今朝は明け方、かなり冷え込んだ。バンガロールで感じた、もっとも寒い朝だったように思う。しかし6時には起床して、庭を散歩する。散歩の途中、日本から一人で訪れている女性に会った。ここには間断なく、という感じで、日本人が来訪しているようである。
彼女は一週間の滞在だとのこと。初めてのインドで、一人でこのような場所に来るのは、なかなかに勇気のいることではないだろうかと思う。セラピーも、食事も、今のところ問題ないらしく、何よりである。彼女は英語が堪能なこともあり、きっと十二分に楽しめるのだろう。
こういう場所では、ドクターからのコンサルテーションで自分のコンディションを伝え、伝えられることが重要であるのに加え、呼吸法や瞑想のクラスも英語で進められるので、語学力の有無が情報の深度を左右する。
とはいえ、中学、高校程度の単語などがわかれば、理解できることも多いので、じっくりと、積極的にドクターやヨガの講師のアドヴァイスを仰ぐのがいいだろうと思う。
なにしろ、スタッフの人たちはみなのんびりとしていて親切である。不明なことを尋ねれば、やさしく教えてくれる。
今日も今日とて朝食がおいしい。ドサのほかにも、パラタと呼ばれる具入りチャパティ(これはジャガイモ入り)などを食す。食欲は言うまでもなく旺盛だ。
朝食のあと、ロビーのあたりを歩いていたら、顔なじみの日本人駐在員夫人4名が日帰りトリートメントに来ていた。
すでに何度も来た方もあるようで、みなさん事情通である。バンガロール在住4年目にしてようやく訪れたわたしは、ずいぶん遅いデヴューであった。
■温かいオイルを全身に浴びる極楽オイルバス
今日のセラピーはオイルバス。体温よりやや高めに温められた約3リットルのオイルを、二人のセラピストが如雨露のようなもので、身体の左右からたらたらとかけてくれる。
もう一人のセラピストは、流れ落ちたオイルを集めて再び熱し、間断なくオイルが身体にかけられるよう補佐をする。ゆるゆると、温かいオイルが肌を流れ落ちるその心地よさは、極楽。である。
たとえていえば、適温の温泉に浸かった瞬間の心地よさ、のようなものが繰り返される感じ。
いや、それよりも、もっと「まろやか」だ。オイルのトロトロ感が身体全体を優しく包み込み、ともかく、たまらん気持ちよさなのだ。
3人のセラピストが1時間、つきっきりで一人のゲストにトリートメントを施す。
先進諸国では人件費だけでもたいへんなことである。発展途上国であり、過激格差社会のインドであるからこそ、実現できる贅沢である。などと色気のないことを考えるうちにも、眠りに落ちてしまう。
夫もオイルバスを受けたようで、庭を歩く後ろ姿が、見るからにリラックスしていた。声をかければ、
「最高に気持ちよかった~!」
と、溶けそうな表情だ。彼はこのトリートメントを受けるのは初めてのこと。最初は、男性のセラピストに身体を触られるのがいやで、アーユルヴェーダを嫌っていたのだが、すでに慣れたようだ。
そもそも、わたしよりも、彼の心身を慮ってのアーユルヴェーダグラム滞在。その彼がセラピーをまっすぐに受け入れて、ここで過ごす時間を楽しんでいることは、とてもうれしい。
朝のヨガや呼吸法についても、ヨガ師匠にあれこれと質問しながらメモを取っている。自宅に帰ってからも、続けられるものは続けようという積極的な姿勢もまた、すばらしい。
■「ハードコア」もありの、アーユルヴェーダ
アーユルヴェーダのセラピーとは、マッサージやオイルバスのような気持ちのよいものばかりではない。かなり「ぎょっとする」ものもある。
そのセラピーをして、パンチャカルマ(体内浄化・解毒)と呼ばれる。
パンチャカルマ (PANCHAKARMA) とは、5つ(pancha) の行為・治療(karma)という意味で、5つの浄化法を意味する。
