播磨で幸せランチのあと、「カート付きのビジネスバッグが欲しい」というので、ガルーダモールのサムソナイトへ行くことにした。
飛行機での移動が多い昨今、書類をたっぷり詰めた鞄を肩から下げているのは疲れるから、コロコロと引っ張れるタイプのものを買おうと常々言っていたのだ。
インドのサムソナイト専門店では、米国製(純正)のものと、インド製のものとが売られている。革製のものはインド製。望んでいたデザインのバッグは革製で、インド的やや安っぽい感じの漂う品である。しかし米国で同種のものを買うよりはかなり安い。夫は、「値段の割には質が……」とか、「このジッパーの動きが悪い……」など言いながら、商品チェックに余念がない。
しかしここはインド。少々の不具合は目をつぶって買うしかないのだ。3年間は保証もあり、壊れれば即修理してくれるというので夫も納得した様子。
わたしはそのあと、夫と別行動で、使用人部屋用のちょっとした家具、リネン類などを買いに行く用事があり、急いでいた。夫もまた、クリケットの試合を見たいとかで、早く帰宅したがっていた。
「ちょっと、トイレに行ってくるから、その間にドライヴァーを呼んでおいてね」
と言い残して束の間、夫から離れた。ほどなくして、入り口付近に舞い戻ったところが、夫の姿が見えない。ん? どこ? まさか。やはり! アイスクリームショップの前に夫の姿を認めた。 しかも、彼の左手には、小さなピンク色のスプーンが2つ。すでに2種類の味見を終えた様子で、3つめにトライしているところであった。
アイスクリームを、吟味して買う男。
忘れもしない。あれは1997年の春。母と妹夫婦が初めてニューヨークを訪れた日のことだ。当時まだボーイフレンドだった夫と5人で、歓迎のランチを終えたあと、アッパーウエストサイドのブロードウェイ沿いを散策した。
そのとき、ハーゲンダッツでアイスクリームを買おうということになった。当時からすでに、「吟味する男」だった彼は、1つのアイスクリームを選ぶのに、ずいぶんと時間をかけていた。小さなスプーンを口にし、難しい顔で、時に天を仰ぎ、神経を味覚に集中させる。すでに購入を終え、店外にて彼の様子を見守っていた日本家族一同は、大笑いを禁じ得なかったものである。
あれから8年。彼は今でも、アイスクリームを選ぶときには、たとえすでに知っている味でさえ、味見をさせてもらう。
いい味をだしている男である。
買ったばかりのビジネスバッグ(包まれてさえいないところが、インド!)を片手に、アイスクリームを買う男。本日、厳選されたのは、バタースカッチ、であった。ちなみにここのワッフルは店頭で焼かれていて、とてもいい香りが漂っている。ぱりぱりと香ばしくておいしい。アイスクリームもおいしかった。