蓮の花には、降り注ぐ陽光が必要である。ということを、改めて知るここ数日。
年々、すさまじい勢いで隣の敷地からせり出していた、大いなる樹木の枝。我が家の庭の半分ほどが木陰となり、芝生も花も、育たなくなっていた。
先月、大掛かりな伐採を行い、庭に空が戻った。日差しが庭の緑に降り注ぎ、もう1年以上開花していなかった蓮華が開いた。
今も水面下に、いくつかの蕾が潜んでいる。
といっても、すごく小さい。
まるでわたしの指が超ビッグサイズになってしまったかのような。
本当に、びっくりするほどちびっこな、成長不良の蓮である。
それでも、神々しいまでに凛と咲く花。
本当に、かわいらしい。
蓮に限らず、多くの花に、光は必要。ハイビスカスも次々に開き始めて、庭がカラフルになってきた。庭の工事が終わったら、小さな菜園でも作ろうと思う。
それはそうと……。このごろ、庭師問題で頭が痛い。
ドライヴァー問題が解決してホッとしていた矢先、庭師の仕事ぶりが問題なのだ。
この地の緑は放置しておくとぐんぐん育ちすぎるので、定期的にハサミを入れねばならない。その他、落ち葉を掃いたり、水をまいたり、いろいろとやることはある。
にもかかわらず、このごろは、夜間の大学に通う息子に仕事をさせ、自分はさぼってばかり。
飲酒の傾向も強く、身体もよく壊して休む。
数年前までは、せっせと働いていたのだが、息子が手伝えるようになった途端、気を抜いている。数軒の庭の手入れを掛け持ちしているのだが、ほとんどを息子に任せているようだ。
息子には勉強に専念させて、あなたが働きなさい。そもそも息子は学生で、庭師ではないでしょう?
と、何度も諭しているのだが……。
子どもたちのことを思うと、無碍に解雇するのも憚られてきたが、ここ1年ほど、ずるずると、休みがちな日々が続いている。
我が家は一時的な駐在員家族とは違い、この先も長く暮らす可能性があるから、長期的に信頼できる人と付き合って行きたいと、常々思っている。
庭師一家の経済事情その他を知っているだけに、不都合にも目をつぶって、少し気長に付き合って来たのだが、そろそろ、業が煮えて来た。
人を切るとき、自分の気持ちも、切らねばならない。
インド生活。楽なようで、楽を得るためのマネジメントが、実にたいへんである。何年経っても、何か問題が発生する。
土曜の夜は、久しぶりにヴァラダラジャン家(義姉スジャータと義兄ラグヴァン)の暮らすIIS(インド科学大学院)キャンパスへ。ラグヴァンの両親や弟一家、そして教授仲間を招いての夕餉である。
わたしを除く全員が、毎度アカデミックな人々であり、みな、一風、変わっている。と、スタンダードのない世界で他者を変わっている、というのも、いかがなものかとは思うが……個性が豊かすぎる人々だ。
話していて、話を聞いていて、実に飽きない。面白い人たちである。特にこの日は、ラグヴァンの両親がデリーから来訪しているとあり、わたしはラップトップを持参した。
ラグヴァン母のロティカ博士は、インドの文化や歴史に対する造詣が非常に深く、数々の研究書、著書を出版している。
インドの木造船、テキスタイルや刺繍、伝統工芸などに対する知識は深すぎて、わたしにはついていけないのだが、彼女のカシミールの写真を見てもらいたく、ラップトップを持参したのだ。
案の定、写真を見るや、それぞれの工芸の歴史や技法に対して、的確なコメントをくれる。一度、彼女を取材させてもらいたい、と思いつつ、数年が過ぎている。
彼女のことを書き始めると、また話が長くなるので、この辺にしておこう。
それはそうと、このダイナミックな料理は、ノンヴェジ、ヴェジ、二種類が用意されたビリヤニ、即ちインド版の炊き込みご飯だ。
