片隅の風景 インド

ヒトもイヌも、

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この国に生まれて、

国に育ち、

この国に似合った様子で。

2006/11/15 | 個別ページ

チャイ

14station17

5ルピーが、

五臓六腑に染み渡る。

2006/11/14 | 個別ページ

ムンバイ。清濁併せ呑み込みきれず、

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あふれている街。

汚れた家に生まれ、
生まれて間もなく、
汚れてしまった赤ん坊は、

着るものも着ず、
汚れたままの肌のまま、
汚れたままの子供に育ち、

利発で鋭い瞳。
憐れみを乞う鋭い瞳。

不快のなんたるかを知らず、
不快そのものが日常で、
汚れたままに思春期で、
汚れたままに恋をして、

土に眠り、
泥に戯れ、
太陽の熱残るアスファルトに頬を寄せ、
地面の温もりに親しく、

汚れたままで伴侶を得、
汚れたままで子を産んで、
汚れた子供を抱きかかえ、
汚れた手をして米を乞い、

汚れた家で朝が来て、
汚れた家で夜を迎え、

ぼさぼさの、子供の髪の、
ぼろぼろの、子供の肌の、

延々と、路肩に続く、
延々と、路肩に続く、
ぼろぼろのぼろぼろのバラックから、
裸電球の灯火がこぼれる。

傍らを走り抜ける。
ベンツさえ走る。
ベントレーさえ走る。

延々と、路肩に続く、
ぼろぼろのぼろぼろのバラックで、
今日もまた、赤ん坊が生まれる。

汚れるばかりの生涯の、

煤けるばかりの人生の、

今日もまた、赤ん坊が生まれる。

2006/11/13 | 個別ページ

生業

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彼も働く。
我も働く。

今日も働く。
明日も働く。

2006/11/12 | 個別ページ

南国高原、午後の雨。

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陽光の、イタリアンランチを終えて、帰路に就く。

みるみるうちに、かき曇る空。
彼方から、雷鳴。
大急ぎで、鳥たちが、
あちらから、こちらへ。こちらから、あちらへ。

車がガレージに入るや否や、降り出す大雨。

いい雨。

コンクリートが濡れる匂い。
緑の木葉が濡れる匂い。

ざあざあと、風を含んだ大粒の雨。
ばたばたと、雨に打たれる緑の揺らぎ。

デカン高原の南。標高920m。

生まれたところから、遥か遠い場所で、
雨の音を、聞いている。

2006/11/07 | 個別ページ

独立、終戦、盂蘭盆会。夏なき場所で夏思う。

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本日、インドは独立記念日。1947年のこの日。
70年以上に及ぶ英国支配より、開放された日。

街に翻るあちこちに国旗。
サフラン色のヒンドゥー教、緑色のイスラム教、調和、平和、和解の白に、
浮かぶはチャクラ、独立の証。

本日、日本は終戦記念日。1945年のこの日。
玉音放送、ヒトの声。

国旗を、淀みない思いで、誇らしく国旗を、掲げられる国々と、
そうでない国と。

日章旗の、憐れ。戦没者の、哀れ。

夏休みの、お盆休みの、盛夏のころの、遣る瀬なさ。

入道雲白く空蝉の、岩間を走る清流の冷たく。
そうめん流しの竹竿と、めんつゆ薄くてなお頬張り。
鬼灯(ほおづき)苦くて音鳴らず、虫取り網の中の羽音。

大きな盆に次々と、餡のきな粉のぼた餅の並び。
三和土に並んで齧る水瓜、飛ばし合う種の滑らか。
ロケット花火、蛇花火、落下傘に線香花火。
指にしみいる火薬の残り香。
ボンボン時計の音に眠れず。

迎え火、送り火、精霊流し。
ナスに突き刺す爪楊枝。
線香の匂いがする饅頭。
川辺にゆらゆら灯りは揺れて、
精霊送りて夏は往き。

お盆らしさのなにもなく、
しかし「盂蘭盆会」その言葉生まれし国で、
菓子を焼きつつ父をしのび、
灯火揺らして、風に送る。

風がそよそよ、そよ吹いて、
いつにも増して心地のよい日。
ゆらゆら木枝が光を揺らし、
蝶が部屋に舞い込んでくる。

幾度もひらひら舞い込んでくる。
赤蜻蛉に代わっての如く。

2006/08/15 | 個別ページ

日没劇場。

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夕暮れの街。
車を降りれば、たちまちに喧噪。
毎度、オートリクショーのブンブンとゆき、
煎りピーナッツ売りの鉄鍋鳴らすチンチンと、

