🌏当記録は、結婚20周年を記念して、2001年7月の記録を発掘/転載するものです。(2021年7月)
翌日、日本の家族がアルヴィンドの家を訪れた。この日、「メヘンディー」と呼ばれる女性たちのパーティーが、実家で行われていた。結婚式に参加する親類縁者の女性たちが集い、手や足に「ヘナ」と呼ばれる染料で緻密な図柄を施してもらうのだ。
いよいよ家族の対面。アルヴィンドの姉のスジャータ(義姉だがわたしより年下)も、南インドのバンガロールから到着していた。みな、それぞれにハグ(抱擁)を繰り返し、対面を喜んでいる。わが母は感極まって、目を潤ませている。
すでにメヘンディー塗りの職人(アーティスト)が二人来ていて、女性たちの手足に模様を描いていた。妹も母も、もちろん花嫁のわたしも、交代で塗ってもらう。その間、父や妹の夫(以降、K夫)は、アルヴィンドの家族が手配してくれた日印通訳のインド人青年を介して、親戚の人たちと話をしている。
メヘンディーを塗ったら2、3時間はそのままにしておかねばらならない。
すっかり乾いたところで、泥のような染料をそぎ落とすと、赤茶色に染まった模様が現れる。しっかりと濃く発色させたい場合は、丸1日、塗った手足を濡らさないようにする。
本来は、女性だけがたしなむものだが、妹の夫が腕の目立たないところに「蝶」の柄を施してもらうと、アルヴィンドもうらやましくなったらしく、自分名前の由来である「蓮の花」を描いてもらう。
それを見ていたスジャータの夫ラグバンもうらやましくなったらしく、メヘンディー職人の前に座る。なんでも「カメ」が好きらしく、職人に頼むのだが、二人ともカメなど描いたことがないらしく、すごく下手くそな仕上がりで、笑ってしまった。
その夜はタンドーリ・フードの晩餐だった。タンドールと呼ばれる深い土釜に、串刺しにしたチキンやラムを入れて蒸し焼くのだ。バルコニーでは「タンドーリ屋」が3名来ていて、汗を流しながら釜の前で調理している。あたりは、いい匂いでいっぱいだ。
タンドーリ・フードのほか、料理担当の使用人が作るカリフラワーやオクラ、豆、カッテージチーズなど、多彩なカレー、プーリと呼ばれるクレープ状のパン、それにおなじみのナンなどが食卓を賑わせる。
それにしても、スパイスがしっかりとしみ込んだ、ジューシーなタンドーリ・チキンのおいしいこと! すでに序盤から、父親をはじめ、日本勢は極めて旺盛な食欲を発揮。スジャータが心配して、「ミホ、これは前菜だからって、家族の人に説明して」と耳打ちするほどだった。
それにしても、スジャータとラグバンの気配りは大変なもの。わたしたち家族が戸惑うことのないように、ひとつひとつ、こまやかに注意を払ってくれる。
食事を終え、一息ついたところで、日本からのお土産を家族のそれぞれに渡して、一日をしめくくった。
これがメヘンディーと呼ばれる入れ墨。ヘナ(HENNA)というミソハギ科の低木の葉をすりつぶした黄色い染料を水で溶き、肌にペイントする。
メヘンディー職人のお兄さん。それぞれの女性に対し、それぞれに異なる精緻なデザインを施していく。ひたすら描く。無口。ちなみにこの写真は義継母ウマの手。手首のあたりがクジャクの頭になっている。クジャクはどの女性にも、同じモチーフとして使われている。スイスイと流れるように描くさまは、実に見事。
彼女はアルヴィンドの従兄弟アディティヤの妻、タヌー。タヌーはとてもお洒落な女性で、いつも美しいサリーやサルワール・カミーズと呼ばれるワンピースを着ている。
染料が乾くまで、しばらく乾かす。少々乾いたら、ライムの汁に砂糖を加えた物をコットンなどに浸し、メヘンディーを湿らせるようにすると、色が長持ちするらしい。できるだけ長い間、水に濡らさないのがいいらしい。数時間たってすっかり乾いたら、泥状の表面を削ぎ落とす。
ほれ。と仕上がりを見せてくれる親戚。それにしても、その額の赤丸は、大きすぎやしまいか。
姫は手が乾燥するまで物に触れられないので、アルヴィンドに食べ物を与えてもらう。姫と言うよりは、餌を与えられている犬。
本来は男性はやらないメヘンディー。しかし日本男児、恐れることなく挑戦。「蝶々」の図柄を依頼するK夫。それを見て、「男はやっちゃいけないんだよ~」と忠告するアルヴィンド。
忠告してはみたものの、うらやましかったのか、自分もしてもらいたくなったアルヴィンド。自分の名前(アルヴィンドはサンスクリット語で「蓮」の意)にちなんで、蓮の花。ちなみに、「蓮」の文字はわたしが紙に書いたのを、職人さんが模倣して書いてくれた。うまい! しかし、蓮の「絵」は、いまいちだな。
ライムの絞り汁を浸したりするので、こんなにぎとぎとになった。それにしても、作業はバルコニーで行われ、冷房も利かない状況だから、ともかく蒸し暑くて叶わない。ともかく、全身がベタベタとして、たまらん。
近寄るとこんな感じ。はっきりいって、気持ち悪い。というか、ぎょっとする。手首の優美なクジャクにご注目。
別のバルコニーでは、タンドーリフードのケータリングサービスのお兄さんたちが来ていた。即席のテーブルで、せっせと料理を作っている。生地が重なりパイ状になって焼き上がるパン(パラタ)のおいしかったこと!
こうして材料を見る限りでは、どう贔屓目に見てもおいしそうには見えない。従って調理風景を見ている間は、さほど料理に期待をしていなかった。
ラムの挽肉を長い鉄串に巻き付けて、焼く準備をしているお兄さん。「シーク・カバーブ」と呼ばれるポピュラーな料理。
このお兄さんは、香辛料につけておいた鶏肉を串に刺している。これをタンドーリ釜で焼くと、「タンドーリ・チキン」となる。食べるときは、もちろん串からはずして食べる。
これがタンドールと呼ばれる窯。炭火でじっくりと焼かれたタンドーリチキンは、抜群においしかった。日本勢一同、その味にすっかり魅了され、食欲、とどまることを知らず。あとにも先にも、この時食べたタンドーリチキンが、一番おいしかった。
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