義理の両親とアルヴィンドは、階下で映画を観ている。嫁は、数日ぶりにゆっくりとした気分でコンピュータに向かう。
水曜日のサロン・ド・ミューズの記録から、思えば3日しかたっていないのだが、木曜、金曜は夫の誕生日関係で、追われた。
【口中、ジルコニア三昧。これで歯科医も一段落】
誕生日と言いながら、歯科の話題。
木曜は、朝、歯科の治療を完了。奥歯のセラミック製クラウンを、すべて最新のジルコニア・クラウンに変えた。
そもそも、昭和のころ、日本で有毒金属(ニッケル・クロムなど)のクラウンを被せられており、それが30代半ばより、諸々の問題を起こしていた。
ことに、ムンバイ在住時に顕著だった足裏の皮膚疾患、敢えて書くが激しい生理痛は、あるクラウンを除去したことでたちまち快癒し、金属アレルギーに起因していたことがわかった。
インド移住前、米国在住時から、徐々に金属冠をセラミックに移行していのだが、しかしセラミックは強度に問題があった。
わたしは硬い食べ物が好きなせいか、歯の消耗が激しい。セラミックのクラウンが、ことごとくダメになってしまっていたのだ。
ドクターによると、硬い食べ物のせいだけではなく、どうやら歯ぎしりもしているらしい。
セラミックのクラウンを、軽く砕いてしまうのだ。
実は数カ月前、1本の奥歯治療で、短期間に4回もセラミックを砕いた我……。硬いものが好きな割に歯が小さく、クラウンが薄くなってしまうのも割れやすい理由だと言う。
ドクター、辟易。
そんな矢先、ドクターが、最近流通し始めたところの3Mのオール・ジルコニアクラウンを、ラボのスタッフに勧められたらしい。
模造ダイヤモンドとしても有名なジルコニア。常態では白っぽい強度の高い固体である。
その「最先端」のジルコニアでクラウンを作ってもらったのはいいが……上の歯の治療に使えば、下の歯のセラミックを砕く……ということを、更に繰り返し、結局、奥歯の合計5本をジルコニアに変えた次第。
というわけで、もう、噛み放題!
ちなみに、このドクターがオール・ジルコニアクラウンを患者に使用するのは、わたしが初めてだという。
「ジルコニアのクラウンが出てくれて、本当によかったよ。さもなくば、また金属のクラウンに戻すしかなかったからね。ジルコニアクラウンに、感謝しなきゃ」
と、わたしよりも、ドクターの方が、安堵のあまり、胸を撫で下ろしていた。
ちなみに、すべてコンピュータ処理による成型のため、1回目の治療時に歯型をとった後は、2回目に噛み合わせを確認(数分)、3回目でセメントで固定(数分)と、治療にかかる時間は短い。
先進国だと、1本10万円はするらしきジルコニアクラウン。インドでは2万円程度。だからこそ、思いきっての大改造である。
……と歯科の話をしていると長くなるので、このあたりにしておく。
歯科医の話はさておき、木曜9日は、アルヴィンドの誕生日につき、朝から親類縁者からの電話が次々と。午前7時半。まずは、デリーの大叔母からの電話で叩き起こされる。
アルヴィンドがオリンピック観戦で夜更かしをしていたので、アラームを8時にセットしていたのだが、この30分のロスは痛い。
ともあれ、多くの人々が祝福してくれるのは、ありがたいことである。
歯科医の後は、金曜日のパーティのための買い出し。その後、ひと仕事終えた後に友の来訪、そして夜は二人でのバースデーディナーへ。
これがニューヨークや東京であれば、お店選びにも頭を悩ませるところだが、バンガロールは選択肢が少ないので、迷うのも数分。
静かで雰囲気がよく、料理もおいしいTAJ VIVANTA @ MG ROADのGRAZEへ。インドのディナーは遅い。従っては、7時半、8時ごろはゲストが誰もおらず、貸し切り状態。
まさに静かにゆったりと、40歳の誕生日を祝したのだった。
ところで、なぜ今年は夫の誕生日の話題が豊かかといえば、欧米では40歳の誕生日を盛大に祝う習慣があることから、それにあやかっている次第。
インドは欧米ではないが、欧米文化の影響を受けている人も少なくなく、めでたいことは取り入れるべし。
米国では "Over the Hill"、すなわち40歳は山頂、ピーク、折り返し地点に立ったことを盛大に祝う。が、なぜかテーマカラーは黒である。
【工事の現場監督しつつ、誕生日の準備で大わらわ】
本来なら、すでに1週間前には完了しているはずの庭の大改装工事が佳境。この佳境が、長い。長いが、幾度も記した通り、いい仕事をしてくれているので、急かしたくもない。
しかし、今夜は義理の両親も泊まりに来るので、ある程度の片付けなどをすませ、見た目をよくしておきたい。
一方、パーティの準備は、パーティ開始午後7時の2時間前、すなわち5時には完了し、それまではゆっくりと過ごしたい。直前にバタバタするのが嫌いなので、朝9時より、作業に取りかかる。
