あれはまだ、20代の若かりし編集者だったころ。新しい職場に転職した直後に、海外取材を命じられ、旅慣れたおじさん二人と共に、カナダへと赴いた。
おじさんの一人は40代前半。画家であり、イラストレーターであった。
もう一人のおじさんは、30代前半のライターであった。
25歳前後のわたしにとって、30歳を超えていた二人は、等しく「おじさん」であった。
知識も経験も浅く、ついでに色気もない。しかし体力だけはがっちりあったわたしに、おじさん二人は無駄に手厳しかった。
無駄に手厳しかったが、未だ彼らとの旅のディテールを克明に思い出せるということは、わたしにとって貴重な経験であったにほかならない。
あのときの、イラストレーターの「おじさん」は、今のわたしと同じくらいの歳だった。彼は毎食後、何かの薬を飲んでいた。何の薬かは覚えていない。覚えていないが、彼は飲みながら、毎度毎度、言うのだった。
「40過ぎると、がく〜〜〜〜んと体力が落ちるけぇのう」
と、広島界隈の言葉でもって。
「がく〜〜〜〜んと」という言葉とともに、頭部をガクンとうなだれるその仕草さえ、克明に思い出される。
あまりにもしつこく繰り返されたその言葉は、わたしの脳裏にしっかりと刻印された。
40歳を過ぎた今、彼の言葉通りだった、とは認めたくない。しかし、多少の無理はできても回復が遅い、ということを実感する。
基礎体力がある人ほど、体育会系で健康である人ほど、無理をしがちである。
わたしの父が、そうだった。自分の身体を労るよりも、無茶を通して、病に苛まれた。
そうならないためにも、疲れたら休む。自分の身体の声を聞く。ときには身体のかわりに知恵を使って、賢明に行きていかねばと思うのだ。
「とっとと片付けてしまいたい」
「前倒しで仕上げておきたい」
さほど締め切りが迫っているものでないにもかかわらず、せっかちになりがちな自分に向き合い、速度を落としてゆっくりと確実に、仕上げるべきを仕上げていこうと思う、2010年のはじまりだ。
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