先週の金曜日、OWC (Overseas Women's Club) の主催で、アガペ・バイブル・フェローシップ (AGAPE BIBLE FELLOWSHIP) のルーベン牧師 (Pastor. Dr. Reuben)による講演会が開かれた。
その一部をここに紹介するので、ぜひ目を通していただければと思う。
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ルーベン牧師が率るアガペ・バイブル・フェローシップでは、以下3つの恵まれない環境におかれている人々の救済を行うべく、ミッションを遂行している。
1:ストーンブレイカー STONE BREAKER(石工人)
2:ユーニック EUNUCH(去勢された男性)
3:ストリートチルドレン STREET CHILDREN(路上に生きる子供たち)
今回の講演会では、主にストリートチルドレンに関して説明がなされたが、その他の活動についても説明があったので、以下、簡単に紹介する。
■ストーンブレイカー
現在、バンガロールは、急速な都市化により、街の随所で建設・建築工事が行われているが、その基盤を支えているのがストーンブレーカーなどの労働者。現在、カルナタカ州には約40万人、バンガロールには約4万人のストーンブレーカーが働いているという。
バンガロールの労働者は、主には地方からの出稼ぎ人や貧民など、教育の受ける機会を持てなかった人々。地下鉄の工事現場をはじめ、道路敷設など土木建設現場で働く。危険で劣悪な労働環境のもと、医療ケアも当然なく、さらには賃金も著しく低い。
搾取されるばかりの労働者たちは、子供たちへ教育を受けされる手だてなどあるはずもなく、住まいさえもなく、ただその日を生き延びることに精一杯だ。
つい最近、バンガロール市内の工事現場で、三度に亘って爆発事故が起こり死傷者が出たが、メディアにその情報は流れなかった。日常的に起こっている工事現場での死傷事故は、政府機関などによって抹消されているとのこと。
■ユーニック
バンガロール市街を歩いていると、サリー姿の男性を見かけることがしばしばある。若いユーニックは、結婚式や誕生日などのパーティーに招かれ、ダンサーとして生計をたてている。
インドでは古くから、ユーニックの祝福は神からの祝福に等しいという迷信があるため、彼らは祝宴の席で歓迎されるのだ。新生児の誕生の際や、企業の創業セレモニーといった催しにさえ、若いユーニックのダンサーが招かれることもあるという。
しかし、年を重ねたユーニックはダンサーとしての仕事を得られず、物乞いとなる。一般に攻撃的な態度で金銭を乞うことから、世間からは疎ましがられている。バンガロールには、地方町村から追放され、行き場を失ったユーニックが集まっており、現在4000人以上が住んでいるという。
アガペでは社会から疎外されている彼らを受け入れ、食事を与え、暮らす場所を提供している。
■ストリートチルドレン
●20年前のクリスマスに始まったチルドレンセンターの序章
今回のレクチャーの中心となったのは、ストリートチルドレンに関する実情だ。
アガペ・バイブル・フェローシップがストリートチルドレンを受け入れるきっかけとなったのは、1987年12月25日、クリスマスの夜のことだ。
一日を終えたルーベン牧師がいつものように建物内を巡回していると、鍵をしめていたはずの部屋で、物音がする。不審に思った彼が中に入ってみれば、二人の少年が盗みを働いているところだった。
二人はおびえた目をして、震えながら、許しを乞うている。にもかかわらず、ルーベン牧師は、彼らを叱責し、打ち、そして解放したのだった。
その夜、神に祈りながら、ルーベン牧師の心は乱れていた。なぜ、自分はあの子たちに、盗みを働いた理由を尋ねなかったのか。なぜ、体罰を与えてしまったのか。その思いは罪悪感となり、彼を責め立てた。
翌朝彼は、教会の者たちに夕べの少年たちを捜させた。果たして見つけられた二人の少年は、それから教会で暮らし始めることになる。1987年12月26日。その日、アガペ・チルドレンセンターの前身が誕生した。
以降、教会は、ストリートチルドレンに住処を与え、食事を与え、シャワーを浴びさせるなど、人間らしい生活環境を与えて来た。子どもの世話をするヴォランティアの人々を募り、24時間態勢で子供たちの面倒をみはじめた。
● なぜストリートチルドレンが存在するのか
現在、バンガロールには大小750のスラムがある。教会のすぐそばにもまた、バンガロール最大のスラムがある。そこから溢れ出した子供たちも、教会に身を寄せている。
ストリートチルドレンが生まれる理由は、いくつかあるが、その一つにダウリ(持参金)の問題がある。
ダウリを満足に払えなかった母親が、父方の家族に殺害された後、その子供たちは家を追い出されるのだ。あるいは、酒飲みの父から、暴力を振るう家族から、逃げ出して来た子供たちもいる。
貧困の連鎖を断つことは非常に困難で、貧しい子供たちは減るどころか、増え続けている。
●ストリートチルドレンの生活
彼らは地獄の中で暮らしている。
