バンガロールでの諸々の騒動。この件に関しては、バンガロールに関わり合いのある人以外には、さほど興味を持たれぬ事態だと思われるが、ともあれ当事者にとっては知っておくに越したことはない事実も多々ある。
昨日、いろいろな情報源をたどってみた。いずれも偏りのあるもので、なにが事実なのかを探るのは難しい。ましてや、諍いの源が100年以上も昔の話となると。ともあれ、見つけた記事などの中で、参考になったものなどを備忘録として転載しておきたい。
カーヴェリー川の問題を知るには、まず川の地理的な条件をみるべきだろう。というわけで、探してみたところ、見つかったのがこの地図。日本最長の信濃川の2倍以上、全長765キロのカーヴェリ川の水の恩恵を受けているエリア。わかりにくいが、州境は赤い線だ。カルナタカ州に源流をもつカヴェーリー川は、いくつもの川の水を集めて太く、北西から南東へと流れてベンガル湾に流れ出している。
黄色で囲んだのがバンガロール。ダムは赤で囲んだ。カルナタカ側にあるKRSダムというのが、最古かつ、今回の争点になっているダムだ。地理的にマイソール近郊にある。
地図を見てもわかるとおり、ここでの放水を調整することで、タミル・ナドゥ川に流れ込む水量をコントロールできるというわけだ。乾いた砂漠地帯ならまだしも、これだけ川があり、モンスーンの時期には豊かに雨がふる地帯において、なぜここまで、この川の水だけに頼り続けなければならないのか、その点が疑問でならない。
灌漑設備を整え、両州が親身になって相談し合い、互いにとって有効な策を提示し合えるような、建設的な解決法をなぜ探らないのだろう。100年以上も。時代はこんなにも、移り変わっているというのに。
ちなみにイスラエルは乾いた国ながら、その優れた灌漑システムによって農業を行っているという。わたしもよく知らなかったのだが、以前イスラエルを訪れたことのある夫曰く、点滴灌漑という技術だとのこと。
カルナタカ州に至っては、そこまでせずとも、貯水池を整備したり、雨水の有効利用を検討したり、さまざまな手段があるはずだ。が、言うは易し。頼りにならない政治家ばかりを責めたところで、何の解決にもならず。バンガロール拠点の私企業が、アイデアを出し合って、なんらかのインフラストラクチャーを構築してくれないものだろうか。
我々とて、ここの水のお陰で暮らせているわけで、決して他人事ではない。水も、電気も、考えなしには、使えない。
■ここ数日の、カーヴェリー川の水を巡る暴動やその他の影響による経済のダメージは、カルナタカ州とタミル・ナドゥ州あわせて、2200億ルピー(約3400億円)以上にもなるとの見方も。
Cauvery protests in Karnataka cause over Rs 22,000-crore loss, Assocham says
【以下、9月13日(火)に、ミューズ・クリエイションのメンバー宛に送った通信の抜粋】
◎日本領事事務所からのお知らせをみなさんもお受け取りになっていると思いますが、昨日12日の夜から明日14日にかけて、公共の場で4人以上が集まっての行動が規制されたほか、Rajagopal nagar, Kamakshipalya, Vijayanagar, Byatarayanpura, Kengeri, Magadi Road, Rajajinagar, RR Nagar, KP Agrahara, Chandra Layout, Yeshwantpur, Mahalakshmi Layout, Peenya, RMC Yard, Nandini Layout and Jnanabharathiといったエリアにおける外出禁止令が出ています。(←9月14日午前9時に解除)
◎昨日は、2人が亡くなるなど、人的被害も出たようです。燃え盛るバスの画像が出ていましたが、あのバスはチェンナイ拠点のKPNトラベルという会社が所有するもので、56台ものバスが燃やされたそうです。アルヴィンド(夫)によると、バスだけでも50カロール(5億)ルピーもの損害だとのこと。「ちゃんと保険に入っていればいいけど、保険がなかったら、倒産だね」と、神妙な顔で話していました。こんなにも理不尽な攻撃があるでしょうか。気の毒すぎて、人ごとながら心が痛みます。(追記/この後、バスの火災については、保険を搾取するために、敢えて古い車両を燃やすよう、貧困層の市民に火をつけさせたという噂も出た)
