●睫毛のこと。
今回、日本旅での収穫の一つに、「マスカラ」がある。妹が、マックスファクターのマスカラをプレゼントしてくれたのだ。白いベース用もある。わたしの場合、目周辺の構造上、ウォータープルーフを使っていても数時間経つと「タヌキ化」する傾向があるため、これまでマスカラは避けていた。が、これは、なかなかにいいようだ。
わたしのまつげの短さに対し、かねてから夫は改善を指摘していた。「日本人はまつげが短いのだ」という言い訳は、しかし数年前、共に日本へ行ったときに無効となった。今時の日本ガールズは、くりんくりんのまつげである故。夫の要請に基づき、マスカラを購入したこともある。が、続きはしなかった。
夫は、普段は眼鏡をかけているので緩和されているが、眼鏡を外すと、その瞳の大きさ、睫毛の長さがあからさまになり、かなり印象的である。わたしが「うへ〜、濃い顔〜!」などと言うと、嬉々として、目と口を見開き仁王顔をする。その仁王顔が、まさに仁王、つまり金剛力士像にそっくりだから怖い。阿吽の「阿」の方である。
どうもインド人の睫毛や目元が気になる。
本日、不動産会社に赴き、あれこれと打ち合わせ。その場に居合わせた男たちは、なんやかんやと話し合っている。わたしの視線は、彼らの瞳周辺に注がれる。なぜ、彼らの睫毛は、こんなにも長く、しかも「くるりん」としているのだろう。
鼻髭たくわえた押しの強いおじさんも、きんきら指輪で無闇に饒舌な兄さんも、みんな睫毛がくるんくるん。
睫毛がくるりんとしているだけで、なんだか微笑ましく、憎めないような気がするから不思議だ。
でも、その考えは間違っとる。ほのぼのしている場合ではない。
●ランチのこと。
不動産会社の訪問を終えた後、久しぶりにパークホテルのi-Taliaでランチ。偶然、Kさんとそのお嬢さんたちも来ていて、久しぶりの再会に喜ぶ。
わたしたちは、別の席を取ったけれど、かすかに母子の気配が届いて来る。育児はどんなにか大変だろうけれど、ああやって、子供たちと一緒に過ごせるというのは、いいものだなあ、と、思う。
わたしは基本的に、この男とだけ、これからの生涯を分かち合うのだよな……。と思うと、やれやれ褌の紐を締め直したい心境だ。
「ミホ、Kさんはいくつ?」
「わたしより、少し若いくらいかな」
「Kさん、とても若く見えるよね。……ミホ。フェイシャルに行ったら? なんか、このへんの皺、目立つよ」
自らのホウレイ線を指でなぞりながら、言う。
本人に悪気はないのだろうが、なにかとこう、いちいちカチンと来ることを言う男である。
夫はその後、伸び切った髪を切りに行った。
わたしは、フェイシャルへはいかなかった。
●夕食のこと。
当初は「単身赴任」だったお向かいに住んでいる日本人駐在員Iさん。1カ月ほど前に、妻のRさんもこちらに移って来られた。わたしは不在がちだったこともあり、一度もゆっくりとお会いしていなかったので、お二人を夕食に招こうと誘う。
ところが、ご主人は日本出張中とのこと。とあらば、と、やはりご主人が出張中のMさんも誘ってもらい、今晩は4人で夕餉の食卓を囲む。ガールズに囲まれて、ハニーは非常に楽しそうである。
飲んで、しゃべって、わたしもとても、楽しかった。
ご夫婦二人でのインド赴任の場合、ご主人が出張となると、一人で留守を守る奥様方は、心細いときもあるに違いない。心細くならないわたしでも、心細くなる人の心持ちは想像できる。
一人で夕飯を食べるのが辛いときは、どうぞ我が家へ。