金曜の未明にバンガロールへ戻って2日余り経つ。しかしまだ、正体定まらぬ心境でいる。肉体は、飛行機に乗ってバンガロールに戻ってきたけれど。エジプトで揺さぶられた続けた魂。そのひとかけらを、ナイル川の西に落としてきたようだ。
ギザのピラミッドの記録を書き終えて、今日はエジプトにおけるキリスト教徒「コプト」についてを記そうと思っていたが、のんびりとしているうちにも、外出の時間となった。
今日は、2011年12月から、我が家のドライヴァーとして勤務してくれているアンソニーの、長女の婚約式なのだ。結婚式ではなく、婚約式。昨今のインドでは、婚約式も一般的になっているようで、ソーシャルライフは益々華やかだ。
敬虔なクリスチャンであるアンソニー。そもそもは、妻と一人娘、二人の息子の5人家族だった。しかしながら、2017年、彼らに途轍もない悲劇が襲った。年に一度の聖地巡礼の際、教会の近くの海辺で、長男が波に飲まれて溺死したのだ。
思い出すだに、たまらない出来事だ。教会での葬儀のときの、彼ら4人の後ろ姿を、忘れることはできない。
今日、7年ぶりに、4人が揃った姿を見た。長男もまた、そこにいただろう。彼らの笑顔を見られて、本当によかった。いろいろと思い出されて、泣けた。
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初めて出会った時には、あどけない少年だった次男アルウィン。すっかりたくましくなっていた。兄の他界後、勤勉だった兄の遺志を引き継ぐように猛勉強をはじめた。成績がぐんぐん上がった。兄の分まで……と頑張りすぎているのではないかと心配したこともあった。
その後、バンガロールの名門大学であるセント・ジョセフ・カレッジに進学し、好成績をおさめている。次は大学院に進む予定だ。
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昨今のインドでは、自由恋愛が増えたとはいえ、宗派を問わず、結婚相手は両親が探すケースが圧倒的に多い。かつては毎週末の新聞に、求人広告ならぬ、結婚相手募集の広告を載せて相手探しをするのも一般的だった。十数年前からはマッチメイキングのサイトなども増えて、相手を探す手段が変わった。それでも、結婚が「家族の一大事」であることには変わりない。
アンソニーはここ数年、アリスの結婚相手探しに頭を悩ませていた。20人以上と会ったという。インドには、いまだに花嫁側から花婿側へ持参金を渡す「ダウリ」と呼ばれる慣習が残っている。法的に禁じられているとはいえ、何らかの物品や金銭を花婿側へ供与するのは免れないとのこと。我々夫婦もお祝いということで、学費同様、支援をした。
デリー宅の運転手もそうだが、バンガロール宅も、アンソニーが運転手という仕事を超えて、我が家の庶務をサポートしてくれている。諸々、一筋縄ではいかないインドでは、かような他者からのサポートがなければ、暮らしを回していけない。わたしたちが、4猫を残して旅に出られるのも、アンソニーが朝晩、餌を与えに来てくれるからこそ。持ちつ持たれつの主従関係なのだ。距離感の取り方もまた、非常に難しいところではあるが、これもまた、終わらない人生勉強。
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二人の結婚式は、年内に開催されるとのこと。彼らがつつがなく、新たな門出へと歩み出せることを、心から祈る。
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最後の写真は、2017年、我が家が保護した子猫を引き取りに来たアリスとアルウィン。すっかり大人になった二人の姿に、今日は改めて感無量のひとときだった。
🙏2017年11月9日。敬虔なクリスチャン一家。巡礼の旅先でドライヴァーの息子が非業の最期。
https://museindia.typepad.jp/library/2021/11/anton.html
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