大工衆もまた、9時過ぎにぞろぞろぞろぞろとやってきて、家の内外で大わらわである。
本日は、インド人の家族親戚とファミリーフレンドのゲストが大半。そして数名の、夫婦でつきあいのある日本の友人たち。
大半がノンヴェジタリアンで、異国の料理はノープロブレムの人たちばかりなので、インド料理は排除。適当なオリジナル料理で、手軽なものを作ることにした。
インドでは、7時開始といっても、人々が集まるのは8時を過ぎてから。もっとも、もっと遅い時間からパーティを開始、深夜すぎても飲み食いをする富裕層たちが多い昨今。
しかし、マルハン家界隈は、そういう派手系のパーティは好まず、遅くとも12時ごろには解散する。ヘルシーな一族である。
8時過ぎから、ドリンクを飲みつつ、おつまみを食べ、歓談。
そして9時半を過ぎた頃に夕食。そしてデザート、コーヒー&お茶、あるいはデザート用のアルコールという流れである。
すなわち、歓談時のおつまみも、結構、大切。
というわけで、こちらはおつまみ系。いつもはインド産の食材ばかりを調達しているわたしだが、今日はMGロードの新しいモールのスーパーマーケットで、美味なパルマ(イタリア)の生ハムを見つけたので調達。
インドの輸入ハムやチーズを扱う店は、気軽に味見をさせてくれるのがいい。
これも味見をしておいしかったので、購入した次第。それに、ギリシャのオリーヴの実など。トマトにキュウリ、そしてディップは……。お手軽にキューピーマヨネーズとマイユのマスタードを混ぜたもの。
手を抜くところは抜くのが、とっとと準備を進めるポイントである。
数年前には作ることができなかった前菜。最近では国産のアヴォカドが出回っており、ワカモレも作れるようになった。このトルティーヤチップスも、インド製なのだ。
こちらも、数年前より発売開始のシンプルなクラッカー。ビスケット王国のインドだが、甘みのないクラッカーを見つけるのは困難だったのだ。
ヨーグルトの水気を切ってクリーム状にしたものに、ドライフルーツをまぜたディップ。これは柔らかなクリームチーズのような触感。人気があるので、定番になっている。
ちなみに、ヨーグルトを漉すのには、木綿の布かコーヒーのフィルターを用いるとよい。ボウルの上にざるをおき、その上に布かフィルターを載せてヨーグルトを。
ボウルにたまる水分は「乳精(ホエー)」ゆえ、捨てずに飲むべし。
ちなみに生ハムの産地、パルマは、パルミジャーノ(パルメザン)チーズの産地でもある。
チーズを作る際にできる乳精を豚に飲ませることで、質のよい肉が育まれるということを、遠い昔、パルマへ取材へ行った時に知った。
左上は鶏のフライ。丸ごと鶏を2羽さばき、骨のない部分を小さめに切り、それはおつまみにした。写真の骨付きの部分は、ディナーの際に出したもの。
なお、醤油と酒、たっぷりガーリックなどで一晩マリネしておいた、立田揚げ風のフライにつき、このままでも十分においしい。
揚げ物だけは、下ごしらえをすませておき、ゲストが訪れてからメイドのプレシラに揚げてもらう。
最初は家族と親戚だけで十数名を招く予定だったが、少々サプライズも含めて、ファミリーフレンドも招き、約30名ほど。
次々に訪れるゲストに祝福され、アルヴィンドもうれしそうだ。
人数が多いパーティを主催する時は、洋服の方が動くのに楽なのだが、今日は誕生日なのでサリーを着用。とはいえ、軽くて動きやすい、最も楽なサリーである。
義継母のウマ、義姉のスジャータ、そして義姉スジャータの夫、ラグヴァンの弟の妻であるアナパマも、すてきなサリーを着用している。
パーティをホストする際は、あちこちに声をかけつつも、自分もしっかり飲み食いし、更にはキッチンの様子を見に行ったりと、結構に体力勝負。
かつては写真を撮り忘れることも多かったが、このごろは、小さくて便利なiPhoneに頼りっきり。仕上がりは今ひとつだが、雰囲気は伝わる。
ところで左上の写真は、日本から訪れている美砂さんと、その妹の美陽(みお)さん。東京在住の美陽さんは、福岡に住む美砂さんがインドへ来ると知り、急遽バンガロールで合流。
実はこの日に到着したばかり。
先日も記したが、この日、すなわち8月10日は彼女の誕生日で、しかもアルヴィンドと同じ40歳。たいへんな奇遇である。
さて、こちらは夕食のテーブル。全体に少なそうに見えるかもしれないが、実は鍋がそれぞれに、かなりでかいのだ。
なにしろルクルーゼの鍋は、多分、日本では一般的に売られていない巨大サイズ。直径28センチ、重さ6kgという激しさだが、大は小を兼ねるということで、普段からよく使っている。
使うたびに、「これは凶器になるな」と思いつつ、しかし、凶器として使うには重すぎて、振り上げた瞬間に自分の肩を痛めるな、とも思う。
今日は、料理にラベルを付けた。以前は、ヴェジ/ノンヴェジの別だけを記していたが、それでも素材などを尋ねられることがあるので、内容物を記しておいたのだ。
