■五感を刺激する朝のセラピー、そして今日も豊かな朝食
夕べは10時に就寝だったこともあり、目覚まし時計は6時に合わせておいた。8時間も眠れば十分だと思ったからだ。にもかかわらず、目覚ましを止めて二度寝してしまい、気がつけば6時45分。夫婦揃って寝過ぎである。
それでもだらだらとしている夫を放置して、妻は散歩に出かける。今朝は曇天だ。施設の敷地をはずれて、近所の農道などを散策したあと、7時過ぎに部屋に戻る。
男女それぞれのセラピストが薬を持ってやってきた。ヨガの前に、4種類の簡単なセラピーを受ける。ベッドに横たわったわたしたちに施されたのは、以下の通り。
①目の洗浄:目尻のところに受け皿をおき、ハーブ入りの水を目頭からじわじわと垂らし、目を洗浄する。すっきりする。
②鼻腔の洗浄:目薬のような容器に入った「ごま油」を鼻の穴に数滴ずつ垂らす。ごま油は日本の料理に使われるような焙煎されたものではなく、生っぽい匂いがするもの。ごま油はアーユルヴェーダのマッサージにも用いられるなど、大切なオイルの一つだ。
③うがい:薬草入りの水でうがいをする。
④オイルすり込み:頭のてっぺん、耳全体、てのひら、足の裏に生薬配合のオイルをすり込んでもらう。
4つのセラピーを終えたあと、二人のセラピストが、「よい一日を」といいながら、小さな花を手渡してくれた。
男性のセラピストが夫に向かって「ちんまり」とした感じで花を渡す仕草が、恭しくもかわいらしくて、微笑ましい。
さて、セラピーの直後、7時半からヨガのクラスへ。
昨日とは少々異なる内容だが、しかしリズミカルな体操的動きがわたしの性に合っているようで、積極的に「やりたい」と思う動きが多い。このエクササイズを知っただけでも、今回の滞在は収穫が大きいと思う。
普段はアシュタンガ・ヨガをやっているが、それとはかなり異なる楽な動きながら、血行を促進する感じで、腰痛などが軽減されそうだ。
さて、ヨガのあとは朝食。すでにヨガの最中から空腹だったこともあり、食事が楽しみである。今朝もまたフルーツではじまり、次いで南インドならではの朝食の副菜に挑戦する。副菜というよりは「おやつ的」なもの。
米麺とともに添えられた液体は、ジャガリー(椰子やサトウキビからとれる粗糖)で作られた甘いスープ。
その隣は、餅のような米団子の中に、ナッツやスパイスが挟まれたものを、バナナの葉に巻いて蒸したもの。日本のちまきを思わせる味わいだ。
どれも経験のために味見をしたが、正直に言えば、朝一番に食べたい類いの味ではない。
ちなみにジャガリー (Jaggery) は健康によい糖として知られ、アーユルヴェーダでも推奨されている。ピッタを鎮めるとのことで、わたしも摂取を勧められた。
やさしくコクのある甘みで、そのまま食べても菓子のような風味がある。わたしは自宅でもオーガニックのジャガリーを調理に使っている。
さて、わたしが楽しみにしていたのは、昨日に引き続き、ドサである。今日はマサラ・ドサがあるというので、すかさずそれを頼んだ。
マサラ・ドサとは、マサラ(調合スパイス)で味つけされたジャガイモを炒め煮たような食べ物。この三角形に折り畳まれたドサの中に、そのカレー風味のジャガイモが包まれている。
昨日のプレーン・ドサもおいしかったが、これもいける。
朝からこんなに力一杯食べていて、いいのだろうか。ドクターは朝、しっかり食べて、昼、夜と徐々に減らしていくのがよい食生活だというが、昨日から、朝はしっかり、昼はどっしり、夜はたっぷりという感じで、どうにも食べ過ぎの傾向にある。
早いところ南インドの料理に飽きなければ、食べ過ぎが続きそうだ。
部屋に戻れば、食後の薬がドアの前に置かれている。薬を飲んだあと、部屋の前のテラスでしばらくくつろぐ。そして11時にセラピーへ。
