どしどしと歳月は流れ、2010年も師走到来。2008年〜2009年にかけてはムンバイとの二都市生活でどたばたとしていたが、今年は万事につけて「腰を据えて」物事を執り行えるであろうと思いきや。
いったい何をしてきたんだろう、といやになるくらい、瞬く間に過ぎゆく1年。せめて今年の足跡を確認する意味で、ジャーナルをめくれば……。ムンバイへは何度も、加えてデリーへも行った。
半期に一度のニューヨーク。それからクールグなどの近場。母来訪のあとは日本へも帰国し、その前後にシンガポール。仕事もそれなりに、やった。
決して動いていないわけではないのに、なにかこう、パンチに欠けた1年だった。
パンチ。
なんなんだそれは。と我がことながら思う。いったい何をどうしたいのか。自分がもっと明確なヴィジョンを描かないことには、実現不可能なのであるのだが、実にだらだらとしていた気がする。いかん、文章までだらだらとしてきた。
閑話休題。
本日は、トヨタの新車であるエティオス (ETIOS)の発表会が、バンガロール市街のパレス(宮殿)にて開催された。
数カ月前、バンガロール郊外にあるトヨタ技術学校(TTTI)の卒業式にメディアとして招かれたことは記した。
その件については、西日本新聞のコラム「激変するインド」でもCSR (Corporate Social Responsibility) の一例として記した。
前回招かれたのを受け、プレスのリストにわたしの名前が残されているのだろう、今回もまた、招待を受けた。新聞記者でも自動車雑誌の編集者でもないが、自動車に関しては、知っておくべきことも多い。
基本的に深く関心のある分野ではないとはいえ、インドの市場調査を頼まれた際など幾度かリサーチして来た。
思えば4年ほど前、インドを走る自動車の「カタログ(リストのようなもの)」を作ったことがあった。
あのときは、インドの自動車メーカーと、そこが発売している車種すべてを、瞬間風速的にほとんど覚えていた。しかしこの4年の間にも、車種は劇的に増え、今、あのカタログを作れといわれても、いやだ。
もちろん、車種のことなど、殆ど忘れた。ライターの多くが、多分そうだと思うが、ある分野の記事を書くにあたっては、集中して情報を得て詳しくなるのだが、それらを継続して覚えていることは難しいと思う。
わたしは過去、覚えたことを忘れ去る自分にいやけがさした時期があったが、あるとき、敬愛していた村上龍氏が、同じようなことを言っていたのを耳にし、相当に安堵したものだ。
そんな関係ない話はさておき、だ。朝、出かける前に夫から経済誌mintの記事を手渡された。
「エティオスの記事が出ているから、あらかじめ読んで勉強してから行きなさい」とのこと。
日本語においては「低価格小型車」と表現されているエティオス。
ここではEFC (Entry Family Car)とカテゴライズされている。
デザイン、仕様などのスペックに加え、値段。いうまでもなくターゲットは、経済力をつけ始めている中流層。
驚いたのは燃費の良さ。エアコンディショナーを稼働させた上で、16.5km/lだとある。もっとも、インド国内の都市部は渋滞がひどいし、凹凸が多いしで、速やかに走れない。
それでも12kmくらいは走れるんじゃなかろうか。とすれば、すばらしい。ちなみに我が家の車の燃費は7kmほど。一般に12〜13kmといわれているのにも関わらず、である。インドの悪路、いやになる。
さてさて、曇天ながらも華やかな装飾が麗しいパレス。出迎えてくれるサリー姿のお姉さんたちもとてもきれい。11時半開場で、式典が開始されたのは12時。
日本から豊田章男社長も来印。社長のスピーチにより始まった発表会。インド市場の重要性が感じられた。次いでトヨタ・キルロスカ・モーター(TKM)の中川宏社長のスピーチが披露された。
