一昨日、バンガロール市街南部のエレクトロニック・シティで開催された「バンガロール・ファッションウィーク」のオープニングに赴いた。
ネットを通してプレス用の申請をしておいたところ、プレスカンファレンスの前日にメールが届いたことは、以前記した。
その際、当日のスケジュールをあらかじめ知らせて欲しいと頼んでおいたのだが、届かない。ホームページはもちろん更新されていない。4日間のスケジュールは空欄のままだ。ただ、グランドオープニングは2時半から、という情報のみ、得られた。
JET AIRWAYSにLG、KINGFISHERなど、国内、外資、それぞれに大手企業のスポンサーがついており、いかにも「力が入っている」ムードはあるのだが、それはあくまでムードの話。
仕切っているイヴェント会社のスタッフも若い女子が中心で、なにやら「のんびり」としている。開催前日の夜に、ようやくメールが届いた。グランドオープニングは、午後4時となっている。
すでに1時間半、遅れている。さてここで問題なのが、「わたしは何時に行けばいいのだろう」ということだ。4時は4時にあらず。ともあれ、家を2時半に出た。
渋滞がなければ1時間程度で到着するが、バンガロールの道路事情を鑑みれば、速やかに到着するとは思えない。
会場となったホテルに到着したのは4時丁度。「少し遅れたくらいでいい」と思っていても、時間通りについてしまう。それはもう、日本人のDNAのなせる技だ。
日本人としてのわたしは、意図せずとも、どうしても間に合うように、行動してしまうのだ。
それはまた、インド人が、どうしても間に合わないように行動してしまうのと、同様に。
ホテルのロビーにはそれらしきゲストが見られるが、想像していたほどの賑わいではない。
今回で3度目だと言うこのショー。メディアへの告知もほとんどなかったし、いったい誰が来るのだろうと思っていたのだが、実際誰も来ないんじゃないのか、プレスと関係者以外……と思わせる雰囲気。
ともあれ、すでに開始時間の4時を過ぎている。せっかく来たのだから、いい席で見たい。早めに中へ入ろうとドアを開けたら……。
案の定。案の定過ぎる展開だ。
誰もいないにもほどがある。見やすい席を取っておこうなどと心がけていた自分を恥じてしまうほどに、誰もいない。
プレスのフォトグラファーが数名、撮影の下準備をしている。彼ら切るシャッターの音が、時折聞こえるばかり。寒い。実際、冷房が効きすぎていて、寒い。
4時15分時点で、会場にはわたしを含めて3人ほど。寒い。一旦外へ出る。待ち合いのホールに出ているベンダーで、ジュエリーを見たり、服を見たりするが、間が持たない。
コーヒーでも飲みに行こうかとも思うが、いつ始まるかもわからない。本でも持ってくればよかった。病院の待合室状態である。
すでに顔なじみとなったイヴェント会社の女性たちに声をかける。
「ねえ、実際のところ、何時から始まるの?」
「4時からです!」
「もう、すでに4時半なんだけど」
「あと5分くらいだと思います」
毎度のことながら、時間の歪みの中に迷い込んだが如きインド世界。あなたの時計と、わたしの時計とでは、指している時間が違うのですか? と問いたくなる。
村上春樹の『1Q84』3巻をここ数日読んでいたのだ。「いつも住んでいた世界」から「別の世界」に紛れ込む主人公たち。その世界には月が2つある。
この国では、日常的に「別の世界」が現れる。日本人としての自分だけが、「異質な存在」として浮かび上がることが、あまりにたやすいのだ。空を見上げて、月が3つ見えたとして、わたしはどれほど、驚くだろうか。
さて、ショーは4時40分ごろに始まった。不思議なことに、そのころになると人々が示し合わせたように、いいタイミングで入ってくる。まるで最初から「4時40分に開始」であることを、知っていたとでもいうように。
ショーの詳細については、「キレイなブログ」にて、写真も盛りだくさんに4回にわけてレポートしている。そちらをぜひご覧いただければと思う。
