[TAJ WEST END, BANGALORE, November 2004]
明日から1年ぶりのニューヨークだ。そんな慌ただしい最中に告知することもないと思ったが、しておく。
MSSの活動の一環として、「ミューズ・クリエイション Muse Creation」を発足することにした。
通称、「手づくり隊」。今のところ、隊員はまだいないが、候補者は数名いるので、徐々に増えることだろう。
前々から考えている複数の企画のうちの一つだが、企画を温めてばかりじゃ意味がないので、見切り発車することにした。
ローカルフード探検隊が、「食べる。レポートする。」に帰結するのに対し、「手づくり隊」は自己完結ではない。あくまでも、社会貢献に結びつくような結果を導くべく、活動にするつもりだ。
特に絵を習ったわけでも、普段描いているわけでもないが、そこそこに絵が描ける。折り紙や切り貼りなども、手際よくできる。それなりに、裁縫もできる。料理もできる。歌も歌える。楽器も扱える。スポーツもできる。
専門家の如く、その技量が特に秀でていなくても、日本人の多くは、上記の大半を「ある程度は」できるのではないか。
正直なところ、日本に住んでいたころは、それくらいできるのは「普通のこと」と思っていた。
しかし、米国、インドと海外で暮らし、多くの非日本人に接するにつけ、日本人の器用さ、オールマイティな能力の強さは、特筆すべきであると、認識するようになった。
日本では、「できて当然」のことが、海外では「ワンダフル!」な技になることが、多々あるのだ。
たとえば米国の学校のPTA活動。封筒に入れるレターを三つ折りするのに、途方もなく手際悪くスローで、仕上がりも「端と端がそろわない」ものが普通の世界にあって、数枚をまとめてピシっと折ったあと、1枚1枚をたたたっと封筒に詰める日本人のお母さんの手技は「アメイジング!」、である。
たとえば、バザーで販売する手づくりの作品類。体操着を入れる袋や、小物入れのバッグ、子供のスモッグ……。あるいは、ハロウィーンの衣装、学芸会の小物など。使用人やテイラーに頼まず、母が自ら「上手に」裁縫するなど、インドの、特に富裕層家庭では、まず有り得ない。「インクレディブル!」。と、称賛されること請け合いだ。
たとえば、弁当。食パンにジャムやらピーナッツバターをペロンと塗ってサンドイッチにして、ビニル袋に詰めた物や、ニンジンやキュウリなど野菜のスティックを、やはりビニル袋に詰めた物をして「ランチボックス」と言い張る米国のお母さんには、日本のお母さんが作るキャラ弁など、「オーマイガーッ!」。その存在意義すら理解不能の領域である。
日本の銀行員がお札を数えるその様子。それは最早、マジシャンのパフォーマンス。そもそもお札を数える特訓をする国など、ごく稀ではなかろうか。いつだったか、米国大統領選挙で、フロリダ州の投票用紙のカウントが、諸々の理由で手間取ったことがあった。当時、「日本人の銀行員を派遣すれば、一気に片がつく」とのジョークが流布したものだ。
何が言いたいかと言えば、日本の人々の、生かされる場面が少ない潜在的な可能性のすばらしさ、である。
日本人の手先の器用さ、クリエイティヴの素養が育まれた理由にはさまざまあろうが、その一つは、日本の学校教育のお陰でもあると、わたしは思っている。
国語、算数、理科、社会。
それらに加えて、音楽、体育、図画工作、家庭科……と、現在の科目名は異なるかもしれないが、ともあれ、日本の子供たちは、生きていくために必要なことの多くを、学校で教わる機会を得てきている。
受験や進学においては、重要視されないそれらの科目は、しかし社会へ出て、人生を豊かに生きて行く上で、実は意義深い技量を伝授してくれていた、とさえ思う。
その素養を持っていながら、しかし、発露する場がないのは、惜しい。
日本に住んでいる人たちは、すでに日常が多忙ゆえ、「惜しい」などと考える暇もないだろう。しかし、夫の駐在に帯同して海外に暮らしている女性たちは別だ。
日本で仕事をしていた人も、辞めてこちらに来ている人もいる。日本にいるころより、時間は潤沢にあるはずだ。そんな人たちに向けての、これはメッセージである。
能あるタカも、爪も隠しっぱなしでは、一生「無能のタカ」で終わってしまう。技能は有効利用してこそ、存在意義があるというものだ。
あなたの技量を、社会貢献に生かしませんか?
というのが、ミューズ・クリエイションの主旨だ。
インドでは、折に触れてチャリティ関連のバザー、即売会などが行われている。すばらしい作品もあるが、一方で、「これくらいなら、もっとうまく作れるのに……」と思う物が、多々ある。
ギフト用の紙袋、グリーティングカード、ブックマークなどの紙製品。あるいは、布製の小物入れのポーチ、巾着袋など布製品。あるいは、クッキーやビスケットなどの焼き菓子類……。
こういう簡単なところからはじめていこうと思っている。
これまで日本人女性を対象にチャリティ・ティーパーティを開催したり、慈善団体を訪問してきたが、いずれも「その場限り」で終わるところが、自分の中で、不完全燃焼であった。
もっとも、参加する方々は、それがわずか一度のことでも、きっと心に残る経験になられただろうし、意義あることだったと思う。
しかし、真に「貢献」するとなると、いつも記していることだが、欧米人のヴォランティア活動に対する積極性と継続性に比して、日本人はまだまだ、後手であると思う。特にバンガロールでは。
もちろん、独自に社会貢献活動されている方はいらっしゃる。
しかし、活動したいが糸口が見つからない、もっと関わりたいが、その方法がわからないという方も、恒常的にいらっしゃる。
苦手なことを無理にやるより、得意なことで貢献する方が、続くとも思う。
活動の内容、目標などについては、米国から帰国して後、詳細を記したいと思う。
各種手づくりの作品を、チャリティ・バザールなどを通して販売するといった手近なところからスタートし、徐々に活動の内容を濃くしていく。
たまには打ち合わせも必要になるだろうし、みなで集ってアイデアを出し合い、作品作りなどをすることも考えられるが、基本、手作業は一人でもできる。
自分のペースで、一人で作業できるという点においても、クリエイティヴな活動は、魅力的である。
更にはそれが、慈善活動につながるとすれば、作り甲斐もあるかと思う。
そんなわけで長くなったが、ご興味のある方、メールでご連絡を。「有り得んほど不器用」な方でなければ、どなたでも、どうぞ。
とはいえ、遠隔地では活動しにくいので、まずはバンガロール在住の方。のちに、規模を広げたいと考えているので、そのときには改めて告知したい。
5月の中旬より、一人でも、小人数でも、活動を開始する予定だ。
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