市生活を送っていたため、夫は翌々日にはDCに戻る予定であった。
しかし、米国に戻るや否や、夫は高熱を出し、1週間も会社を休んだのだった。新妻は一応、甲斐甲斐しく看病してやったものだ。
それにしても、あのときは、まさか自分がインドに住むことになろうとは、思わなかった。むしろ、
こんなところ、住めるかい!
とも思っていた。
結婚式を挙げに来ただけだし。
とも思っていた。
にも関わらず、自ら積極的に、住みにくることになろうとは。人生とは実に、不可解なものである。
ところで今回、再びレイクパレスに泊まると決まって、アルヴィンドが懐かしそうに言った。
「あのときのチキン、おいしかったな〜!」
お、覚えてやがる! よほどおいしかったに違いない。
わけがわからん話になったが、ともあれ、8年ぶりのウダイプールで、新婚旅行時のリベンジを果たすべく、タンドーリチキンを堪能してくる所存である。シェフがかわっていないことを祈るばかりだ。
かような次第で、明日から1週間、旅に出ます。デリー自宅では自分のコンピュータでインターネットを使えるかどうかわからないので、しばらく更新できないかもしれません。ともあれ新婚旅行、仕切り直しで楽しんできます。