彼らには、住まいがない。駅のプラットホームやスラムの一隅に横たわり、身体を休める。夜は墓地に眠る。まともな食事を得られず、常に病を抱えている。栄養失調や皮膚病などにさいなまれている。
「ずいぶん早い時期から」売春に身をやつす少女たちは性病を抱える。路傍に眠る少年たちの多くは、ホモセクシュアルな大人の、性的被害に遭っている。HIV感染者の数も多い。
彼らは、地獄の中で暮らしている。
教育は当然受けられない。彼らの面倒をみる大人たちはいないから、彼らは自力で生き延びていくしかない。たとえ、盗みをしてでも、だ。
彼らは、物乞いをするほか、靴磨きやクルマの掃除、ゴミ集め、新聞売り、土木作業現場などの労働に「奴隷の如く」従事することで生活の糧を得る。
一日平均、15ルピーから20ルピーの収入のために、過酷な労働を強いられる。彼らの雇用主には悪質な人々も多く、計算のできない子供たちをだまし、より低い賃金で働かせるところすらある。
一食平均3ルピーの食事をしている。それがどのようなクオリティの食事なのかは、想像するに難い。
バンガロールには、地方の町村から、毎日100人もの子どもたちが列車に乗って入って来ている。彼らはみな、ここで仕事をする機会を探しているのだ。
ストリートチルドレンは、決して自分の名前も、自分の過去も語らない。自分のバックグラウンドを虚構で固めるのだという。
● ホワイトナー(修正液)に逃避する子供たち
子供たちは、お金を持たない子供たちは、しかし40ルピーを出して、ホワイトナーを買う。文房具屋は、定価20ルピーのホワイトナーを、子供たちをだまして40ルピーで売りつける。
そうまでして、なぜ子供たちはホワイトナーを買うのか。彼らはそれを「シンナーのようにして」吸うのである。子供の頃からドラッグ中毒となっているのだ。教育を受けられない彼らの、現実の痛みから逃れるための、悲惨な愉しみ。
ルーベン牧師は店主らに、どうか子供たちにホワイトナーを売らないでくれと頼んでまわったらしいが、効果はあがっていないとのこと。
●地域社会との軋轢と、支持者の存在
教会が大勢のストリートチルドレンを預かることによる問題は尽きない。地域社会からは、子供たちが問題を起こすたび、教会に苦情が来る。
あるとき、地域住民からの苦情を受けて、ポリスが教会を訪れた。ポリスはムスリムで、いわば「異教徒同士」ではあったが、彼はルーベン牧師らの活動にいたく感銘を受けた。そして、彼の活動を全面的に支援すると約束してくれた。
このような協力者の存在は、非常に大切でありがたいことであると、ルーベン牧師は言う。
● アガペ・チルドレンセンターの開設
教会は、ストーンワーカーやユーニックなどを含め、恵まれない環境にある人すべてをまとめて受け入れてきたが、2000年にチルドレンセンターを独立して設立した。
5歳から10歳までの子供たちを集めた孤児院施設だ。しかし、彼らはそこを「孤児院 (Orphanage)」とは呼ばない。「ホーム (Home)」と呼ぶ。現在、2カ所のホームに約45人の子供たちが生活をしている。
アガペ・チルドレンセンターは、ストリートチルドレンが社会に受けら入れられるような素地作りをしてやることを目的としている。衣食住を与え、日常の生活方法を教授し、教育を受けさせる。人間としての尊厳を与える。自信を持たせる。彼らをドラッグやギャンブルから遠ざける。
● 教育の問題
出自が不明な子供たちを学校に行かせることは簡単ではない。政府発行の入学申請書類は、生年月日を記入した上で、出生証明書とともに提出する必要があるが、それを用意できるはずもない。
インドでは、地方によっては低いカーストの人々が優遇される措置があり、たとえば彼らを最低位のカーストだということであれば、学校への入学枠が確保されているとのこと。
しかしルーベン牧師は、彼らにカーストを与えたくないと思っている。だからそこには書かない。そのことによって、学校教育の機会を受けにくくなるなどの事態が発生しているとのこと。
問題は、尽きない。
● もしも街で、ストリートチルドレンを見かけたら
たとえ乞われても、お金を与えないで欲しいとのこと。その子たちは、本来なら教育を受けていなければならないのだから。加えて、大人が背後で彼らを操作している可能性もあり、子供らがお金を得られるとは限らないのだ。
食べ物や、古着を与えるのは構わないが、お金は与えないように、とのこと。
一方、大人の物乞い、浮浪者などにお金を与えることは、それぞれの価値観に従って行ってよいのではないか、とのことである。
それでは、ストリートチルドレンのために、何ができるか。
チルドレンセンターに暮らす子供たちに関して言えば、ルーベン牧師は、古着や古い玩具、文房具など、なんでも寄附を受け付けている。
しかし一番の願いは、まずはここへ来て、子供たちと一緒に過ごしてもらいたいと考えている。物を与えるばかりでなく、子供たちと、触れ合って欲しいと、彼は思っている。
ただし、と彼は付け加えた。
ここは、動物園ではありません。高みから、あるいは遠くから、子どもを「見物」するのはやめてください、と。