5年前、わたしの背丈より少し高く、わたしの太もも程度の「細さ」だったヤシの木が、今や5階に到達する高さ、小錦の胴回りを遥かに超える太さとなった。
隣の敷地の樹木らもまた日々成長。そのうちの1本(といっても大きな3本の枝に分かれている)が我が家の庭にせりだし、気がつけば、庭の3分の1ほどもが「木陰」となっていた。
ここ数カ月のうちにも、南を目指して枝はぐんぐんとのび、幹はフェンスをなぎ倒しつつ、成長。わたしは「即、切らねば危険」というのに、夫は「木陰もまたいい」「自然を守るべき」と言っていたのだが。
実際に隣家の敷地を見ていたわたしは、その危険な伸び具合に懸念を抱いていたので、夫にも見に行くよう促す。下がその時の写真。
こんなですよ、こんな。我が家側からはよくわからないけれど、こちらから見るともう、単に倒れ掛っているとしか思えない状態。
ちなみに被写体はドライヴァーのアンソニー。この3代目だか4代目のアンソニーは、本当にすばらしいドライヴァーで、最早、我々には不可欠な存在だ。
すばらしい人だと突っ込みどころがなく、従ってはブログにも登場しないのだが、本当に、彼の存在には助けられている。
ドライヴァーの話はさておき、樹木はこれだけでなく、インド菩提樹の大きな枝が乾燥し、落下の危険があるので、それも切らねばならない。
アパートメントのコミュニティに申請し、行政機関の許可を得て、樹木伐採業者に依頼し、伐採となる。これまでにかかったのが1カ月。
この1カ月のうちにも、なんかしらんが樹木は盛大な勢いで成長。それを昨日、伐採した。
という音を聞くこと、1日に3回。この伐採を巡ってはもう、文字にするにはあまりのエネルギーと時間を要するので最早、何も記さないが、本当に、たいへんだった。
喜怒哀楽の「怒」「哀」レヴェルが、ぐ〜んと臨界点を超える瞬間が、幾度か、あった。が、昨日のわたしは、樹木伐採に心血を注いでいる場合ではなかったのだ。
ここでも幾度か告知したボーンフリーアートスクールのパフォーマンスが、昨日行われた。
それに先駆け、先週後半、主宰者の一人である中山実生さんから相談の電話があった。
なんでも、パフォーマンスの前に、出演者やヴォランティアのスタッフに出すための軽食を、とある飲食店にヴォランティアで提供してもらうことになっていたのだが、キャンセルされたとのこと。
インドでは、よくありすぎる話である。
お金を払うといっても、キャンセルされること日常茶飯事のインド。スポンサーとして提供、だなんて、誰かが調子よく「ノープロブレム」と言った後で、誰かが「そんなこと、聞いてないよ」といえば、それでおしまい。
約90人分の軽食。
一瞬、迷ったが、「ミューズ・クリエイション」のチーム食の初仕事だと思い、ここは引き受けることにした。正直なところ、インドの軽食はリーズナブルに用意することができる。
サモサやビスケットなどを山ほど買って持って行く選択肢もあるが、せっかくなら作りたい。
これまでも、40人分程度なら、何度かパーティの食事を作って来た経験があるので、サンドイッチ程度なら問題なくできるだろうと思った。
しかし、一人で時間をかけてやるよりも、もしも手伝ってくれる人がいれば、その方がずっと助かる。というわけで声をかけたところ、5名の方が手伝ってくださることになった。十分な人数である。
チェッカークッキーは、前々日に、急に思い立って作ってみた。MiPhoneにも書いたが、実に30年ぶりにアイスボックスクッキーを作る。これが懐かしくも楽しい。
クッキーは、約100枚以上を焼いた。一度、うっかり焦がしてしまったが、それはそれで妙に香ばしくできたので、味見用にした。
その他は当日の準備。大量のゆで卵をゆで、具になるポテト&ニンジンサラダを作り、卵サラダを作る。買ったばかりの大きなル・クルーゼ鍋が大活躍。
コンロの「五徳」からはみ出さんばかりの大きさだが、実に使い勝手がよい。卵もマヨネーズに塩胡椒とシンプルだが、おいしくでき上がった。
午後1時を過ぎたころ、サンドイッチ部隊が到着。こんなとき、担当業務がさささっと決まるのもまた、爽やかなまでにジャパニーズ。
主婦歴たっぷり(!)の先輩が、トマトやキュウリ、玉ねぎのカットを引き受けてくださる。
インドのキュウリは中心の種部分が多く、そのあたりを削ぎ取ってスライスせねば水っぽくなるのだが、そのあたりの手際も抜群。
他のメンバーは、バター塗り、マスタード塗り、具をはさむ担当。意外に難しいのがバター塗り。室温に溶かしたバターをすっと塗る……というわけにはいかないのだ。
インドの食パンは、もそっ、ぱさっとしているものが多いので、すぐに破れたり穴があいたりする。空気が乾燥しているのも手伝って、すぐにぱさつく。
実に丁寧に塗らねばならない。
でき上がったサンドイッチを切り、容器につめ、準備を進めつつも、庭の樹木伐採の様子が気になり、何かと落ち着かない我。
