「朝も昼もたっぷり食べたから、もう夜は、軽くでいいわよね」
などと言っていたのだが、ホテル内を散策しているときに見つけたプールサイドのイタリアンの雰囲気にひかれる。せっかくだからと、ここで夕食をとることに。
まずはベリーニ(シャンパンとピーチジュースのカクテル)で乾杯。前菜は軽くサーモンのサラダとコンソメ風スープを。主菜はシーフードのフェトチーネをシェアすることに。
前菜はどちらも、そこそこだったけれど、パスタはとっても美味だった。
それよりも、食前に出されるパンのおいしかったこと。久しくインド的パンばかり食べていたせいか、普段は食前にそれほどパンを食べないのに、思わずたっぷり味わってしまった。
プール越しに届く風はほどよく涼しげで、水面にゆらゆらと揺れる灯りが優しげで、見上げれば星、彼方に摩天楼の灯、なんてロマンティックなひとときであろう。
母にしてみれば、このような場所での食事は初めてのことで、本当に幸せそうだった。
こうして、いつまでも記憶に残る、小さな贅沢を、少しずつ積み重ねていければいいなと思う。
父にはそうする機会に恵まれなかったけれど、しかし母に対しては、ささやかな幸福を差し出せる。これは、わたしにとっても、多分幸運なことなのだ。
無論、母は、調子に乗りすぎる傾向が強く、娘が自覚するところの「身の丈」を考慮せず、豪華を所望する傾向があるのが難。娘は、常に現実的に、自らの価値観に沿った形で、母の快適を追求するのである。