旅行ガイドブックの編集者から出発。27歳でフリーランスに独立してからは、旅行誌や雑誌などに記事を書き、写真を撮り始めた。
ニューヨークへ渡り、一時期は「会社員」として広告営業をしていたものの、ミューズ・パブリッシングを立ち上げてからは、制作に関わる大半を、一人でやるようになっていた。
それもこれも、アップルコンピュータのマッキントッシュが存在してくれたからこそ。当時は非常に高価だった日本語のデザインソフト、QuarkXPressを購入し(軽く10万円は超えていた)、使い方を勉強した。
今はどうだかよくわからないが、少なくとも当時のDTP(デスクトップパブリッシング)にとって、QuarkXPressやIllustrator、Photoshopは不可欠なソフトウエアだった。
デザイナーじゃない自分が、デザインをすることに抵抗があったが、人を雇う余裕などなく、自分でできる限りのことをやろうと、学びつつ、実践に移した。
かつて、DTPという概念がなかったころ、
デザイナーが「レイアウト用紙」に手描きでデザインしていた。
ライターは、原稿用紙に原稿を書いていた。
写真は、ポジティヴフィルムをライトボックスの上に並べ、ビューアーで拡大して眺めて選んだ。
原稿とレイアウト用紙は写植屋に持って行き、版下を作ってもらっていた。
版下とポジとを印刷所に納品し、印刷所はそれを4版のフィルムにわけ、輪転機にかけた。
たった1枚のチラシをつくるのでも、複数の人々がかかわり、複数の行程を経なければならなかった。
しかし、1995年ごろから、徐々にデザインの現場にアップルのマッキントッシュが見られ始めた。アナログからデジタルへの移行期にはさまざまなトラブルが発生したものの、時代は確実にコンピュータへと流れていった。
写真もまた、ポジティヴフィルムの納品から、デジタルカメラでのデータ納品へと変わって行った。
どんなにデザインセンスがあっても、コンピュータを操れない人は、仕事を失うようになった。
逆に、大したデザインセンスがないのに、コンピュータを操れるだけで、それらしい印刷物を作れるようになった。
デジタル化の波にうまく乗れず、更には不景気で仕事が減り、転職を余儀なくされたカメラマンやイラストレーター、デザイナーを、何人も知っている。
わたしが社会人になって25年近くの間に、仕事の環境は、劇的に変わった……。
と、前置きが長くなったが、しかもポイントがずれたが、何が言いたかったかと言えば、デザインソフトの進化である。
Muse Creationのブローシュアでも作ろうと、デザインソフトを購入することにした。
アップルのPagesと呼ばれるもの。久しくデザインソフトを扱っておらず、コンピュータにもダウンロードされていないので、購入することにした。
まず、その安さに驚く。そして、使い勝手の簡単さにまた、驚く。
QuarkXPressなどを使って、狭いモニター上にアナログ風のレイアウトをしていたころに比べたら、作業が夢のように速やかで、あっというまにでき上がってしまう。
この「簡単さ」がうれしいが、しかし手放しで喜べないところが、アナログを知る時代の編集者の思い、かもしれない。
……と、ややこしい話はさておいて。
昨日は、『サロン・ド・ミューズ』をオープン、7名のメンバーが集って、賑やかに「手づくり」を語り合った。
「創ること」をテーマに置いただけで、参加者それぞれが、人の意見を聞きながら、アイデアが触発され、次々におもしろい案が出てくるのが新鮮な驚きでもあった。
最初はともかく、アイデアを出し合うだけだし、そして実際の活動に向けて絞り込む。
数時間の間、「創ること以外の話」がまったく出なかったのも、ワンダフルなほどであった。みんなの創造力が刺激され、それぞれの個性が出てくるのも面白い。
「あれもやりたい」「これもやりたい」と、妄想に走りがちな人もあれば、しゃべり倒す人の傍らで、「作業なら任せて」的に寡黙な人もいる。
そういう調和もまた、興味深い。
ともあれ、生産性のある会話とは、脳みそのよい部分が刺激されるのだ、ということ痛感する。
昨日は、サンプル商品を作る担当者を決めるところまで、進んだ。打ち合わせの詳細は、その後メンバー全員にメールでレポートし、進捗状況を共有する。
詳細はさておき、写真をいくつか、載せておこう。
ディワリ(ヒンドゥー教の正月。光の祭り)の際、オイルランプとなる「ディア」。素材を購入し、自分たちで色づけをする。
ウッドブロック・プリントのためのスタンプ。そもそもはジャイプールなど北部インドの工芸だが、バンガロールでも素材は入手できる。
ふぐが釣れた!! 試しに作ってみた磁石とクリップで魚釣りセット。これがかなり、楽しい。色は折り紙を使ってヴィヴィッドにすることに。
シンガーへ赴き、ミシンも購入した。右上のアンティーク風のミシン(インドでは一般的に使われている)が欲しかったが、さすがに使い勝手を考え、左上の電動にした。
アンティーク風。5000ルピーと廉価。1万円も、しないのね。今回購入した最もシンプルなミシンもそれより少し高いくらい。
中学のころ買ってもらった我が家のミシンはなぜ、あんなにも高かったのだろう……と思う。当時、ミシンは高級品だったものね。「コンピュータプログラム」が全盛期で、しかし使いこなせなかった。
貧しい子供たちにハンカチを。
ということで、木綿の古布などを再生利用することにした。
ただ、四角に縫うのはつまらないので、古いタオルでぬいぐるみをつける。
実は、こういうアイデア、日本のサイトを見ると山ほど出て来るのだ。
紙パックや空き箱で作るリサイクルのおもちゃとか、手づくり玩具とか……。
そういうサイトの作品を参考にさせてもらいつつ、インドで受け入れられるものを試行錯誤しながら作って行ければと思う。
このハンカチは、頭部が重すぎたので、ボディの部分も薄い布ではなくタオルにすべしと思う。こうして試作品を作りながら、古布では寄付用、新しい布で販売用などを作って行ければとも思っている。
まだまだこれらは、アイデアのごく一部。このように、徐々に創作物が増えて行き、「寄付するもの」「販売するもの」が生み出されればと思う。