肌色の空が、みるみる赤らんでゆくのを、
舗道から溢れながら行く人々の、

波の直中、立っているだけで、
逆らうみたいな様子で。

虚ろに眺めるは、日没の劇場。

空の色はそのままに、不図、舞台は暗転。停電。

叫びを上げ飛び立つカラスら。
漆黒の建築物は影絵となりて、
木枝の様子と溶け合いて麗し。

変わらずの騒音と埃と人ごみの、
終わりなき、芝居。

2006/06/13 | 個別ページ

ジャングルにて。

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小さい頃、よく泣いた。

転んでは、泣いた。
痛い気がして泣いた。

祖母の家がいやで泣いた。
帰りたい気がして泣いた。

お姉さんになってから、
ようやく泣きやんだ。

小学校の夏休み。
みんなで出かけた山でのキャンプ。
湿った森の、木と土の匂い。
カレーと、
飯盒の底の焦げたごはんの匂い。

キャンプファイヤー。
火をおこす先生の顔。
炎に照らされている友達の顔。
みんな笑っている。

みんな笑っている!

しっかり者のお姉さんは、
途方もない心細さに、
密やかに、泣きたくなった。

一体誰が、わたしの友達?
友達とは、何だったろう。

いやな子供だったろう。

満天の星空が、怖かった。

父の膝の上で、
父に抱かれて泣いたのは、
小学校五年生の夏が最後だった。

歳を重ねれば重ねるほど、
幸いにも、鈍感になってゆき。

やがて無難に、大人になれた。

幾月もひとりきりで、旅をできるようになれた。

仕事でも、遊びでも、誰とでも、どこへでも、
泣きもせず、騒ぎもせず。

善き物が、見えるようになれた。
良き物を、追えるようになれた。

いくつもの国境を越え、
いくつもの土地を踏み、
敢えて心細くした。

寄る辺なき不安の所在など、
突き止められはしないとわかった。

出会って、別れて、出会って、別れた。
それを繰り返し続けた。
茫漠の大地に、歳月は溶けていった。

今、インドという国の、ジャングルにいる。

雨粒を頬に受けながら、
泥水を弾き飛ばしながら、
薄暮の森を、走り抜ける。

象や鹿や猿が住む森を。

この国が我が故国のひとつとなりて。

ジャングル、という言葉が、
この国で生まれたことを知ったのは、いつだったか。

最早、どこからも遠くない。

最早、どこからも遠くない。

歳月を、
溶かしながら、
溶かしながら、
ひたすらに、進む。


[5月27日。ジャングルにて、父の三回忌を迎える。]

2006/05/27 | 個別ページ

故郷喪失。

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静穏の夕間暮れ。
ぱたり、と、
色が変わる六十五刹那。

我に返り、面あげれば、
白い部屋は一斤染の。

外に出でて、天仰ぎ見ゆ。
啼き叫ぶ鳥らの舞い飛び、
コーランの唸り、今日も。

我、異国に在りて平穏の。
帰る場所の、何処であろうと。
帰りたい場所の、何処であろうと。

囚われの、不要の、愉快。

帰る。戻る。行く。来る。還る。

我、在る場所に、我、在り。
素手で、素足で、屹立せよ。

2006/05/14 | 個別ページ

夏の日の焦燥。

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夏の午後。
まどろみの中で、波の音を聞いた。
海からは遠い、この高原の街で。

天井のファンがゆっくりと回っている。
少し汗ばんだ額に、風が届く。
刺すような白い日差し。

コスタブラヴァの、
地中海を望む小さな街の、
安宿の、
固いベッドと、つめたいタイルの床。

封じ込めていた記憶の断片。

遠い日々の果たせぬ願いが、
束になってこみ上げてくる。

グラスの水は、喉に重く、
首筋に滴り落ちて、
シャツの襟元を、つめたく濡らす。


2006/04/30 | 個別ページ

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