■全身をハーブのボールで叩きながらのマッサージ。ココナツ風味のランチ
今日のセラピーは、まず全身を軽くオイルマッサージしてもらったあと、ハーブが詰まった木綿のボールのようなものをオイルに浸し、身体全体を叩いていくもの。下の写真のような具合だ。
ときに肌にこすりつけたりもして、やや刺激の強いトリートメント。血行が良くなり、身体があたたまる。
これは腰痛にも非常によく、以前、長時間のフライト前後にこのトリートメントとオイルバスを受けたところ、腰の痛みもほとんど感じられず、機内での疲労感がとても浅く、時差ぼけにも悩まされなかった。
セラピーの直後、12時15分からの呼吸法クラス。2日目ともなると、だんだんコツがつかめて来た。一つの呼吸法を終えたあとには必ず「オ~ム」と唱和する。オ~ム。発声することもまた、心地よい。
呼吸法のあとは、お楽しみのランチタイム。今日のスープはダル(豆)のスープ。個人的には昨日のカボチャスープが好みだが、これもあっさりとしていておいしい。
ランチタイムは、ココナツを多用したものが多かったため、夫が食べられるものが限られていた。
しかし、ダイニングのマネージャーに、「ココナツが入っていない料理はほかにありませんか?」と尋ねたところ、厨房からココナツなしの野菜カレーを持って来てくれた。それもまた美味で、フレキシブルな対応がうれしい。
ココナツだけでなく、マスタードシードを多用するのも南インド料理の特徴。
ココナツオイルを熱し、マスタードシードを爆(は)ぜさせたのち、ココナツの殻の内側から削り落とした繊維部分と、キャベツの千切りを一緒に炒めた料理は、定番の一つだ。
食後は甘くてミルキーなデザート。ローストされたカシューナッツやヤシの実の細切れが入っていて、香ばしさが美味。しっかり食べる。
■フェイスパックでお肌すっきり。集中できない瞑想タイム
満足のランチの後は、部屋で「フェイスパック」のトリートメント。ドクターに、「肌の調子は気になるが、現代的なコスメティクスがどうも肌に合わない気がする」と伝えたところ、フェイスパックを処方してくれたのだ。
なにか得体の知れないパウダーを水で溶き、セラピストの女性が顔にパックを塗ってくれる。乾燥したら洗い流してくださいというので、しばらくは横たわっていた。
乾いたことを確認してバスルームに赴き、鏡を見てぎょっとする。今まで見たこともないほどの、おぞましい「赤茶色」のパックである。しかもテラテラとしている。怖い。
しかしパックを洗い流したら、肌はすっきり。しっとりすべすべ滑らかな感じである。肌に合うようであれば、この粉を購入して帰ろうと思う。
ちなみにインドには、粉を水で溶くタイプの「古来からのパック」がとても多い。サンダルウッドのパウダーなどもその一つだ。
フェイスパックを洗い流したら、もう午後の瞑想の時間である。
最初の数分間はヨガの先生が瞑想の方法などを指示してくれる。その後、横たわって、チャクラを意識しながらの呼吸法に入るときは、すでに録音された音声を聞きながら、指示に従う。
横たわっても、リラックスしても、寝ちゃならんのに、夫がいびきを立ててたちまち熟睡。他の人たちにも迷惑だし、音声に集中できないしで、彼をつついて何度も起こすのだが、何度も寝やがる。
力一杯蹴りを入れたいところだが、そうもいかない。
瞑想の時間だというのに、ちっともリラックスできなかった。
その後、読書をしているうちにも、夕方のセラピーの時間。昨日と同様、腰に重点を置いたトリートメントだ。
■インターネット不通世界。これもまた、然るべき状態か