スジャータも料理好き。お菓子作り、パン作りも頻繁に行っており。このマンゴータルトもスジャータ特製だ。
国籍を超えて、嗜好が共通する我が家族親戚。結構、やることが似ているのである。
さて、翌日の日曜日は、日本人の友人夫妻に招かれてのサンデーブランチであった。我が英語の先生、シブを紹介してくれた友人宅。
シブ一家と私たち夫婦がゲストだ。シブの夫、ロネイシュは、我が夫アルヴィンドと同じ「パンジャビの男」。
パンジャビ(パンジャーブ地方出身)の男の生態について知らぬまま結婚し、さまざまな困難辛苦を経験してきた妻、つまりわたしは、シブとの出会いにより、いろいろな謎を解明することができた。
彼女はわたしにとって、英語の上達よりもむしろ、夫婦問題の解決に一石を投じてくれた存在、でもある。
平均的なパンジャビな男の生態についてを、ここで克明に記して笑いを取りたいところであるが、こういうことを書いた日に限って、夫がGoogleの翻訳機能を使って、間違った英文と化した我がブログを読む可能性が高い。
そして、すさまじい夫婦喧嘩に発展すること必至。
いや、そうでなくても、詳細を記した段階で、わが夫、及びパンジャビ男全体の尊厳に関わることなので、書くのは控えるべきだろう。
が、敢えてちょっとばかり書くならば、
「この男……。まじ、病気?」
と思わざるを得ない事態に遭遇したときも、
「いやいや、これはパンジャビ男だから仕方がないのだ。諦めるしかないのだ。彼を選んだわたしの責任なのだ」
と思えるようになったのは、大きい。
国際結婚だもの。それなりに、苦労はあるのよ。
ところで、シブの夫のロネイシュであるが、やたらとアルコールに詳しく、特にウイスキーの蘊蓄がたいそうだ。語る前に、飲ませろ。と言いたくなるほど、シングルモルトについて、熱くしつこく語っている。
それを、真剣に聞いている我が夫、アルヴィンド。二人して、かなり根気づよいともいえよう。
ロネイシュはまた、「わさび好き」でもある。
チューブ入りの練りわさびが大好きで(その時点で、なにか間違っている気がする)、さまざまな、美味なる料理が用意されているにも関わらず、わさびを絶賛するのである。
失礼やろ。
と言いたいところだが……。パンジャビ男だから、仕方ないのだ。
「ミホ、ホットドッグにわさびをつけたことはあるか? マスタードのかわりにつけてごらん。本当に、すばらしい味になるんだから!」
と、いちいち例を挙げて語る。
マヨラーならぬ、ワサラーだ。どう考えても、味覚音痴やろ!
と思う気持ちをこらえつつ、「ぜひ、日本を訪れ、長野県安曇野の大王わさび農場(遠い昔、取材で行った)へ行ってください」という話である。
下は、友人が送ってくれた食卓の写真。あまりにも秀逸なる一枚なので、ここに掲載させていただく。
他のインド勢に、「箸の使い方」を伝授するマイハニー。そう。彼は箸の使い方が非常にうまいのだ。
幼少のみぎり、家族で出かけた中国料理店で、料理が来るのを待つ間、中国人のウエイターに使い方を教わったらしい。
その持ち方、そこに居合わせた日本人3人の、誰よりもうまい。
そんな彼が、得意に指導しているにも関わらず、見ちゃいないシブ。
娘のピクシーも、お母さんの手元を凝視。
妻だけが、「あなた、すてき♥」な視線で、彼の手元を見つめている(なんでだ?)。
そして極めつけは、ワサラーなロネイシュ(通称マリオ)。
好物のワサビを一気食いしたのか、鼻にツ〜ンと来ているらしい。そうまでしてまで、食うか。という話だ。
最早、インド人、日本人、関わらず、生きとし生けるもの、みんな阿呆で、みんな変。
と、しみじみ思わせてくれる、一枚だ。
K夫妻。楽しいひとときを、ありがとう。