先日、新聞のローカル面を読んでいたら、我が家から車で5分ほどの近距離にあるらしき、話題の庶民派食堂の記事が載っていました。
地元では昔から評判の店らしく、特にサウスインディアン・コーヒーがおいしいとのこと。夫も行ってみたいと言っていたのですが、まずはわたしが下調べにと、足を運びました。
貧富の差が著しいインドでは、食事をする場所の値段もピンからキリ。たとえ同じ料理でも、高級ホテルで出されるそれと、ローカルの食堂で出されるそれとでは、値段が10倍から20倍も違うことがあります。
もちろん料理の内容にもよりますが、その土地土地の庶民の味覚は、ローカルの食堂で食べる方が美味であることが多いです。
このような店は、どこも男性客でいっぱいです。まれに男性と同伴で女性が訪れることもありますが、女性が一人で入店ということはまずありません。
しかし、わたしはといえば、たいてい一人。狭く混雑した店内では、見知らぬおじさん、いやお兄さんと相席です。
こんなときは、インド人の妻であることを忘れ、「旅人」になります。その方が、「写真を撮らせてください」とか、「どんな料理がお勧めですか?」などと、なんとなく、ピュアに尋ねられるのです。
店の人もまた、「変わったお客だな」という感じで、しかし親切に接してくれます。
メニューは壁に貼られています。左側はローカルの言語であるカンナダ語です。わたしはマサラ・ドサとコーヒーを頼むことにしました。
ドサについては、これまで何度も記してきましたが、典型的な南インドの朝食。豆の粉、米の粉を発酵させたものを薄く焼いたパンケーキのようなものです。
マサラ・ドサは、スパイス風味のほくほくジャガイモを巻き込んだドサのこと。これにチャトゥネが添えられます。
メニューをよくよく見てみると、おもしろいことに気づきました。南インド産のコーヒー豆で作られるコーヒーよりも、インスタントの「ネスカフェ」の方が高いのです。
ちなみに1ルピーは約2円。つまり、どれも数十円なのです。
さて、まずはドサ。無駄に大きいドサが多い中、これはなんとも「ちょうどいい感じ」の大きさです。
少々厚みがあるものの、表面は香ばしく、しかしあまり油っぽくもなく、美味。ココナツのチャトゥネも風味がよくて気に入りました。
隣席のおじさんが食べている揚げ物がとても気になりましたが、それまで注文すると食べ過ぎになるので我慢。今度、夫と来た時に頼むことにします。
食事が後半にさしかかったころ、コーヒーが運ばれてきました。小さめのカップですがこれで十分。なにしろ砂糖がたっぷり入っていますから。
普段はブラックを飲んでいますが、サウスインディアン・コーヒーは別。懐かしいコーヒー牛乳を濃厚にしたような味わいで、なんだか幸せな気分になるのです。
……と、給仕のお兄さんが、おもむろに新聞の切れ端をおいていきます。
読めとでも?
なんてわけはありません。インド料理は手で食べますので、これをナプキン代わりにして手を拭けということなのですね。
右手の汚れを新聞でごしごしと拭き取ったら、同時に新聞のインクが手に黒くついて、それがまた、なんとも言えず、旅人気分を盛り上げてくれます。楽しい。いや、汚い。
このような店には、トイレとは別に、手を洗うための「洗面台」が必ずありますので、食後はそこで手を洗います。
ついでにキッチンの傍らを通り、写真を撮らせてもらいました。給仕たちが忙しく行き来しているところをお邪魔して失礼なお客ですが、厨房ものぞいておきたかったのです。
決して「清潔!」とは言い難いですが、まあ、それなりに、ノープロブレムでした。
さて、ドサとコーヒーで28ルピー。約60円。安くておいしくて、楽しいランチタイムでした。次回は違う料理を試してみます。