ついつい、シャウト! など、いろいろあった。
いろいろあったが、それまで樹々に覆われていたところに青空が広がり、急に庭が明るくなったのに感動する。
木陰もいいが、陽光もいいものだ。
そんなわけで、みなさんのワンダフルなお手伝いのおかげで、無事予定通り3時半には準備完了で解散。4時には家を出て、依頼通り5時には会場に到着したのだった。
コンクリートの台の上に持参のテーブルクロスを広げ、ピクニックの雰囲気。リサイクルのプレートやナプキンも準備。そして、インドの人たちが大好きなケチャップも忘れずに。
サンドイッチはごくシンプルな味付けなので、きっと刺激を求められるに違いないことから、ケチャップである。
ちなみにヴェジタリアンが多いので、素材は卵以外すべてヴェジタリアン。トマトとキュウリのサンドイッチは、マヨネースも卵入りではない超ヴェジタリアン仕上げである。
ポテトチップスとスポンジケーキは、近所のお気に入りローカルなベーカリー(Albert Bakery営業時間は午後3時から9時)で調達した。本当は、ここで小ぶりのサモサやパフなどを買うだけでもよかったのだが、ともあれ、「気は心」である。
ヴォランティアの大学生たちが、皿に取り分けてみなに配布する。実生さんはじめ、みなさん、とても喜んでくださった。わたしもお腹が空いていたので、食べてみる。
彼らには刺激の少ない味付けだったかも、と思いつつも、ホームメイドのやさしさが伝わる味がして、やっぱり手作りはいいなあ、と思う。
「チーム食」の活動。今回は全面的にヴォランティアであり、布製品のように販売するのは難しく、コストがかかることではあるが、しかし、自分たちが作ったものを喜んで食べてもらえることは本当にうれしいことでもある。
今後、予算の配分などを検討しながら、「チーム食」の活動を展開していければと思う。
さて、日が暮れて、7時を過ぎて、パフォーマンスの開始である。会場は、決して満席とは言い難く、しかし声をおかけした日本人の友人たちも足を運んでくれた。
ギターを奏でているのが、中山さんと一緒にボーンフリーアートスクールを立ち上げたジョン。
彼は広島や長崎の原爆、平和記念活動などにも強い関心を持ち、日本の歌を、実に流暢な日本語で歌ってくれる。
といっても、それはパフォーマンスが始まる前の話であるが。「ふるさとの町、焼かれ、身よりの骨埋めし焼け土に……」で始める「原爆を許すまじ」という歌も、ご存知であった。
ボーンフリーアートスクールの子どもたちによるパフォーマンスのほか、他のNGOの子どもたちの踊り、またプロのダンサー達のパフォーマンスも次々に披露された。
かつて実際にストリートチルドレンだった子どもたちが、児童就労問題を問うべく演劇を披露している様子は、何とも言えず、複雑な気持ちである。
数年前にヒットした映画、『スラムドッグ・ミリオネア』の、3人の子役のうち2人が、実際にスラムに住む子どもたちであった、という話を思い出す。
なにもかもが、リアル。現実。
たとえばバンガロールのあるカルナタカ州。ここでも、コーヒー農園や採石場、鉄工場、ゴミ捨て場、レンガ工場、更には携帯電話などの電子機器部品を作る現場でも、子どもたちが働いているという。
そして、バラの農園。
これは、ジョンの説明によるもので、その数字の裏付けはとっていないのだが、インド国内で生産されるバラの70%が、ここバンガロールで生産されているとのこと。
バンガロールでバラ農園を起業した元NRI(海外在住インド人)のことは、移住当初の6年ほどまえに、新聞記事で読んだことがあった。
それから遡ること十数年前、彼がインドに戻って来たとき、ヴァレンタインズデーに妻に贈るバラが見つからなかったことから、バラ農園の仕事を始めたとあった。
その後、オランダの花会社との合弁会社となって、事業拡大したとの話がニュースになっていたが……。
ジョンの話をそのままに記すならば、バラの花の収穫に、子どもの労働が関わっているという。子どもたちは。1日に1万本のバラを摘む。
1万本のバラを摘んで得られる日給は、20ルピー。30円程度である。
次々と、舞台を彩るパフォーマー達の姿を見ながら、どこかしら、気もそぞろ、である。知るべき、知らないことの尽きず、知った後に、果たして自分は何を為すべきか。
途中、ショートフィルムの上映を挟んで、10時ごろまでパフォーマンスは続いたのだった。
取り敢えずはこうして、記録を残し、経験を反芻し、自分の中で見聞きしたことを消化しながら、次への行動へと結びつけてゆこう。
早速、今朝は、RKBラジオ『中西一清のスタミナラジオ』の「アジアの街角」のコーナーの録音で、ストリートチルドレンの話題を話した。明日の朝、放送される予定。福岡界隈の方、どうぞお聴きいただければと思う。