Metropolitan Opera House@Lincoln Center, New York.
ニューヨーク旅から戻って、1週間が過ぎた。
それが時差ぼけなのか、単に猫らに安眠を妨げられているせいなのか、多分その両方なのだろう、なかなか思うように眠られない日々が続いていたが、昨日の日曜日にようやく、復調の兆しだ。
4月は観測史上最高か、とさえ言われるほどに暑かったバンガロールが、雨季に入りつつあるこの時節、嘘のように涼しくなり、たちまち高原都市の表情を見せている。朝晩は冷え込み、長袖なのはもちろん、靴下さえ履いてしまうほど。
急激な気温の変化も手伝ってか、先週は喉を少し、痛めかけた。
悪化させてはならぬと、常備薬のアーユルヴェーダの喉用シロップ(TUSSNIL)を飲んだり、大根のハチミツ漬けを作って飲んだり、はたまた定番のホットミルク&ターメリック+ハチミツを飲んだりと、悪化を牽制して、なんとか乗り切った。
うさぎのアリスの猫レポートに詳しいが、今回はまた、NORAのひと騒動があり、帰国直前から振り回された格好となった。2年以上前のNORA以前の自分たちの暮らしが、どんなものだったかが思い出せないほど、猫らとの共同生活が当たり前になっている昨今。しかしながら、猫のことがまだ、よくわからず、発見の多い日々である。
他者と関わり合いながらの暮らしにおいては、人間に対しても、人間以外の動物に対しても、浅薄な思い込みで諸々を判断すべきではないのだ、ということを、教わっているようでもある。
土曜日の夜は、バンガロール市内のリッツカールトン・ホテルへ。このホテルのラウンジで、バンガロールの老舗合唱団ロイヤルエコーの主宰者である大神のりえさんによる音楽会が開かれたのだ。
オペラ歌手でもある大神さん。ピアニストである中学時代のご友人お二人を招いて、すでに何度かチャリティ・コンサートを催されており、今回はその一環として行われたもの。
大神さん以外にも、ロイヤルエコーの合唱なども披露された。中でもわたしが最も楽しみにしていたのは、ミューズ・クリエイションで訪問したことのある盲学校の青年が、今回2曲、ピアノを披露してくれることであった。
ロイヤルエコーの男声合唱団では、ミューズ・クワイアのメンバーでもある岡田さんがフルートを披露。
大神さんの独唱は、すばらしく……。特に、今、ミューズ・クワイアが来週の日本人会総会パーティにて披露するため練習中の、「カッチーニのアヴェ・マリア」を聴けたことは、本当によかった。
旋律を丁寧に追いながら、情感を豊かに表現することの大切さを目の当たりにする。
先日、ニューヨークで観たミュージカル「王様と私」。Shall we dance....と始まると、非常にうれしそうな夫。うれしそうさが伝わったのか、大神さんに手を取られてダンス……と言いたいところだが、ダンスが非常に、ダメな感じのマイハニー。
会場内を「ひきずられる」形で、巡る。
米国在住時は、社交パーティなどでダンスをする機会も少なくなかったので、一度はきちんと習おうと思ったこともあった。インド移住前にグリーンブライアというホテルに滞在時、ダンス体験クラスを取った。
夫のリズム感、踊りのセンスの実態については、すでに知ってはいたが、かなり衝撃を受けた。しかし、練習すればきっと上達するだろうと思いつつ……結局はそのまま。インドでは踊る機会もほとんどなく、諦めてしまったものだ。
ちなみにこちらに記録を残している。久しぶりに開いてみれば、12年近くも前の記憶が、たちまち蘇る。パーティで夫婦が息を合わせて歌う姿は、本当にすてきなので、もう少し歳を重ねたら、練習してみたいとも思う。
「踊り、踊りになってなかったよ」と、意地悪をいう妻に対し、「クマみたいでかわいかったでしょ!」と自分で言い、自分で笑っていた。
平和である。
のりえさんの独唱に合わせてヴァイオリンを奏でる太田さんもまた、ミューズ・クリエイションのメンバーでもある。すてきなドレスは、インドのテイラーで誂えたという。とてもよく似合っていた。
