インドでは、女性だけでなく、男性も同様にテイラーを日常的に利用します。シャツやパンツ、スーツなどは、自分のサイズに合ったものを仕立てるのは一般的なことです。
わたしの夫は、大学入学時から米国に暮らしていたこともあり、大人になってインドで服を仕立てるという経験がありませんでした。
更には、母国の製品のクオリティを信じていなかった彼は、インド移住の直前に、米国で衣類を調達するのだと言い張り、Brooks Brothersなどで、シャツ、パンツなどをまとめて購入して来たのでした。
「インドの製品にも、いいものがあるんだから」
というわたしの話には耳を貸しません。インドに移ってからも、半年ごとの米国旅行で調達するか、あるいはインドにある米国ブランドのDockersなどでパンツ類を購入していました。
ところが1年ほど前、ニューデリーの実家の近くにあるテイラーで、試しにBrooks Brothersの紺のブレザーのコピーを作ってもらったところ、とてもいい感じに仕上がりました。当然ながら、格安です。
これに気をよくした夫。バンガロールでも評判の高いテイラーを訪れ、スーツを作ることにしました。
ローカルの商店街である「コマーシャル・ストリート」にあるPRESTIGEという老舗。数年前、新しい店舗になったとのことで、こざっぱりと美しい店内です。
布は国産でも最も質がいいと言われるブランド、Raymondのものをはじめ、イタリア製の輸入テキスタイルも揃っています。サリーと同様、次々と気前よく布を広げて見せてくれるので、クオリティなどに関する質問をしながら、絞り込んでいきます。
仕立て代は、1着あたり4,500ルピー。1万円程度です。それに生地代が加わります。ちなみに手ごろな布は1着あたり約1万円から、イタリア製は約2万円からとのこと。
インドにしては結構いいお値段ですが、先進国で購入すること、あるいは仕立てることを考えると、非常に安価です。
数種類に絞り込んだら、今度は実際に顔に合わせてみます。白い布で衣服を覆ったあと、店員のお兄さんが、布を当ててくれます。
吟味した末、2、3種類に絞り、まずは一着作ってもらって具合を見て、もしもよければ更に追加で注文するということにしました。
スーツだけでなく、もちろんシャツなども作ってもらえます。布も豊富に揃っており、わたしもここで2種類の生地を購入し、別のテイラーでドレスシャツを仕立てました。
ちなみに女性のスーツも手がけているとのこと。インドでの仕事でスーツを着る機会はほとんどないのですが、しかしカジュアルなサマースーツなど、作っておくといいかもしれません。近々自分のためにも、改めて訪れたいと思っています。
さて、夫のスーツはたいへん感じよく仕上がり、着心地もとてもよいとのこと。スーツだけでなく、カジュアルなパンツも作ってもらったのですが、これらも自分の身体にぴったりとフィットするため、快適なようです。
上の写真、ダブルのスーツ。実はわたしの亡き父が着ていたものです。オシャレだった父は、仕立てのよいスーツをたくさん持っていました。
父が他界したあと、捨てるに捨てられなかった衣類やネクタイなどは、夫のためにインドまで持ち帰りました。夫はいやがるどころか喜んで身に付けていました。
身長は夫とほとんど変わらず、しかし夫よりも横に大きかった父。サイズを縮めることはできるだろうと思い、その後、スーツも数着、インドに持って来ていたのでした。
それらをテイラーに持っていったところ、サイズを調整は可能だとのこと。そして仕上がったのが上の写真なのです。デザインは古いかもしれませんが、しかし夫によく似合っています。
わずか1,500円程度のお直し代で、父のスーツが生まれ変わり、本当にうれしいです。父のスーツ2着が加わり、夫は急に衣裳持ちになったのでした。