🏏インド移住前の米国在住時から、「クリケット」とは異様にインドの人々を盛り上げるスポーツだということは認識していた。普段は睡眠不足を嫌う夫が、4年に一度のクリケットのワールドカップ・シーズンには、開催されるその土地その土地の時間に合わせて、たとえそれが深夜でも、起きている。当時はインターネットで試合を見ることができなかったから、ケーブルで試合を受信しているインド料理店などに車を走らせ、インド系米国人たちが集う中、観戦を楽しんでいた。
英国発祥のクリケットは、オーストラリアやニュージーランド、インド、パキスタン、南アフリカなどの英連邦諸国や、かつて英国統治下にあった国々で人気がある。野球の原型とも言われ、各11人の2チームが、攻守交代しながら得点を競う。野球との大きな違いは、そのゆったりとした時間の流れだ。伝統的な国別対抗戦である「テストマッチ」の場合、通常1試合に4、5日を要する。「ワンデイマッチ」でも1試合に7時間だ。
かつては、主要な試合が行われる際は、国民の多くがテレビに釘付けとなるため、各種業務は滞り、一方で交通渋滞がなくなったものだ。特に4年に一度行われるワールドカップ期間中は、その盛り上がりが一段と激しかった。試合中は、たとえ自分がテレビを見ていなくても、同じタイミングで、ご近所のあちこちから歓声や拍手が聞こえて来るため、おのずと試合の運びがわかる。
🏏ところで、IPLというのは、Indian Premier Leagueの略で、毎年5月前後に開催されるクリケットのインド国内リーグだ。2008年に誕生し、同年4月18日に、ここバンガロールで歴史的な開幕試合が開催された。試合形式は「トゥエンティ・トゥエンティ (Twenty 20)」と呼ばれるもので、1試合約3時間程度で終了。時代の趨勢に合わせた短いものだ。
昨夜は、その決勝戦だった。ロイヤル・チャレンジャーズ・バンガロール対パンジャーブ・キングスの試合が、グジャラート州にある「世界最大のクリケット競技場」であるところのナレンドラ・モーディ・スタジアムで開催された。
案の定、試合を見ていなくても、近所から時折、歓声が上がってきて「お、バンガロール、優勢だな……」と察しがつく。実は、今朝は月に一度のFM熊本収録日につき、早起きせねばならなかったことから、昨夜は10時には就寝したかった。夫には「騒がないでよ」と釘を刺していたので、彼は息を殺して観戦していたが(笑)、近所から轟く歓声やら、前のめりの打ち上げ花火の音やらで眠れやしない。結局、起き上がって、歴史的な勝利の瞬間を見たのだった。
🏏クリケットにまつわるエピソードは尽きない。わたしも夫に誘われ、2度ほどバンガロールのスタジアムで観戦したことがある。普段は「時間に遅れがち」な夫が、試合開始時間よりかなり前の到着を目指し、わたしを急かしたのには呆れた。途中で雨が降り試合が休止しても、みな辛抱強く再開を待つ。疲れた。
かつて毎年ニューヨークを訪れていたころ、帰路、欧州のどこかに立ち寄るのが常だったが、2017年はなぜか英国のバーミンガム近郊へ。わたしはゆっくりロンドンに滞在したかったのに、そこでクリケットの「インド・パキスタン戦」が開催されていたことから、無理やり付き合わされた。写真はそのときのものだ。
思えばIPLが始まった2008年の11月、ムンバイで同時多発テロが起こった。そのため、しばらくインド国内は厳戒態勢となったのに加え、複数の総選挙が重なったことで、翌年2009年のIPLの開催は危ぶまれた。しかしながら、南アフリカでの開催が決定、インドの選手ら一同、同国に移動しての試合となった。これにより南アフリカの地元に約1億ドルの経済効果を与え、クリケットのグローバル化(!)が評価されるなどして、話題になったものだ。
今は亡き、義父ロメイシュ・パパは、若いころ、「体調が悪いから」といって会社を休み、クリケット観戦に行ったところ、観客席にいる彼が熱狂的に応援しているところがテレビに映し出され、会社の人にばれたという。まあ、会社の人たちも、仕事をせずに社内でテレビを見ていたという点では同じようなものだが。いろいろと、懐かしい。
『深海ライブラリ』ブログに、クリケットについて記した西日本新聞の連載『激変するインド』の記事や、その他の記録をまとめている。クリケットについて知りたい方は、どうぞご覧ください。
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