インド発、元気なキレイを目指す日々(第二の坂田ブログ)(←Click)
■ファッションウィーク・レポートB面 (1)~(4)
プログラムによれば、午後4時から1時間おきに、ソロ、もしくはダブルのショーが開かれることになっている。唯一午後7時から、ダイヤモンドショーというジュエリー会社のショーが開かれ、8時のショー、9時のショーで最後である。
夜の渋滞を考えると、遅くも8時にはここを出たい。さもなくば、夕飯を食べ損ねる。マイハニーのご機嫌も損ねる。
しかしこの分では、どうずれこむかわからない。
プログラムを見て、そこに並ぶデザイナーたちの名前を見て、正直なところ、少々がっかりしていた。
デリーやムンバイのファションショーではきっと登場する、インドの著名デザイナーの名前が、少なくともわたしの知る人たちが、誰もいなかったからだ。
こうなると、一度くらいはデリーのファッションショーに行ってみたいと思わされる。と同時に、やはりバンガロールは、laid back な countrysideだと、なにやら偉そうにも思ってしまうのだった。
5時のショーは、当然ながら5時には始まるわけもなく、一時はお客もメディアも引き上げて、モデルたちが気の毒になるほど、しんみりとしたショーもあった。
華やかなのはステージだけ。見ている人たちはまばらな、上の写真がそのショーである。この時点でもう「帰ろうかな」とも思ったが、いやいや、せっかく遠出して来たのだからと気を取り直して、次の回を待つことにする。
「で、正味な話、次の回は何時に始まるの?」
「6時です」
「すでに6時半なんですけど」
といった会話を性懲りもなく繰り返すわたしもわたしである。スタッフたちとはすっかり顔なじみになった。そもそも、オープニングから通しですべてのショーを見ているのは「わたし一人だけ」である。
間違いない。大げさでもない。わたしだけが、都合4回のショーすべてを見た、唯一の人間であった。どれだけ熱心なんだ、という話である。ファッション業界の関係者でもなんでもないのに。
ちなみに2日目のダイヤモンドショーに出るブランドが、ベンダーを出していたのだが、それは奇しくも、わたしがお気に入りのブランド、ジャイプールのAMRAPALIであった。
わたしが身に付けていたネックレスと指輪がAMRAPALIの商品だったことから、店の人からもたいそうフレンドリーにしてくれ、世間話などをする。
文句を言いながらも、この「緩い感じ」を楽しんでいるのも事実だ。
さて、後半になるにつれて、人も徐々に増えて行き、それなりの盛り上がりを見せ始めていた。こうして写真だけ見ると、「それらしくオーガナイズされている感じ」が伝わってくるから不思議だ。
段取りが悪い、というよりは、ない。といっても過言ではないほどの、いい加減さでありながら。
大学時代に、学園祭の実行委員長をつとめたのを皮切りに、わたしは社会人になってからも、仕事とは別に、ヴォランティアで、諸々のイヴェント運営に携わって来た。
イヴェントを主催する側の立場から見るに、あくまでも日本人としての感覚から言えば、何もかもがあり得ない状況だ。これが日本であれば、数人が自律神経失調症になったり、ストレス性胃炎を起こしたりしていることだろう。
このショーに出席した約4時間の間に、ここでは書き尽くせないほどの「インドに対する所感」が思い巡った。もちろん、イヴェント開催に限らない、この国は、一筋縄ではいかなすぎる。なにごとにおいても。
そのことを理解し、受け止めないことには、この国では「躍起になる」ことが即ち、自分の首を絞めることになる。噛み合っていないモーターが高速回転をして、無駄に熱を発してオーヴァーヒートするかのように。
つまるところ、自分にとってハッピーであれば、それでいい、というのであれば、いったいハッピーなのは、誰なのだ? 少なくとも、自律神経失調症や胃炎を抱える人ではない、というのは確かだ。
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