往来に出て見上げれば、至る所で紅の花。だから部屋には、白い花。
久しぶりのラッセルマーケットで、相変わらずの臭さ、汚さ。
ただ果物売りの露店の様子が違う。大小様々のマンゴーが、今を盛りと山積みで。
「マダム、マンゴー!」「マダム、マンゴー!」と、四方八方から声がかかる。
花もまた、無造作に積まれた中から、選ぶのだ。白いバラ20本70ルピー。70ルピー? 70ルピー……。 2ドルもしないのだった。久しぶりに、インドの紙幣で買い物をして、また尺度調整に少し、時間がかかる。
ルビーのザクロ、太陽のマンゴー、光のパイナップル。
ひとくち、ふたくち、食べるごとに、身体が目覚めてゆく。
家政夫モハンが故郷から、持ち帰って来てくれた、大きなはちみつの瓶、ふたつ。ひとつは我が家に、もうひとつはスジャータの家に。
ヒマラヤを望む遠い村。暖かな時候には、色とりどりの花々が咲き乱れるその村にて。蜂らが育んだ、ひたすらに純粋な、はちみつ。彼の隣家で作られた、花々の結晶。
食パンをトーストし、薄くバターを塗り、そうしてはちみつを、とろりとかける。香ばしい小麦粉の風味。濃厚なバターの風味。そして甘く芳しい花の精の凝縮を、噛み締める。