たとえば、鼻の穴からオイルを流し込んで鼻の通りをよくしたり、嘔吐や下痢を催させるハーブを飲ませて胃腸の洗浄をしたり、肛門からオイルを注入して大腸を掃除したり……といった具合だ。
パンチャカルマ以外にも、目の周囲に土手を作って、目にオイルを流し込んで(目は開けたまま)視覚をクリアにしたりといった、一瞬怯むセラピーもある。
ちなみに夫は鼻の穴からオイルを流し込むトリートメントでサイネス(鼻腔)の問題が緩和している。
今日のランチは、オニオンスープに始まり、色鮮やかに、フルーツサラダやビーツなど。北インドの定番料理、パラックパニール(カッテージチーズ入りホウレンソウ煮込み)もある。
レモンライスは風味が爽やかで、これもまた美味である。写真にはないが、毎回プレーン・ライスとケララ米(レッド・ライス)も必ず出される。
また、わたしの体質にはあまり合わないので食べていないが、毎食、カード(ヨーグルト)も用意されている。
南インドの人たちにとって、「ご飯とヨーグルト」の組み合わせは、日本人にとっての「お茶漬け」のようなものらしく、食後の締めくくりにヨーグルトかけご飯を食べたりする。
南インドに限らず、ヨーグルトはカレーなどのスパイスの強さを緩和させるためにも、食事の途中でご飯やカレーに混ぜて食べられる「日常食の一部」だ。
■そして滞在も終盤に。シロダラで精神リラックス
アーユルヴェーダといえば、額にオイルをたらたらと垂らすシロダラをご存知の方も少なくないかと思う。精神を鎮め、深いリラックス状態へと導くこのトリートメントは、同時に「強いトリートメント」でもあるため、アーユルヴェーダに身体が慣れていない人が急に受けるのは、勧められていないと聞く。
わたしはこれまで、市井のアーユルヴェーダ・クリニックなどで何度か試したが、必ず2時間のコースにして、最初にアビヤンガのボディーマッサージを受けたあと、シロダラに移行してもらう。
今回も、4日目にして初めて受けるセラピーだ。
体温よりやや高めに温められたオイルを頭上の金盥に注がれ、底のヒモを伝って、オイルが額に垂らされる。
セラピストはゆっくりと金盥をゆらしながら、額全体に、タラ~リタラ~リと、オイルを垂らしていく。最初の数分は雑念が脳裏をぐるぐると巡るものの、やがて深い眠りについてしまう。
そして気がつけば、何時間も寝入っていたかのようなすっきりとした気分になっている。
オイルまみれの髪の毛を「絞る」ようにして油分を切り、数回シャンプーをし、シャワーを浴びたあと、涼風が心地よく吹く夕暮れの庭を歩く。
このひとときはまた、夢のごとき心地よさだ。遠い遠い昔の、銭湯の帰り道の、ほてった身体に涼しげな風が吹くころの懐かしさが、こみ上げてくる。
さて、今日の夕食は、コリアンダーのスープに始まる。ここに来て初めて、同じスープが登場した。具沢山のスープは、セラピー後の身体に、とてもやさしい。
本日の主食はいつものチャパティではなく、タンドーリ・ナン。日本人にもなじみのあるナンである。
精白小麦粉を使い、タンドール釜で焼かれる歯ごたえのもっちりしたパン。栄養価からいえば、いつもの無精製全粒小麦粉で作られる素朴なチャパティの方が高いのだが、このナンも美味である。
北インドのナンだけあり、やはり夫が大喜びだ。
そのほか、大豆を肉に見立てて作られた湯葉風の食品で作られたカレーやダル、野菜の煮込み、野菜のソテーなど、今日もそれぞれに微妙に味付けが異なる料理の数々。
インドには、ヴェジタリアン、菜食主義者が多い。ヴェジ、ノンヴェジの境界線はくっきりと引かれている。
この件については、また時を改めて説明したいと思うが、ともあれ、今回インドのヴェジタリアン世界に足を踏み入れ、その豊かさに感嘆するばかりだ。
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