その後、チーフエンジニアによるエティオスそのものについての説明。
構想から今日に至るまで5年の歳月をかけたという。5年と言えば我がインド歴に重なる。この5年の間にも、インドの道路交通事情、そして自動車事情は、著しく変わった。
多くの海外自動車メーカーが参入し、チェンナイ郊外は「インドのデトロイト」と呼ばれるようになり……。
「インドの社会のニーズに合わせた」「インドの道路事情を配慮した」「安全性を追求した」……といったことばを、この会場で聞いていると「ふむふむ」と思うのだが、しかし一歩外を出れば……。
牛や馬車やヤギや物乞いやオートリクショーやバイクが入り交じるインドの道路の実態。
道路にはホーンの騒音があふれ、交通ルールは悪いというより「ない」に等しく、道路のインフラは劣悪で、道路標識や信号さえも足りず、交差点では交通整理の下手なポリスが排ガスまみれで交通整理をし……。
そういう問題点が否応なく脳裏をよぎる。
インドには安全基準に関するルール設定がないとのことで、欧州のそれに基づいているとのことだが、欧州の安全基準とインドとでは、環境が違いすぎる。
などという一般論はさておいて。
その後、首脳陣を舞台に迎えての質疑応答。最初のあたりは、あらかじめ用意されていたのであろう質問内容と、その返答であったが、後半、ランダムな質問が相次いだ。全体に、長い時間をかけての質疑応答であった。
このところ、リコール問題で逆風にさらされているトヨタをして、エティオスの安全性を問う質問に対し、豊田社長自らがマイクを握って回答した。
安全性の懸念を抱かれるのは仕方がないとした上で、
「トヨタの車は、安全です」
と、断言されていた。加えて、アフターサーヴィス、メンテナンスは完璧であると強調。
わたしは米国に10年暮らしていた。その間、さまざまなレンタカーに乗って来た。
自家用車も買った。
人の車の話を聞いた。
デトロイトでビッグ3(GM、フォード、クライスラー)の取材もした。
日本での編集者時代、昭和シェル石油の広報誌の仕事で、隔月で海外取材に出た。
「シェルのある国」で、レンタカーをして、ドライヴを通しての取材旅行を重ねた。
色々な道を、色々な車で、走った。
その上で言えば、日本の車は、確かに乗りやすかった。
個人的には、長時間の運転にはVOLVOが楽、とか、見た目はサーブのコンバーチブルがいい! とか、好みはあった。
しかしわたしにとって、日本車はいずれも、安全な乗り心地に思えた。
ここで物議を醸すような発言をするつもりはないが、あくまでも個人的な見解としてコメントしておくに、昨年の、米国でのあのトヨタの叩かれぶりをして、行き過ぎだろう、と思った。
事故を誘引する自動車は、確かに問題だし、取沙汰されるべきだろう。しかし、同じことがビッグ3に起こったとして、あんなにもバッシングされるだろうか。
米国で、日本車以外の車に乗っていた人たちが、本当にしょっちゅう、トラブルを起こしては、ガレージに車を運び込んでいたことを思い出す。
「車の故障は日常茶飯事」であった。
ハイウェイでボンネットから煙を噴いている車を見たことは、一度や二度ではない。
一方、わたしたちがに4年間乗ったホンダ車。一度たりとも故障をしたことがない。
インドへ移住直前、カリフォルニアに数カ月住んだのだが、その際、東海岸(ワシントンD.C.)から西海岸まで、3920マイル(約6300km)を、つつがなく走破してくれた。日本車はすごい、と実感したものだ。
インド移住に際し、車を売った時には、名残惜しかった。
と、またしても、話がそれてしまった。
逸れたついでに、アメリカ横断ドライヴにご興味のある方、こちらをクリックされたし。写真を見るだけで、ああ旅情。あかなかに楽しめますよ!
この写真を見るだけでもう、たまらん。バンガロールに、この道、一本ほしい! あ〜、自分で車を運転したい衝動がこみ上げて来た!
