2001年の7月、結婚式を挙げるために、当時暮らしていたニューヨークから夫の故郷、ニューデリーを訪れた。初めてのインドで受けたカルチャーショックは多々あったが、最も強く感銘を受けたのは、インドの人々が、いかに「家族や親戚との交流」や「友人知人らとの社交」を大切にしているか、ということだ。
宗教、階層、コミュニティ、地域、言語……と、多様性に溢れたインドだが、家族との絆の強さ、社交の重要性は、遍く共通していると思われる。
日本に暮らしていたころは独立独行、友達も少なく、自分のキャリアの構築(&ときどき恋愛)が最優先事項だったわたしだが、ニューヨークに渡ってからは、かなり社交の機会が増えた。各種パーティに参加するのをはじめ、自分でも開催するなど、もてなされ、もてなすことにも慣れていった。
しかし、インドに移ってからは、米国の比ではないほどの「集いの多さ」を実感した。最近でこそ、子供たちは子供たちで……という趨勢が強くなったが、一昔前までは、週末は家族や親戚が集まって食卓を囲む、あるいは友人たちを招いてパーティをする情景は一般的。子供が大人に対して臆することなく自分の意見を言い、討論することができる土壌は、このような社会的背景も影響している。
さらには、各宗教の行事、冠婚葬祭が重要視されるインドでは、特に年の後半はホリデーシーズンに突入。通常でも週休3、4日感覚のインドが、週休5日制くらいになるから、スケジュール管理は至難の業になる。
家族が病気になったら、会社を休んで、病院に連れて行く。病人が一人で病院に行くことの方が稀だから、インドの病院は待合室が込み合っているし、病室には付き添いの家族が泊まるためのベッドも用意されている。
良くも悪くも、インド世界は人間同士の絆が強く、共に支え合いながら生きている。わたしたち夫婦は身内の数が少なく、故に冠婚葬祭の頻度も低いから問題ないが、これが大家族で親戚も多いとなると、しばしばあちこちに駆り出されて、忙殺されるという側面もあることは否めない。
そんな社会的背景のインドに暮らしているがゆえ、わたしも郷に入り郷に従っているうちに、気づけば社交のスキルが上がっていた。ミューズ・クリエイションで8年もの間、毎週金曜日に自宅を開放して多くのメンバーを招き入れていたことも、全国的に「ご自宅の敷居が低い」インドだからできたことである。これが日本だったら、決して実現できなかった。
🇯🇵さて。週末を新居で過ごすようになってから、人々を招く頻度が増えている。
一昨日の土曜日は、YPOバンガロール支部の企画によるIntegration Dinnerのホストを務めた。新メンバーや、普段、交流の少ないメンバーを招き、互いを知り合うのが目的。わたしたちも以前、他のお宅に招かれ、楽しいひとときを過ごした経験がある。
我が家がホストとなるからには、日本らしさをアピールしたい。毎度、自己流の日本料理風な料理でもてなし、昨年の「日本風味なヴァレンタインズ・ディナー」で使用した日本のお茶の歴史を巡るプレゼンテーションの準備をし、さらにはインドで日本酒や梅酒の販売を試みている友人から梅酒のサンプルをもらっていたのでそれをお出しするなど、随所に日本を漂わせた。
わたしはインドに移住して、加工食品などを口にする機会が激減したこともあり、MSGなどの化学調味料や食品添加物をほとんど口にしなくなった。極力、新鮮な食材を用い、最低限の調味料で、しかしそこそこ、インドの人たちの口に合うメリハリのある味にするのは、簡単ではない。
特にヴェジタリアン向けには、魚の出汁はとれないので、昆布と椎茸が決め手となる。ヴェジタリアンにも卵を食べる人、曜日によって肉も食べる人など、いろいろ条件があってややこしい。なにしろ多様性ゆえに、配慮も要される。
ちなみにスイーツは抹茶クリームのスポンジケーキ。なかなかにファンシーな見栄えで、おいしく出来上がった。卵を使っているので、「卵は避けている」というヴェジタリアンの友人には別のスイーツも用意していたのだが、「お菓子の卵は大丈夫なの」という人もいて、コケそうになる。ほんとうに、何年住んでも面白いインド。
料理の詳細を書きたいところだが、長くなるので割愛。
ともあれ、土曜日は朝からキッチンに立ち、あれこれと料理の準備をし、ゲストを迎えたのだった。
一人の欠席もなく、21名のゲストが来訪してくれ、語り合い、飲み、料理を楽しんでくれ、実に有意義かつ達成感の高い土曜日であった。特に、日本酒に詳しい友人や、日本料理が大好きすぎる友人らは、本当に喜んでくれた。今回は大人数だったこともあり、盛り付けなどは、細部にまで行き届かない点があった。
次回は「Strictly Non Veg(厳格な肉食/非菜食)な友人を小人数招いて、心置きなく鰹だしやら卵などを用い、一人ずつ丁寧に盛り付けた、上品な日本料理作りにも挑戦してみたいと思う。
【食材の調達先は以下の通り】
◉MAIN DISH/刺身やうなぎ(熊本産)など良質な日本の食材
https://www.maindish.in/
◉WoollyFarms/オーガニックなどの新鮮な野菜
https://woolly.io/
◉Living Food/Burrata チーズほか、高品質なインド産の食材
https://livingfood.co/
◉Brown Koji Boy/手作りの味噌やたまり醤油
https://brownkojiboy.com/
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