夕食までに時間があるので、本を読んだり、文章を書いたりしようと思うが、ここ3日ほど、インターネットから隔絶された世界にあることが気になる。
急ぎの用事は携帯電話に連絡をしてもらうよう、関係者には連絡をしているので、メールをチェックする差し迫った状況でもないのだが、しかし、自分が別世界に浮かんでいるようで、妙に落ち着かない。
フロントで、インターネットの復旧について確認したところ、「多分2、3日」とのことなので、わたしたちが滞在している間につながることは無理だろう。
こんなトラブルは初めてのことです。とスタッフは言うが、インドだもの。よくあるに違いない。
ともあれ、今のわたしは、世間とつながらずともよい。ということなのであろう。きっとこの環境にも、すぐに慣れることだろう。
■切実な痛みを抱えて、療養に訪れる人たち。太って帰りそうなわたしたち。
すでにゲストの数人と言葉を交わした。
一人は体格のいいベルギー人のおじさん。あまり言葉が通じなかったのだが、身体(足腰)に疾患があり、かかりつけのドクターから治療するすべがないと言われ、ここを勧められ、選択の余儀なく訪れたのだとか。一人で32日間のプログラムを受けるという。
「ここに来て4日目だけれど、自分の身体の底から力が沸き上がってくるのを感じていますよ。今までにない経験です。特に、すごく鮮明な夢を見るんですよ」とのこと。
もう一人のおじさんは、スイスから来たとのこと。2週間ほど滞在するとのことだが、事故にあったのか、手にはギプスをしていて、足の調子も悪そうだ。
わたしたちのように、比較的カジュアルに、リフレッシュを目的としたトリートメントを受ける人がいる一方で、かなり真剣な治療を望んで来ている人もいる。
しかしいずれにしても、みなの「よりよいライフスタイルを」という静かな熱意が、あたりを満たしている気がする。
7時をすぎると、小雨が降り始めた。この時期の雨は冷たい。傘がないが、7時半の夕食が待っている。バスタオルで頭を覆い、ダイニングへ。今日の夕飯もまた、美味で、どう考えても減量どころか増量して帰りそうで、いや。
ヴェジタリアンは決してダイエット食ではないということを、実証するかのごとくである。
まずは軽くチャイニーズ風のヌードルスープ。ヌードルはともかく、野菜がたっぷりであっさりしていておいしい。
夫は「これは醤油がほしいね。これに醤油を垂らしたら、味がよくなるのに」と小うるさい日本のおやじのようなことを言う。自分は「なに人」なんだという話だ。
メインの料理もまた、豊かな野菜類と豆類。そしてジャガイモ。中でも気に入ったのが、右端の料理。ニンジンやインゲンなど数種類の野菜が、香ばしく焼かれたタマネギとカレーリーフで味付けされている。
煎ったカシューナッツがところどころ入っているのもまたいい。
あまりにおいしいのでダイニングのマネージャーにシェフのことを聞いたところ、5人のシェフが数名ずつ交代で料理を作っているらしい。
レシピを知りたいと切望したところ、少しだったら聞いておきましょうといってくれたので、取り敢えず、昨日のナス入りカレーと、今日のお気に入り料理のレシピを聞いてもらうことにした。
ちなみにカレーリーフとは、kari pattaとよばれるもので、葉っぱそのものに、スパイシーなカレーのような香りがある。南インド料理で多用されるハーブで、油との相性がよく、料理の味を濃厚に引き立ててくれる。
デザートはケララ米をジャガリとミルクで煮詰めたもの。これもまた、素朴においしい。
この滞在を通して、南インド料理のおいしさに開眼するとは、思いもよらなかった。
これまでインドの家庭料理と言えば主に北インド料理で、南インド料理は作る機会がほとんどなかったが、今後、レシピなどを探していくつか挑戦してみようと思われる。