一昨日は、久しぶりに夫の買い物に付き合った。インドに移住してからも、夫が主に服を買うのは、年に一度のニューヨークだった。
彼と初めて出会った直後から、彼には伝統的なアイヴィースタイル(和製英語で言うところの「トラッド」)のファッションが似合うと思っていたので、Brooks Brothersを勧めた。以来、スーツやビジネスシャツ、ネクタイだけでなく、カジュアルなシャツなども、Brooks Brothersで調達してきた。
米国を離れてからも、ニューヨーク訪問時には必ず立ち寄り、わたしもまた、夫の服を選ぶついでに、自分の服を買ったものだ。Brooks Brothersのファッションは、老若男女を問わない。年齢を重ねた女性が、凛と背筋を伸ばして紺のブレザーを羽織ったり、あるいは避暑地でシンプルな、しかし質の良い綿のドレスを着ている姿は、すてきだなと思う。
2020年7月。200年近い歴史を持つ同社は、COVID-19の煽りを受けて廃業した。そのニュースを見たとき、一つの時代の区切りを思った。尤も、同社は買収されて、店舗は従来通り存続されているようだが。
翻ってバンガロール。このごろはビジネススーツを着る機会が激減した夫。しかし、パーティや結婚式では、インドの伝統的なフォーマルファッション(「ネルー・ジャケット(バンガラ)」とか「シャルワニ」と呼ばれるものなど)を着る機会は少なくない。
一昨日は、買い物というよりは、かつて作っていたそれらの衣類の「お直し」してもらうための店舗巡りをした。夫は過去3年間で体重を7キロほど落としたこともあり、どの服も緩めになっていた。
1軒目はMGロード沿いにあるP N RAO。2軒目はコマーシャルストリートのPrestige Tailors。どちらも、国内外の質のよいテキスタイルを豊富に揃えていて、シャツやスーツを仕立てることができる。それぞれの店で、かつて作っていたスーツなどを持ち込み、採寸をしてもらい、お直しを依頼してきたのだった。
ちなみに、Prestigeは、バンガロール拠点の不動産開発会社のPrestigeの、オリジンとなる店だ。
途中、チャーチストリートのレストランでランチ。滅多に街歩きをしない夫には、周辺環境の変化に驚きを隠せない。この国の、若者らの勢いが、食事をするひとときの間にも、手に取るようにわかる。
もう、何十年も書き続けているが、「利便性が高い」=「人間にとって善きこと」とは限らない。なにもかもがオンラインで入手できるようになった昨今。しかし敢えて外に出て、世界を眺めることが大切だと、改めて思う。