話をもとに戻そう。
エティオスである。価格、Rs. 4.96 lakh(100万円弱)からRs. 6.86 lakhに亘る5車種があるという。これは、安い。ちなみに燃費は17.6km/lと発表された。
インドで記録的な売れ行きを果たしたスズキのスウィフト (SWIFT)あたりが競合車になると思われるが、価格帯はそれとほとんど変わらない。
そしてついには、車の登場である。セダン型と、ハッチバック型の「エティオス・リーヴァ(Liva)」が披露された。
小さな車両がゴチャゴチャと走るインドの道路にあっては、コンパクトカーでさえ、「ラグジュリアスなセダン?」に見えてしまうことがある。
米国では小さく見えていたホンダ・アコードが、インドでは存在感ある高級車に見えてしまうくらいだもの。
そんなこともあってか、特に左側のセダン。「低価格小型車」には見えない存在感。プチ・ラグジュリアスといったところか。
しかも座席の空間もゆったりとしているらしく(中を確認することはできなかった)、トランクのスペースもかなり広い。
ワイパーが一つしかない小型車、には見えない。いい感じだ。ちなみにmintの記事によれば、ワイパー一つでも、十分に役割を果たすとのこと。
もっといえば、インドのドライヴァーの多くは、なかなかワイパーを使わない。小雨程度では、視界が悪くてもそのまま走る。後部座席から「ワイパー使って!」と言いたくなることしきりである。
大雨になってようやく、「そろそろ使うか」という感じで使い始める。なんでだろう。
右側のエティオス・リーヴァは、スポーティなデザインで、若い世代の注目を集めそうな気がする。
個人的には、こちらが好き。
年収が100万円から140万円程度の若い世代の世帯をターゲットとしているようだが、中流層だけでなく、富裕層の「社会人になったばかりの子どもが自分で運転するための車」という位置づけも、ありだろう。
インドでは、メルセデスやBMWなど高級車を所有する富裕層家族でも、日常の買い物向け、あるいは大学生や社会人になったばかりの子ども向けに、廉価な小型車を複数台、所有している場合が少なくない。
赤とか黄色とか、ヴィヴィッドな色があってもいいのではないかと思う。あったかどうか、よく覚えていない。
かような次第で、車が発表され、メディア向けに写真撮影が行われ、その後、首脳陣がメディアの取材に応えるなどして、発表会は終了だ。
以下、過去の記事のリンクをはっておく。
■トヨタ工業技術学校卒業式(7/1/2010)
■今月の西日本新聞:激変するインドは「社会貢献」の話題 (8/23/2010)
エティオスの発表とは関係なく、インドの道路交通事情と自動車業界について思うことは、少なくない。先月の「激変するインド」(←Click!)にも書いたばかりだ。
このブログでも折に触れて書いていることだが、在インドの自動車業界全体が、なんとかして、この国の道路(インフラ)をなんとかするべく、働きかけができないものだろうか、といつも思う。
一筋縄ではいかないことくらい重々わかってはいるが、しかし、このまま車が増え続けたらどうなるのだ?
わたし自身、自分がいざという時に出かけられる2台目の車を欲しいと思っているが、あらゆる意味で、躊躇する。電気自動車のREVAの購入を真剣に考えているくらいだ。
環境汚染にこれ以上、加担したくないとの、かなり強い思いがある。
本当の意味で「インド仕様」の車というのは、それを作り上げることが多分、難しいと思う。
半分、おふざけだが、しかしインドでなら、これもありだな、という車の装備について思いつくままに書いてみるに……。
●車高の高い車
スピードバンプがむやみやたらと多いインド。特にバンガロール。考えなしに作られた「高すぎるそれ」を乗り越える時に、お腹(底)をガリガリと削ること多々あり。なんとかしてほしい。
●シートのクッションが良質なもの
ともかく悪路。長距離ドライヴは腰を痛める。衝撃吸収度の高い特殊なシートを装備されたし。
●車内から開閉操作可能なサイドミラー
インドにおいて、サイドミラーは受難である。車間を縫うように走るバイクのステアリングにぶつけられ、折れる。注意してみれば、左のサイドミラーは最初からついていない車もあるが、両方ないものもある。パーキングに停めるときも、みっちり詰めるので、サイドミラーは折り畳み必須。バイクがぶつかって来たときの衝撃に耐えられるよう、180度、動きがフレキシブルなサイドミラーが欲しい。しかも運転席からボタン操作できるような。
●ハリセンボンもしくはヤマアラシ装置
車すれすれに迫り来るバイク野郎を威嚇するため、ボタンを押したらハリセンボンやらヤマアラシのように針が飛び出す装置があったらな〜〜〜と何度思ったことか!
●生傷治療用キット
人間用ではなく、車用に、である。なにかと傷が絶えないボディ。そもそも黒い車を買ったわたしたちが愚かだった。あっちこっちの傷が目立つ。それらを自分で簡単に補修できるキットが欲しい。米国には売っているが、インドではわからん。ドライヴァーに頼んで修理に出してもらったら、酷い目にあった。小学生のお絵描きじゃないんだから! という塗り。安けりゃいいってもんじゃない。もう、自分で油性のマジックで塗り塗りした方がましだった。
●それよりなにより、真にエコロジカルな車を!!!●
インドの人々が経済力をつけて、このままどんどん自動車に乗りまくったら、本当に、世界はやばいですよ。
……とまあ、インドの車事情、次元が違います。日本では想像のつかん世界が展開されているのだ。
そんな次第で、今日もまた散漫な内容となったが、エティオス発表会の話題を軸に、思いつくままに書いた。
インド発、元気なキレイを目指す日々(第二の坂田ブログ)(←Click)