最後にこの町で雨を見たのはいつだっただろう。思い出せないほどに遠い。
夕暮れどきから、灰色の雲が空を覆い始め、やがて日暮れてのち、雷鳴と稲妻とが空を。雨は優しく軽く、降り注ぐ。こんなにも強く、雨を待ちこがれたことが、かつてあっただろうか。
中学一年のときに福岡を襲った「大渇水」のとき以来の、雨への喜びのような気がする。
さて今日は、友人らを招いて、ポットラックランチを行った。午前中まで、メタルワークの職人が来ていたりと落ち着かなかったが、なんとか昼頃には、家全体が整然となり、調った。
わたしも、チキンの独創煮込み料理やサラダなどを作り、ランチの準備をする。冷蔵庫では、スパークリングワインや白ワインが冷えている。
みなが持ち寄ってくれたおいしい料理で、ランチタイムからアルコールも進み、ここ数週間で一番、落ち着いた午後となった。
みな、家を褒めてくれ、うれしかった。
また、新しい日々が始まるのだな、ということを、実感する。
* * *
夜、雨が降り出す前からもう、あたりには雨の匂いがしていた。
どこか遠い場所で、すでに降り始めていた雨の匂いが、風にのって届いたのだろう。その、乾いた木々や道を濡らす匂いが懐かしくて、うれしい。
やがて、ぽつぽつ、ぽつぽつと、雨はわたしの庭にも降る。
その優しげな雨の庭を裸足で歩いてみる。心地よい緑の感触。埃にまみれたこの街の緑も、少し輝きを取り戻すことだろう。
雨のあとの風は涼しく、ベッドルームにもひんやりとした空気が流れ込んでくる。
なんとも心地のよい宵である。
ダディマに会いに。
そして気落ちしている義父ロメイシュを励ましに。
なかなか落ち着く間のない日々だけれど、いろいろなことが、ちゃんと間に合ってよかった。
さて、今日は原稿を書いて、買い物に出かけ、ようやく「新居関係」とは関係のない日常に復帰する。
書斎の窓から眺める緑と、遥かに見上げるほどに伸びたブーゲンビリアの花々。