こうして、短期間であれ異国に暮らす間に、ご自身のもつ特技や趣味を披露し、愉しみをシェアできるということは、本当にすばらしいことだと思う。
そしてついには、プラヴィーンの演奏。彼は、ショパンの「ノクターン(第2番)」と、ヴェートーベンのピアノソナタ「月光」を、披露してくれた。
ミューズ・クリエイションのメンバーの一人が、彼らにピアノ指導をしていることは、以前、碓井俊樹氏のリサイタルの記録に記した。プラヴィーンは中でも、とても上手な生徒なのだとのこと。
生徒とはいえ、すでに20代後半で、昼間は銀行に勤務しているらしい。
わたしはといえば、彼に会うのは今回がまだ2度目だというのに、なぜか「親戚のおばさん」くらいの気持ちになってしまい、非常に緊張してしまう。このような場で演奏することは初めてという彼。
1曲目で途中、動揺が見られたときには、動画を撮影しながらも、無駄に手に汗を握ったが、どうにか2曲とも、無事に麗しく弾き終えて、本当によかったと思う。
そんな次第で、ライヴでは自分まで緊張してしまったため、ゆっくりと聴ける状況ではなかったのだが、帰宅して、動画を見直して、しみじみと、目頭が熱くなった。
彼を含め、盲学校の子らは今、キーボード(電子ピアノ)で練習をしており、本物のピアノを弾く機会は滅多にない。
キーボードとグランドピアノとでは、鍵盤の感触や重さが全然違う。特に、このグランドピアノの鍵盤は、重たく感じられたから、彼も戸惑ったに違いない。彼らの施設に、本物のピアノがあったら……と願わずにはいられない。
夜、寝る前に、庭の小径を往復散歩をしながら、とりとめもなく、思う。
ノクターン(夜想曲)と、月光。どちらも、夜の曲。目が見えるわたしたち以上に、常には「暗闇」のなかにいるのであろう、彼らにとって、この旋律は、どのように聞こえているのだろう。どのように感じられているのだろう。
彼の演奏は、彼の雰囲気そのままに、やさしく、穏やかで、静かだった。しみじみと、させられる。
シスター・クレア、プラヴィーン、そしてピアノを教えている清水さんと、わたし。
こういう機会に立ち会うことができて、本当にうれしい。
そして最後は、ピアニストのお二人による、サンサーンスの「動物の謝肉祭」の連弾。これが楽しかった! 動物の謝肉祭とはいくつかの楽曲から構成されていて、その中の数曲が選ばれ、更には谷川俊太郎の詩の朗読が添えられての、演奏だった。
サンサーンスの「白鳥」や、「水族館」は非常に有名な曲なので、耳にしたことのある人は多いだろうし、わたしも好きな曲として、記憶に留めていた。しかしそれが、動物の謝肉祭のなかの一つであるとは知らず、その他の曲についても関心がわき、新たな出合いのある夜であった。
かつては、どこかで心に残る旋律を耳にしても、それがなんという曲なのかを知るのは非常に難しかった。名曲集と呼ばれるCDを買い集めて、当該の曲を探していたころもあった。
ところが今では、ネット上で、さまざまな音楽に出会える。芋づる式に、望む旋律と再会できる。すごいことだと思う。音楽が、いつまでも、どこまでも、続いていく。
さらには、最近ではApple Musicに登録すると、月々わずかな金額で、収めてられている無尽蔵の音楽を、ダウンロードさえできるようになった。本当にいいのだろうか? と思うくらいに、自由に。カテゴリー別に、テーマ別に整理された音楽世界から、自分の望む音楽を、手軽に手に入れられる。
ありがたいことである。
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かくなる次第で、この夜もまた、新しい音楽に親しむ、いいひとときであった。夫婦揃って楽しませていただいた。
さて、来週の12日(日)の日本人会総会パーティでは、ミューズ・クワイアが2曲を披露するほかに、「働き組&男組」合同企画によるプレゼンテーションも10分ほど、実施させてもらうことになっている。
やっと睡眠不足状態から脱し、脳みそがクリアになったので、ここ2、3日で資料を完成させるべく、これから集中的に作業だ。さて、がんばろう。