◎この数日間に燃やされた車両、停滞したビジネス、その他諸々の損害がどれほどになるのか、見当もつきません。愚かな人間の破壊力のすさまじさに、やり場のない怒りを覚えます。でも怒っても仕方ないので、猫らを撫でながら、気持ちを鎮めています。ここ数日、猫らに粘着的な態度を取りすぎているので、かなり疎ましがられています。
◎メディアが過激なシーンばかりを放映したり、根拠のない噂などが流布するのを警戒したベンガルル市警が、Twitterで最新の安全情報などを発信しています。今日の街の平穏は、ベンガルル市警の尽力によるところが、かなり大きいようです。こちらにリンクをはっておきます。Retweetが多すぎるのが難ですが、街の危険情報なども掲載されるようなので、情報源として利用されるといいかと思います。
https://twitter.com/BlrCityPolice
◎今朝は週に一度の英語の家庭教師の日でしたので、先生であり友人でもあるシブに今回の背景を尋ねつつ、授業ではカーヴェリー川を巡って、これまでなにが起こってきたかがまとめられた記事を読みました。読んだ後、予想外の内容ではなかったはずなのに、かなりの衝撃を受けました。端緒は1892年。英国統治時代のマドラス管区(現タミル・ナドゥ州など)と、マイソール藩王国(カルナタカ州)との間で起こったカーヴェリー川のダムとその放流を巡る諍いが、未だに、大した進展なきまま、続いているのです。
◎カルナタカ州は、カーヴェリー川以外にもたくさんの川があり、水が豊かな州です。灌漑設備を整えさえすれば、決して水不足になることはないはずなのに、そこがなされていないから、足りないのです。水だけでなく、電力もそうです。話しが長くなるので軽く触れますが、インドは原発を作らずとも、電力がそこそこ十分にあるのです。ないのは、供給するインフラストラクチャーです。この件については、以前、農村部に自家発電装置を供給しているNGOの代表から具体的な話しを聞く機会があり、衝撃を受けた次第です。
◎話しを戻してカーヴェリー川。カルナタカ州は、自分の州内に源流があるのをいいことに、タミル・ナドゥに流す放水量を制限したがり、今回も、たかだか10日間、夏で水不足だったタミル・ナドゥへ多めに放水せよという判決に対して、人々が大騒ぎしているようです。その10日の状態によっては、今後も放水量が増える可能性があるようですから、10日限定では終わらぬ懸念があるにせよ、だからって、ここまで騒ぐ理由はまったくありません。しかも車両を燃やして、鎮火するのに水を使って、馬鹿者すぎます。わたしがハニュマーンだったら、そういうバカな人々をひとまとめに籠にいれて、カーヴェリー川に浸して、頭を冷やさせたいところです。
◎インドにおいては、時間の流れが、あるところでは猛スピードで進み、あるところでは、100年前、1000年前と同じようである、とは感じていましたが、まさにその典型です。これだけ人口も増え、産業も変化し、世界は変容しているというのに、カーヴェリー川を巡る諍いに関しては、状況は100年前と、あまり変わっていないようです。ともあれ、改めて思いました。この国の現在を知るには、なんにつけても、英国統治時代までに遡って、物事を見る必要があるのだということを。興味がある方は、ぜひこの記事をお読みください。難しい単語がいっぱいなので、読み進めるのが難しいですが。
■Cauvery water war: When did the dispute start and where are we now?
◎ミューズ・リンクスで実施している「インド・ライフスタイル入門編」のセミナーを受講された方はご存知の通り、多様性と歴史の部分については、かなり熱く、厚く語っています。それは、過去を知らなければ、今、インドで起こっている数年間の現象を見ても、根本的な部分が理解できないからです。今回もまた、その思いを新たにした次第です。