という言葉を、毎年毎年毎年、聞いている気がする。わたしの最古の記憶によると、小学校2学年のころだから、少なくともかれこれ40年近く、異常気象は頻発しているらしい。
地球の誕生に遡れば、ここ数年、いや数十年の気候の変異など取るに足らぬことで、しかし、人類の、ことにこの100年余りの行いが、地球の気候に大いなる影響を与えていることは確かだ。
ともあれ、個人的には、「今年は暑い」だの、「今年は雨が多い」だのと、いちいち大騒ぎするのは、好まない。
ちなみに気象庁では、「過去30年の気候に対して著しい偏りを示した天候」を異常気象と定義しているらしい。
という面倒な前置きをした後で言うのもなんだが、今年のバンガロールの夏、即ちわたしにとって7回目の夏となる今年は、今までの中で、最も暑い。
そもそもバンガロールの夏というのは4月5月がピークだった気がするが、今年は2月下旬から暑かった気がする。
幾度か記したが、我が家にはエアコンがない。不要だからつけていないだけのことだ。そもそもバンガロールは「ガーデンシティ」とか「エアコンシティ」などと呼ばれる爽やかな高原であった。
樹木に囲まれた低層の住宅に暮らしていれば、気温が上がれど風は涼しく、快適な気候なのである。しかし、このごろは緑に包まれた市街も建築ラッシュ。
高層ビルは増えているし、緑も減っているし、水不足だしで、社会問題があれこれと深刻である。なにしろ以前も記したが、ここ10年で人口は倍増。
倍増、ですよ。
最早1千万人を超える勢いなのだ。この変化が、気候に影響を与えないとは言い難い。
尤も今年の暑さの理由はなんだかよくわからんが、ともかく、天井のファンすら滅多に入れることはなかったのに、このごろは毎日いれている。
実は数週間前までは、まだこの暑さの実態を脳みそがきちんと受け入れておらず、
「なんだかこのごろは、火照るなあ。やっぱり更年期障害かしらん」
などと、「更年期障害かも症候群」に陥りつつある昨今のわたしは、小さく気に病んでいたのだが、単に暑かっただけのことであった。
このごろは毎日、最高気温が35℃あたりをうろうろとしているようだ。それでも我が家はありがたいことに、庭を通して涼しい風が入り込み、家にいる分には問題なく凌げる。
ただ、来月、再来月がどうなることやら、という感じだ。
そんな中、昨日は夫もわたしも、体調を崩した。夫は一昨日、訪れたハイダラバードで、ランチにドサを食べたのが胃に悪かった、といいつつ、しかし昨日は熱を出して会社を休んだ。
いくら何でも、ドサが胃に悪くて熱は出ないだろう、と思いつつも、原因は不明。
わたしはといえば、昨日の朝、胃の不調と目眩ですぐに起きられず。胃痛と目眩という組み合わせは珍しく、食あたりとも思えない。
またしても、「更年期障害?」と疑ってしまう。ともかくだるい。ドライヴァーに大量のココナツを買ってきてもらい、我々の不調時の助っ人、ココナツウォーターを飲みまくる。
夕方、日本人の友人と電話で話していた時に、彼女から「夏バテじゃない?」と言われて、はっとした。
さらには彼女から、「冷やし中華、いいですよ」などと言われた途端に、俄然、食欲がわいたあたり、これは夏バテに違いないと確信した。
わたしは夏生まれのせいもあってか、暑さには比較的強く、夏バテにはあまり縁がなかった。しかし、それなりに年齢も重ねており、暑さに対しても、少々弱り始めていたのかもしれない。
夫はといえば、熱があって会社を休んでいるというのに、ふと油断したらクリケットの試合などを見ていて、まったくいいご身分である。
幸い、今日はカルナタカ州の祝祭日(南インドの正月らしい)で、会社は休み。豪華4連休である。そんなわけで、夫もなんだか、自堕落ムードだ。
そんなときの会話はまた、いつもにまして、自堕落。
「ミホ、体調が悪い時はチキンスープがいいんだよね」と夫。
米国では風邪などの体調不良時には「チキンスープ」と相場が決まっているのだ。
「ねえ、日本語でチキンて、なんていうんだっけ? あ、ジドリ?」
地鶏ときたか……。
さすが、米国における日本料理店のメニューを熟知する男だけはある。
「地鶏はね、ワイルド・ヘン (Wild hen) のこと。普通のチキンはニワトリ」
「え? リガトーニ?」
「ニワトリ!」
「リガトーニ?」
「ニワトリ!!」
ああもう、よけいに目眩がひどくなる。熱まで出そうだ。
夕べは残り物の野菜やキムチなどでチャーハンを作り、スタミナをつけつつも肉は避けた。今日のランチは、韓国料理店で買っておいたそうめんをゆでる。
これぞ、夏のひるごはん。
二人して、「おいしいね〜」といいながら麺をすする午後。二人とも、症状は違えど、どうやら夏バテだったらしい。なにしろ食欲が衰えないのはありがたいこと。
さて、今夜は丸ごと鶏肉を使ってチキン鍋。もちろんスープはたっぷり出る。大根やネギなどの野菜もたっぷり入れて、ショウガも入れて、滋養をつけるべし。
この暑さと相まって、巷では、水不足が、かなり深刻だ。
我が家は幸い、今のところは問題なく水を使えているが、低所得層、貧困層の人たちは、井戸水の枯渇や給水車の不足で、かなりの不便を強いられている様子。
浄水設備の整っていない家庭では、水の汚染で胃腸を壊す人も少なくないようだ。
水道局もまた正常に機能していないこの地。人々は社会問題王国の中で、せめぎあいながら生きている。
のどの渇きは、ココナツウォーターやスイカで癒すべし。水よりも身体に吸収されやすく、夏バテに効く。今年の夏はいつもにまして、スイカが重宝されることであろう。
先ほど、福岡の母と電話で話をした。バンガロールが暑い一方で、福岡はまだかなり寒いらしい。
「ホットカーペットをいれているの」
と聞いただけで、暑苦しさ倍増。
瞬間的に、きりりと肌が引き締まる寒風の中に屹立したい、とさえ思う。ないものねだりね。