まずは緑のマーク、ヴェジタリアン。
左上。この地味なホウレンソウのおひたし風が、いつも人気度が高いメニュー。Namdhari'sのホウレンソウを、主に葉の部分をちぎって茹で、醤油とマヨネーズ少々、すりごま(インドもの)で軽く和えただけのもの。
この簡単すぎる一品が、老若男女、国籍問わず、いつも「おいしい!」と絶賛されて、微妙な気持ち。
右上はクリーミーなポテト&マッシュルームのグラタン。ニルギリスのリッチミルクと生クリームを同量ずつ混ぜたものがクリームソースだ。
バターで玉ねぎを炒め、フライドポテト状に切ったジャガイモ、そしてマッシュルームと干しエリンギを加えてオーヴンに入れただけの簡単料理。
こちらは野菜炒め。ブロッコリー。そしてアスパラガスとベビーコーンのオリーヴオイル&ガーリック炒め。本当は、約2センチほどの厚みで輪切りにしたトマトを、オリーヴオイルでソテーしたものを添えるつもりだったが、忘れた。
今日、冷蔵庫の奥からトマトを発見して、気づいた。トマトがあると色がきれいだったのだが。たいてい、パーティのときには、何かを出し忘れるものである。
さて、赤いラベルはノンヴェジタリアン。マッシュルームのかわりにベーコンを入れたヴァージョンのグラタン。クリームで煮込まれたジャガイモがホクホクと、とてもおいしいのだ。
インドの一般的なオーヴンは、米国のものに比べると小さいので、古いオーヴンを取り出して、2台稼働。古いオーヴン、とっててよかった。
見た目、地味な肉関係。鶏肉はバルサミコ酢と醤油、赤ワインで味付けた和洋折衷の煮込み。これも鶏肉2羽分を裁いた。
右上は、わたしのオリジナル料理。玉ねぎのみじん切りをごま油で炒め、それにナスとマッシュルームのみじん切り大量、豚の挽肉を加えたもの。これ、炊きたてのご飯に載せて食べるとおいしいのだ。
味付けは、わがお気に入りの「博多うまだし」の他に、軽く酒と醤油を入れて煮込んだもの。これも日印みなに好評の味。
ちなみに「博多うまだし」は、数年前に、友人のユカコさんからいただいて以来、愛好している。この日で最後の一袋を使い切ったので、なんとか入手せねば、博多うまだし。本当に便利でおいしい。
さて、食事のあとはデザートだ。タルト生地をクリスピーに保ちたかったので、カスタードクリームとマンゴーのトッピングは直前に。
マンゴーはこのシーズン最後だと思われるチョーサーマンゴー。爽やかな香りと甘みが特徴だ。これにザクロをトッピングして、ミントを載せる。
雑な載せ方に、酔っぱらって面倒になっている自分の行動が見え隠れしている。
こちらは、義姉スジャータが焼いて来てくれたチョコレートケーキとパイナップルケーキ。
外出先の美砂さんに電話をして、「ろうそく、40本」をお願いしていたところ、このような「40」や「HAPPY BIRTHDAY」のキャンドルも買って来てくれたのだ。
これをケーキに挿した時点で、40本のキャンドルを見つめ、
「もう無理。スペース的に厳しい」
と、やる気をなくす我。
「どうしよう。もう、いっか」
とあっさり諦めようとするわたしに、
PAKAKO隊員が、
「いや、やる!」
と一声。
周辺の日本人女子の手を借りて、つきが悪くてすぐに折れるインドのマッチに手こずりつつ、着火。
これは、まだ途中の段階。実はこのキャンドル、「マジックキャンドル」と呼ばれるもので、消えにくいらしい。
しかし消えにくいばかりか、火力が強いということに、途中で気づいた。数本なら気づかないかもしれないが、40本となると、壮絶。
あまりの燃え盛りっぷりに、iPhone握りしめて呆気にとられるの図。これ、一歩間違ったら、火事ですから!!
アルヴィンドと美陽さん、二人そろって吹き消すのだが……
消えない!
アルヴィンドが頑張って、何度か繰り返して、ようやく全部を消したのだった。すべて消えた頃には、ダイニングルームは熱気と煙が充満して、息苦しいほどであった。
それでもって、チョコレートケーキの表面が、熱で溶けていた……。
ところでインドの人たちは、老若男女を問わず、一般的に「別腹」を備えてる。従っては、食後のデザートも、みな積極的に、取りに来る。
お菓子の余りは、ご希望のみなさんにお持ち帰りいただき、料理も肉類を除いてはほとんどきれいに平らげていただき、実にいい感じ。
みなさんにはそれぞれに、ワインやギフトなどの差し入れをいただき、アルヴィンドも本当に喜んでいた。
いい家族や親戚、友人らに恵まれ、幸せなことである。
みなさんも、異口同音に、「楽しかった」「おいしかった」と喜んでくださって、うれしかった。
いろいろと思うところあるが、またしても長くなってしまったので、このへんにしておこう。
ヤクルト王子の妻、PAKAKO隊員からの差し入れのヤクルトをお土産に。
喜ぶボーイズ。
LOVELY!